女子高潜入大作戦・2
さてそれからが大変だった。
スイッチが入ったすももは、卒業した先輩に制服を借りて来ると、いきなりエニシをひったくって自室に閉じこもったのだ。
オレたち他のメンバーはドアの外で待っていたのだが、最初の方は聞こえていたエニシの悲鳴や拒絶の声も三〇分ともたずに掻き消えている。
そして一時間半ほどの時がたち、ドアが開いたとき、それは現れた。
「なっ……」
普段冷静なアオイをして言葉を失う。
それほどに――
「も、もう、そんなに見ないでよ……!」
エニシは美少女と化していた。
もう一度言おう。
エニシは美少女と化していた。
「どうなってんだ」
そう呟いたのは、オレだったかアオイだったか。
それほどに、エニシのメイクアップは完璧だった。
元々が女性と間違えられるような線の細さだったが、これはもう間違うとかそういうレベルではない。女性だ。
薄いチークに、淡いリップ、それ以上は男のオレには何がされたのかはわからないが、化けるとはこういう事を言うのだろう。
本当は女性でそれを隠していた、というほうがよっぽど説得力がある。
「ふっふっふー、どう?」
「あ、ああ、これならカンペキだ……」
普段なら調子に乗りすぎなんじゃないかと思うくらいの笑顔で自慢げにするすももだが、流石にこれは頷かざるを得ない。
「ふむ、問題はないようだね」
様子を見に来た博士も太鼓判を押す。
「……ええ、ボクの感情を除けば」
「君たちは、人類の平和のため、身命を賭す覚悟を持った者であると私は信じている。期待している」
「身命以外の大事なものを賭してしまった気がするんですが……」
そんなエニシの声は誰にも届くことなく、すぐに潜入捜査へ出発となったのだった。
近郷市立簾藤女子学園。
近郷市に一校しかない女子高であるが、特段お嬢様学校というわけではない。
普通科の他に看護科や食品科があり、進路が早々に決まった少女たちの進学先として昔から親しまれている。
極端に偏差値が高いわけではないが、普通科以外のそもそもの募集人員が少なめであるので、そちらを狙う人にはそれなりの倍率の学校だ。
ちなみに、すももは普通科である。
実家が町工場で、工業のエキスパートである彼女だが、この街には工業高校は男子校しかない。俺も男子校出身だが、隣の県の男子校だったので、よくこの高校とは交流行事で一緒になり、スポーツ等の対抗戦でしのぎを削ったものだ。
それはさておき、すももは普通科ながら、ロボコン部を立ち上げ、全国優勝を果たしたというのだから、その技術の高さが推し量られる。
そんな普通科の校舎内を、すももとエニシが歩いていた。
と言っても、直接見ているわけじゃない。オレたちは入れないからな。
すももの髪留めに隠しカメラ、耳に小型イヤホン、襟元にマイクを設置、それを学校の隣の掘っ立て小屋で受信しているのだ。本当に簡易なプレハブにパイプ椅子と長机を並べ、機材を乗せているだけだが……。
……いや、そんな事よりこれ大丈夫なのか?
その、盗撮とか、そういう……。
「ほら、行くよ」
「ちょっ……ちょっと待って」
そんな心配をよそに、すももに手を引かれて校内の廊下を進んでいくエニシの姿が映った。
嫌がっているその姿すら、少女のようにしか見えない。
そんなエニシの姿に、女子生徒たちが気づいたのか、数人が集まってくる。
「ももっち~、その子だーれ?」
「うん、ちょっと後輩の子」
どうやらすももの友人たちらしく、しげしげとエニシを見つめている。
ウィンドウショッピングをしている時のすもものような真剣な瞳だ。
エニシの内心がバレない事を祈って焦りに焦っているであろうことは、その顔色が蒼白なので推し量られるが、うん、頑張れ。
「へぇ~、こんな美人の子なんか居たかな~」
クセっ毛でくりくりとした目の、猫のような女の子が言う。
「看護科だからね。こっちの棟では見かけないよ」
「あーなるほど~」
「じゃあナースでありますか! これは萌えますなー!」
今度は黒髪おかっぱの女の子が、妙に芝居じみた口調で、なめまわすようにエニシに視線を這わせる。
この子は、かなりキャラ付けをしているようで、たぶん後年思い出してそのたびに叫びたくなると思われる。
「名前は?」
入れ替わるように前に出た、眼鏡で長身の少女が言う。
「ミドリちゃん」
「ほう、ミドリか」
いやしかし、すもものこのアドリブ力はなんなんだ。
打ち合わせしてた記憶がないぞ。
「ミドリは普段何を?」
「部活はなんでござる?」
「何組~?」
と、質問攻めにされてしまい、困惑するミドリことエニシ。
「あ、あの……その、急いでいるので……」
「そうなの。ちょっとこの子に普通科棟を紹介してるの」
半ば強引に、すももがエニシの手を引いて抜け出す。
級友たちはブーブー言っていたが、特段追いかけるほどでもないらしく、その場に留まっていた。
すももたちはそのまま教室に入っていく。3の1とあるが、その自然な入り方からして、おそらくすもものクラスなのだろう。
中は――
「……中継を切ろう」
そう呟いたのはアオイだった。
「なぜ?」
博士は心底不思議そうに話すが、オレもアオイに同意見だった。
チャンドラも頷いている。よし3対1。
「すもも、映像は一度切る。何かあったら連絡してくれ」
「オッケー。……でも何で?」
「何ででもだ」
博士とすももの質問を受け付けず、中継を切る。
浮世離れした博士は理解していないだろうし、すももにとっては日常だからよくわかっていないんだろうが……
あれは見てはいけない。
確かに、今日は暑い。
だが、いかに下にスパッツを履いているのだろうとはいえ、多数の女生徒たちがスカートの中に下敷きで風を送り込んでいるのは――
少なくとも男子が踏み込んでいい世界ではない。
もっとたぶん何か出てくるだろうし。
エニシは……きっと秘密の花園の秘密を知るだろう。
女性不信にならない事だけを祈る。




