女子高潜入大作戦・1
あれは、博士の一言から始まった。
「今回、波動関数が極めて高い場所が見つかった」
いつもの通りにブリーフィングルームに集められたオレたちに向かい、開口一番、そう告げたのだ。
「で、それはどこです?」
アオイはすぐに、結論を引き出したがる癖がある。
焦っているというわけではなく、合理的な考え方が好きなんだろう。
あと後ろで意味も無くチャンドラが踊ってるのは、単に踊るのが好きなんだろう。
「うむ、近郷市立・簾藤女子学園だ」
「えっ!」
声を上げたのは、すももだった。
「どうした? 何か知ってるのか?」
アオイが視線鋭く言う。
「ひっ」
その視線に気圧されてすももが息を飲んだ。
「おい、アオイ」
「……いや、怒っているわけじゃない。目つきが悪いのは生まれつきだ。気にするな……」
バツが悪そうなアオイ。
確かに、こいつは普通にしてても殺し屋みたいな目をしてるもんな……。
「……それで、何か知ってるのか?」
努めて笑顔にふるまうアオイだが、それはそれで般若みたいな形相だ。
ブリーフィング中でなければ、写メを撮って後で見せつけたいくらいの顔である。
「えっとね、レン女は、今私が通ってるとこ」
「何だと!?」
「は?」
「えっ!」
声を上げたのは、アオイだけではない。
オレもそうだし、エニシもそうだった。
チャンドラは「インド人もびっくり!」とか言ってるがお前は日本人だろ。
「そんなに驚かなくても……高校生なのは知ってるでしょ?」
「そ、そうだったっけ? いつも基地にいるような気がしてたからな……」
オレの言葉に、すももはむくれる。
「そりゃ、訓練と出動ばかりで単位は危ないけど、ちゃんと通ってるよ?」
「で、でも、近郷市って言ったら、ここから結構あるだろ?」
基地のある十把市から隣になる。電車で一時間弱かかるはずだ。
ちなみに麻座理市は更にその隣で、もう少し遠い。
「んー、まだ何とかなる距離だよ」
そうは言っても負担だとは思うが……本人がそう言うならいいんだろう。
のんびりしている方だし、電車内で本を読んだりしているのかもしれない。
「あれ? そういえば、ボクと同い年だっけ? 今二年?」
エニシが言う。
そういえば、エニシも現役高校生だったな。
「……三年」
「うそ! 受験やばいんじゃない?」
「うん……」
おいおい。受験生なのに、戦ってたのか。
「誰か勉強教えて……」
「その心配はいらない。その気になれば東大にだって合格させてみせよう。相応のカリキュラムを組む」
博士がサラリと言う。
世界三大頭脳とか、現代のダ・ヴィンチだとか和製アイシュタインとか、マスコミが何か大喜利みたいに異名を競ってつけているおっさんだもんな……。
でも、常人がついていけるか、はなはだ疑問だ。
次元が違いすぎて、小学生にエナジードリンクをバケツで飲ませるようなものだろう。
配慮とかできるタイプじゃないし。
「い、いや、私は工科志望なので……」
実際、すももの工業技術は目を見張るものがある。
過去にロボコンで全国優勝の経験があるという話だったし、ゴリュウロボの回線が切れて危機に陥った時にも、その場で直してしまったほどだ。
その気になれば推薦も軽いと思うんだが、受験生だった頃の自分もA判定が出ても不安だったしな……当人が安心できないというのもわかる。
「工科でも構わないが」
「遠慮しときます……それより、任務の続きをお願いします」
「ふむ。いつでも言いたまえ。さて、本題だが……」
博士が、状況について説明を始めた。
いつもの空間モニターに投影される、各種資料。
正直、その資料の意味はよくからないし、グラフも理解できない。
その辺は読み飛ばしつつ、博士の説明に耳を傾ける。
なんでも、基地のレーダーで観測された波動関数が、レン女校内に異常に高い数値を叩きだしていたというのだ。
その数値は900k。kはクズリュウだ。
これまでジャフウスイが現れた場所は、1000k前後の数値が常であり、今回も奴らが出現する可能性が極めて高いという。
だが、実際にどんな事が行われているかは不明らしい。
ジャフウスイは、人間とは価値観が違うのか、妙に不条理な作戦を好む。
チョベリバスの作戦はそれが顕著であり、人々の美的センスを破壊するために、珍妙な絵画を売りさばく――といった意味不明な作戦をしかけてくることもある。
一方で、サゲール将軍は比較的力押しの作戦が多い。
それを踏まえると、数値の割に明確に何かが起きているわけではない今回、チョベリバスが暗躍しているのかもしれない。
「端的に言えば、今現在、敵の存在は確認されず、当然ながら問題も発見されていない。そこで潜入調査を行ってもらいたいのだ」
「ちょっと待ってくれ博士!」
オレは反射的に声を上げてしまっていた。
「すもも一人で調査させるのはいくらなんでも危険だろう」
「レッド……」
すももが息を飲む。本人は自分ひとりで行くつもりだったんだろう。
「癪だが、オレもウシオの意見に賛成だ。先に敵が気づいて奇襲されることもありうる」
珍しくアオイがオレの意見に同調する。
「早合点だな。無論、いかに須々木くんがそこの学生とはいえ、彼女だけを送り込むつもりは無い」
「へ?」
すももの目が点になる。
「あ、誰か組織の人を送ってくれるんですか?」
「いいや。それでは急な戦闘に対応できない。そこで――」
博士の視線が一点に向けられた。
「は?」
そして、エニシが間の抜けた声を上げた。
瞬間、その場に居たメンバーの全てが博士の意図を悟る。
「エニシに女装して潜入してもらう」
「ええええええええええええええええええっ!」
絶叫するエニシ。
普段、呑気にしている姿は見る影もなく、顎が外れんばかりの叫びだった。
しかし、そんな本人はともかく、オレを含めて他のメンバーの想いは違った。
「よし、それじゃあ頼むぞエニシ」
「お前ならやれる」
「一緒に頑張ろ?」
「ナマステ」
全員のその表情を見て、エニシはがっくりうなだれる。
「……拒否権は……ないよね……」
駅のホームで見かける生活に疲れたサラリーマンを彷彿とさせる肩の落とし具合ながら、エニシは小さく頷いた。




