日々のかけら・2
カエンバショウとの戦いから一週間後――
今日は日曜だというのに、ジャフウスイの反応がまるでない。
波動関数が低いこんな日は、まる一日なにも起こらないのが常だ。
その原因はわからないが、そういう日はたまにある。
オレたちとしては骨休めが出来ていいんだが、エニシは朝の特撮番組がゴルフで休みな事を嘆いていた。
普段の俺たちの方がよっぽど特撮めいた事をしている気がしないでもないが、別腹らしい。
さて、そんなわけで今日はヒマなのだ。
RE:ショックネスにも動きは見られないし、久しぶりに自室でゆっくり――
などと考えていると、すももが急に部屋のドアをノックしてきた。
「ねぇ、今ヒマ?」
「ヒマっちゃあヒマだが……」
答えつつ、ドアを開けると、そこにはピンクのワンピース姿のすももが立っていた。
「……どうしたんだ?」
「折角の休みなんだし、買い物に付き合ってくれないかな」
「荷物持ちって事か?」
「……んー、そういう事にしとくね」
一瞬考えをめぐらすように天井を仰いだすももだったが、すぐに笑顔でそう言った。
「どういう意味だ」
「いいから、行こ?」
母親に腕を引かれる子どものように、そのまま強引に連れ出される。
……まぁ、確かに別に用事もないし、いい気分転換にはなるかもしれないな。
――なんて考えていたオレが甘かった。
郊外のショッピングモール・プラズマ友田。
二階建てのモールには、家計にやさしい量販店だけでなく、おしゃれなショップも軒を連ね若い女性もよく訪れる。
カートいっぱいに買い物する人の姿も珍しくはない。
が。
「これは……流石に……」
両腕にかかる荷重に顔をしかめる。
というのも、両の肘を中心に、大量の買い物袋がかかっていたからだ。
おまけに掌の上にはたくさんの箱。
それはショッピングの結果であり、服であり靴であり生活必需品である。
いや、改造人間だから、重いとはいえこの程度たいしたことは無いんだが……バランスは別だ。
ジェンガめいた状態でフラフラと揺れている荷物を、落とさないように歩くのは至難の業。
あと、あまり軽そうに見せても不自然すぎる。
……無暗に神経を使うな、これ……。
「な、なぁ、すもも、もういいだろう」
「ダーメ。休みなんて早々ないんだから」
すももが小悪魔めいた笑顔を見せる。
確かに、俺たちの仕事は、訓練訓練に出動だ。
波動関数が高い場合は、基地で待機も多い。
その一方で、給料は悪くないから――オレは命令違反でマイナス気味だが――買う時はまとめてというのも理解できる。
できるが……いくらなんでも限度というものがある。
「わ、わかった。じゃあオレはそこのベンチで休んどくから、気兼ねなく買って来てくれ」
そこの、といっても指を差せないので、ひょっとこのように顔を傾けて示す。
ベンチや椅子が並ぶ、休憩スペースだ。
「……え? なんで……?」
「ん?」
心なしか、すももの声のトーンが落ちる。
「……私との買い物、つまんなかったんだ」
おかしい。
なんか話が変な方向に行っている……!
「い、いやそういう話じゃ……というか男でショッピング好きな奴ってそうそういないだろ」
「……やっぱりつまんないって事だね」
積み上がった箱のせいで顔を窺い知る事ができないが、その声は明らかに落ち込んでいる。
くそっ、なんだかよくわからないが、これはまずい。
「ちょっ、タンマタンマ! この荷物、宅急便の手配してくるから、ここで待ってろ、な!」
とにもかくにも、こんなに荷物を抱えていては話どころじゃない。
返事も聞かず、オレは宅配カウンターに駆けだした。
――一〇分後。
宅配の手続きを終え、元の場所に戻って来ると、すももの姿が無い。
「あれ?」
近くの店にでも入ったのかと見渡すも、どこにも見当らないのだ。
「しまったな……」
これは相当に怒ってしまっているに違いない。
頬をかいても、もう遅い。
高校が男子校だった弊害か、どうにも女の子の機微がわからん……。
と、そこに、とたとたとすももが小走りで戻ってきた。
怒っては……いないように見える。
「はい」
「え?」
すももが差し出したのは、今川焼きだった。
「あ、ありがとう」
紙製の袋に入っており、食べ歩きに嬉しいが、とりあえず近くのベンチに腰をかけた。
すると、すもももその隣に腰を下ろす。
彼女もまた、今川焼きを手にしており、ぱくりと頬張った。
その一連の動作を、ぽかんと口を開けたまま見ていると、すももが怪訝そうに顔を向けて来る。
「食べないの? もしかして嫌いだった?」
「い、いや、そんなことは無いが……怒ってるもんだと」
言って、しまったと心の中で自分を殴りたくなる。
わざわざほじくりかえさないで流してた方がよかったんじゃないのか。
「そりゃ、そうなんだけどね」
ほらー!
……あれ?
言うほど、怒っているようには見えないけど……。
「でも、ちょっと買いすぎたかな~なんて思うもん」
ちょっとではない気がするけど、それはそれとして。
「そ、そうか……」
「……考えてみたら、ゆっくり話すの、久しぶりな気もするね」
「かもなあ」
確かに、このところ、ジャフウスイだけじゃなく、怪人は出るは怪獣は出るはで、もうてんやわんやだった。
自由時間は、もう自室で気絶してる近い有様だったし、基地内で他のメンバーとまともに話してない気がする。
「……大丈夫?」
すももが、オレの顔を覗き込んでいた。
その距離感にドキリと心臓が跳ねる。
改造された強化心臓だけど。
「だ、大丈夫って何が?」
「最近、疲れてるみたいに見えるなって」
「あ、ああ。そうかもな」
「……」
はぐらかすような物言いをしてしまったのが良くなかったのか、すももはまた表情を曇らせた。
ダメだ。そういう事が言いたいわけじゃないのに。
と、そんな時、通路の壁面に設置されたTVモニターが目に入った。
それは、モールのCMを流すのではなく、TV番組をそのまま流しているらしい。
この休憩スペース用の、ちょっとしたサービスというか娯楽なのだろう。
今の時間、休憩スペースは人気が無く――どうやら、向こうで何かステージイベントをやっているらしい――俺たちしか座っていないそこでは、TVの音だけが響いていた。
「あ、この事件知ってる?」
明らかに気を使ったすももが差したのは、そのTVだった。
映っているのはお昼のニュース番組。
何でも、最近頻発している怪事件、それと同時に目撃される仮面の人物についての特集をやっているらしい。
先日は、大火事の中、得体の知れない炎の怪人と、それと戦う仮面の男が目撃されたという。
って――
これ仮面ホッパーの事だろ!
オレじゃねーか!
幸い、現場は煙が凄まじく、写真には撮られていないようだ。
せいぜいが、煙の向こうに微かに人影が見える程度。
それを無理やり引き伸ばし、どアップで映し出していた。
流石にそれを仮面の男とするのは無理があると思うし、実際かなりバラエティよりな特集なんだが、コメンテーターが「あれだけの煙の中で平気で直立している時点で生身の人間ではない。普通は煙に巻かれて昏倒している」なんて核心を突いてくるから油断できない。
見た事がある人のインタビューなども流され、謎のヒーロー、なんて言い方までされていた。
こっちの心臓がもたねえぞ。いや、さっきも言った通り強化心臓だけど。
「ねぇ、この仮面のヒーローってさ……正体気にならない?」
「そ、そうか? お、オレは別に……」
気には、ならないな。
嘘じゃないぞ。
だって、正体は誰よりも知ってるし。
「えー、私は気になるよ。だってゴリュウジャーでもない別の仮面のヒーローが居るって事でしょ?」
ダメだ。すももの言葉は筋が通っている。
これは否定できない。
「そ、そうだな。言われてみれば確かに気になる……」
「でしょ? でもね、私、正体わかったかも」
「は?」
思わず間抜けな声が漏れた。
冗談かとも思ったが、すももの表情は真剣だった。
「え? え?」
「やっぱりさ、ゴリュウジャーみたいな先端科学って、そうそうマネできないと思うんだ。だから、正体はゴリュウジャーの関係者だと思う」
「……!」
当たらずとも遠からじというか……過程は違うけど結果が収束している……!
こ、これはまずい。
「い、いや、それはないんじゃないかな」
「でも、明らかに秘密持ってる人がいるじゃない」
「!?」
「絶対その人が正体だと、思うけどなあ」
あ、終わった。
一瞬のうちに、脳内を走馬灯が駆け巡る。
ドクトル悪魔に、チョベリバスに、サゲール将軍に……ああ、なんで悪党ばっか出て来るんだオレの記憶。ほとんどプライベートなく戦ってるからかチクショウ!
「この際だから言っちゃおっかな」
絶望するオレの目の前で、すももが小悪魔めいた笑みを見せる。
オレにはそれが死神の鎌に見えた。
「ズバリ、九頭竜博士でしょ!」
「はぁ!?」
反射的に、大声を上げてしまった。
近くに他の客が居なくてよかった。
もし居たら全員振り返ってるレベルの声を出していたと思う。
「ど、どうやったそうなる……」
「だって、ゴリュウジャーの技術を作ったのも博士だし、博士だったら新しいスーツも作れるよ、きっと」
「それはそうかもしれないが……」
「プロトタイプとかあると思うんだ」
妙に真剣なすもも。
彼女は、ふだんほんわかしている割に、思い込んだら一直線なところがある。スイッチが入ってしまったんだろう。
「この間の火災だって、私たちがサゲール将軍と戦った日じゃない? その戦いの直後だから私たちが基地に戻るまでの間に博士が出撃したんだと思うの」
「へ、へぇ……」
すももはサゲール将軍と戦った採石場と火災現場は距離が明らかに遠いので、まさかオレがその正体だとは思っていないようだ。
実際には、一旦ギガントマンに変身しテレポーテーションで移動したのち、ホッパーに変身したんだ。
人がいないなら、ギガントマンのギガント水流で火災を消す事もできたが、まだ逃げ遅れた人がいたので押し流すわけにはいかないしな。
「博士が変身できるなら、つじつまは合うよね?」
ひそひそ言うその姿は、ウワサ好きのおばちゃんのようでもある。
いくらオレでもそれを言葉に出しはしない。
まだ死にたくないからだ。
「ね、こんど博士を追跡調査してみないかな?」
「つ、追跡調査って……」
「探偵みたいじゃない?」
「どっちかと言うと、こないだ女子高に潜入したエニシみたいだな」
「あーあったねえ!」
満面の笑みですももが応える。
まぁ、エニシからしたら二度と思い出したくない記憶だろうが……。
「あれ、面白かったよね!」
「そうだったな。たしか――」




