ヒーローはつらいよ・3
「ここならいいでしょ?」
怪人女に連れてこられたのは、町外れの廃工場。
不況のあおりなのか、手つかずのまま、ほこりの堆積する薄暗い廃墟だ。
何らかの金属加工に使うらしい機器には、蜘蛛の巣が張っている。ガラスというガラスは割れ、工場の周囲もススキが伸び放題である。
無論、他に人影はない。
「一つだけ聞かせろ」
「何だ」
「なぜ人をさらう?」
「くくく……なぁにそんな事?」
笑いながら女の姿がモザイクタイルのように変化していく。
それは、人型のトカゲ……いや、カメレオンだった。
てらてらと光る鱗に覆われた肌が艶めかしくすらある。
半球状の目は、ともすれば愛嬌があるようで、しかし、殺意を孕んでいた。
「ワタシはカメレサンダー。見ての通りステルス能力を持つ高性能怪人」
「それでさらったのか……道理で証拠が残らないわけだ。だが、答えにはなってないな」
「せっかちな男は嫌われるわよ」
ぺろりと、長い舌を蠱惑的に動かす。
「簡単よ。組織のための奴隷にするの。働きバチは多いに越したことはないじゃない?」
「そんな事だろうと思ったよ」
このバカどもがよくやる手だ。
そして、オレのホッパーイヤーにはわずかな気配が届いてきていた。
どうやら物陰に配下を隠しているらしいな。
この数……地下にアジトがあると見ていいだろう。
あいつらホントどこにでもアジト作るな。
白アリかよ。
なら、さらわれた人もここにいるかもしれない。
「時間が惜しい。とっとと始めるぞ……変……身!」
おなじみの変身ポーズを決め、仮面ホッパーの姿となる。
その間、僅か1ミリ秒に過ぎない。相手には攻撃のヒマもないわけだ。
「バカめ。かかれっ!」
現れる全身タイツの戦闘員たち。
「ポィー!」
出てきた所に正拳突きをお見舞いする。
もぐらたたきの様にあっさり倒され吹っ飛んでいく戦闘員たち。
違法な薬物などで常人より遙かに強化された戦闘員であっても、改造人間とは比ぶるべくもない。
一〇人あまりをあっさり片づける事に成功した。
が、気づけばカメレサンダーの姿がない。
「フフフ……今頃気づいたようね」
カメレサンダーの声がどこからともなく聞こえてくる。
どうやら、アジトの音響設備を使っているようだ。
そうでなければホッパーイヤーで居場所はすぐわかるし、奴らもそこまで馬鹿じゃない。
「ワタシがどこにいるかわかるかしら?」
なるほど、擬態能力で風景にとけ込んでいるらしい。
だが……。
オレのギガントアイからすれば、丸見えだった。
ギガントアイには透視能力のみならず、熱視認能力もある。
サーモグラフ状の視界には、壁にはりつく赤い熱源がはっきり写っていた。
「……」
づかづかと歩いて近づき……
「えい」
ぽかりと頭を殴る。
「ぎゃっ!?」
まさか攻撃を受けるとは思っていなかったのか、間抜けな声とともにカメレサンダーが姿を現した。
周囲の風景に合わせて色を変えていた表皮の細胞が、驚きを映したようにちかちかと点滅する。
「ば、ばかな!?」
「悪い」
もうそうとしか言えん。
気の毒だが、悪である以上このまま倒させてもらう。
「ちょっ、ちょっとまっ……」
「ホッパーキイャアーーー!」
……結局、カメレサンダーはろくな攻撃もできず――
「こんなの認めないーーーーーっ!?」
悲しい断末魔と共に爆死した。
あまりにも虚しい勝利だ。
勝ってこんなに気が重くなるなんて……。
なんだろうな……。
これで誘拐された人たちも助かる。
……なのに、なんだこの釈然としない気持ちは?
結局、地下のアジトから誘拐されていた人たちも無事、助け出したわけだが……。
「……はぁ」
ゴリュウジャーの基地へ帰ることを考えると、更に気が重くなる……。
それならいっそ――
……って逃げるわけにはいかねえよなあ……。
気は重いが、オレは基地へと帰った。




