ヒーローはつらいよ・2
麻座理市。
人口約十万の地方都市。有名観光地でもないが、かつて造船業の中心地として栄えた事から、今でも港湾労働者が多い。近頃の景気回復を受けて、賑わいを取り戻しつつある。
そんな麻座理市で、数日前から忽然と行方不明になる人が続出しているという。
それも働き盛りの男性ばかりだ。
白昼堂々の消失事件であり、公園や時には会社のオフィスで、近くに居た人がふと目を離したその瞬間に姿が消えているという摩訶不思議な事件だった。
単なる誘拐なら、連れ去る姿も目撃されるだろうし、神隠しと言っていい。
「しかし探すって言っても、手がかりがないんじゃな……」
駅前まで来たものの、早くも途方に暮れる。
「やっぱり聞き込みかなあ?」
「いえ、暗黒係数の高い場所を探してみましょう」
エニシとチャンドラ。親子にも見える同い年の二人。
チャンドラは本当にしっかりしてるし、オレも時々敬語で喋ってしまう時がある。
「暗黒係数が高いところってジメジメした所よね……」
暗いところが苦手なすももが肩を落とす。
確かに、暗黒風水帝国はじめじめした風通りの悪いところ――俗に悪気が溜まる場所を好む。
「よし、じゃあ路地裏辺りからあたってみるか」
オレたちは手分けして調べる事にした。
ところが、オレもあちこち調べたがまったく手がかりがない。
数時間後、再び駅前に集合したおれ達だったが、その表情から、誰も芳しい成果を得られていないことは明白だった。
「ちっ、おかしいぜ。全く奴らのいた形跡がない」
そうなのだ。
いかに風水獣とはいえ、活動の痕跡は残るはずだ。
特に、悪の気の塊である奴らが動けば、そこに悪気が溜まる。
それに、その姿を見た者がいないというのはあり得ない。
奴らの外見はやたら目立つし。
「そうですね。いつもでしたら、悪の気が高まっているのを肌で感じるのですが、少なくとも 風水獣が出るほどの気配はありません」
「おかしいな……ん?」
と、ふと、金属がこすれ合うような異音を感じ、駅前の雑踏に目をやった瞬間――
「あ」
何てことだ。
わかってしまった。
この騒ぎの原因が。
目の前にいるのは、胸元のはだけた露出度の高い上着に、ミニスカートというド派手ないでたちの女性。
チョベリバスといい勝負だ。
……いや、問題はそこじゃない。
体内から響く金属のこすれ合う音、それはつまり、目の前にいるこの女が、改造人間である事を示している。
本来なら聞こえるはずもない、ごく僅かな音。
だが、オレのホッパーイヤーは誤魔化せない。
それにギガントアイで透視した所、案の定、機械構造が見える。
……RE:ショックネスの仕業だこれ。
完全に奴らの怪人じゃねーか!
怪人なら人間に化けるのは容易いし、それによって風水的痕跡を残すこともない。
まずい……。
非常にまずい。
一人ならいくらでも打つ手はあるが、今はゴリュウジャーとしての活動中だ。
ゴリュウジャーの力は風水災害に特化しているから怪人には通用しないし、そもそも怪人を見つけた何てどう説明する?
ホッパーイヤーとギガントアイで見つけたなんて言ってしまえば、オレは死ぬ。
参った……どうするか……。
「おい、レッド、お前こんな時に何じろじろ女を見てるんだ」
「え?」
オレの肩を、アオイが掴んでいた。
「……え、レッド……そんな……」
すももが悲しげな目でこっちを見てくる。
言われてみれば、オレが凝視していたのは、布の面積より肌色が多い女性だ。
「いや、ちょっと待て……」
「ふざけるなよ。人の命がかかってる時に、何考えてんだお前!」
違う、と言う間もなく、アオイの拳が頬に突き刺さる。
「ぐっ……」
「やめてアオイっ!」
すぐさま、すももが止めに入るが、アオイの怒りは収まらない。
「いい加減にしろ、すもも。お前が甘い事ばかり言うからコイツが気を抜くんだ」
「そ、そんな……」
「アオイ君も待ちなさい」
「ちょっ、ちょっと落ち着いて」
チャンドラとエニシが、それぞれアオイとすももの間に入って場を取り持とうとするが……アオイの怒りは収まりそうにない。
実際、アオイの言い分もわかる。
オレだって、人命がかかってる時に鼻の下伸ばしてるような奴には付き合いきれない。
だが、そうは言っても、アイツほんとに怪人だし、ほっとくわけにはいかねえ。
……くっ。どうする?
……仕方ない。
力技で行くしかねえ!
「キャ、キャサリンじゃないか!」
オレは怪人女に向かってずかずかと歩いていった。
「え、レッド……」
「こいつは馴染みの情報屋でな。なっキャサリン?」
「は? アナタは……」
いぶかしむ女の耳元にそっとささやきかける。
「話を合わせろ。RE:ショックネスの怪人だとここでバラされたくはないだろ?」
「きっ……貴様」
女の表情が一瞬こわばるが、不自然なほどの笑顔に変わる。
「あ、あら、久しぶりね。情報がほしいのかしら?」
「ああ。頼むよ」
そんなオレたちの様子に、ほかの4人はあっけにとられていた。
「……本当に、知り合いなのか?」
「そうよ? 何か問題でも?」
それにしてもこの怪人、ノリノリである。
「それはそれで問題かなあ……」
すももの声がちょっと怖い。
何で機嫌悪くなるんだよ。
「チャンドラさん、あれがオトナなのかな?」
「ふむ……インドではあんなに露出は多くないですからね。どちらかと言えばスリランカよりでしょうね」
顔を赤くするエニシと全くかみ合わない会話するチャンドラ。
「なに? 他の人には教えられないだと?」
とにかく引き離すべく、言ってない事をさも言ったかのとうに言って強引に話を持っていく。
「え、ええ。アナタだけよ」
そう言いつつ、オレにしか聞こえない声で怪人女は続けてつぶやく。
「ふっ、よくぞ見破ったと言いたいところだけど、ワタシもわかっているわよ。ホッパー、貴様が聴覚を強化されているのと同様に、ワタシも視力を強化されているからね。お前の体内構造だってわかるわよ」
いや、オレも見えてるけどな。ギガントアイで。
「どういうつもり?」
「オレもお前も人目が邪魔だってだけだ」
「……いいわ」
言って、怪人女は背を向け、歩き出す。
「私が情報を教えるのは、この人だけよ」
「わ、悪いみんな。そういうことだから、情報はちゃんと掴んでくる。待っててくれ」
「ちょっとぉ~」
「おい、待てよ」
背中に引き留める声を聞きながら、オレは怪人女と街の雑踏に消えていった。
いかに三種のヒーローの力を持っていても、正直振り返る勇気は持てなかった――




