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1. 完璧なる不真面目

「――主よ。お目覚めの時間です。本日の朝食は、東方の極上米を用いた白飯、神獣の卵で作った黄金の出汁巻き、そして最上級魔鯛の西京焼きとなっております」



白銀の髪を揺らし、完璧な一礼とともに現れた古代精霊――シルフィ。その声で、テリーは世界最高峰の絹で包まれたベッドから、ゆっくりと上体を起こした。


時計を見る。正午を少し回ったところだった。


この世界に転移してから自分のことを「テリー」と名乗ることにした。本名が水無月輝元なので、学生時代からテリーという渾名で呼ばれていたからだ。水無月輝元みたいな禍々しくて難しい名前をこの世界では使う気にならない。だからしもべであるシルフィにもその旨伝え済みである。



前世であれば、この時間はすでに徹夜明けの二日目に突入し、血走った目でパソコンの画面を睨みつけ、上司からの「まだ終わらないのか!」という怒号に胃を削られていた頃だ。昼飯といえば、デスクの片隅で冷め切ったコンビニのおにぎりを、味も分からずに胃袋へ放り込むだけだった。


だが、今のテリーは違う。



「……ん。そこに置いといてくれ」



寝癖のついた黒髪を乱暴に掻きむしり、テリーは寝室からリビングへと移動する。

漆黒の魔導衣は、寝間着代わりに扱われてシワだらけだったが、神々の加護が宿っているため、一瞬で汚れもシワも自動クリーニングされる。どこまでも至れり尽くせりだ。


ソファに深く腰掛け、シルフィがトレイに載せて運んできた朝食を口に運ぶ。

一口食べた瞬間、脳が歓喜に震えた。



「美味い……」


「お気に召して光栄です。無限食糧魔導庫が、主の深層心理が今一番求めている『味付け』を完全に再現いたしました」



前世のコンビニ飯で完全に壊死していたテリーの味覚が、毎日劇的に再生していく。

続いて、足元にのっそりと近づいてきた神獣――大虎のレオが、テリーの膝に大きな頭を擦りつけてきた。一国を滅ぼす爪を持つ伝説の獣が、今はただの巨大な猫のように甘えている。テリーがその極上の毛並みを撫で回すと、レオは満足そうに喉を鳴らした。


食後、テリーはリビングの窓から外を眺めた。

窓の向こうには、美しくも禍々しい魔力を放つ『絶界の神樹海』が広がっている。時折、巨大な魔獣の影が森の奥を横切るが、この敷地には魔神の【絶対多層次元結界】が張られているため、木の葉一枚、虫一匹すら侵入することはできない。


完璧な安全。完璧な自給自足。そして、完全なる「無労働」。



「おい、シルフィ。本当に、今日一日、俺は何も作らなくていいし、誰も助けに行かなくていいんだな?」


「はい、我が主。あなたがそうしてソファで怠惰に時間を潰し、前世の漫画や小説の記憶をシステムで具現化して読み耽る……その『健全な引きこもり行為』によって、あなたの魂のエネルギーは最高値で安定します。それこそが、世界の裏側の深淵を調伏する唯一の鍵なのです」


「最高だな」



テリーは心底から笑った。

この世界の魔法システムは非常に洗練されている。脳内の【万象解明システム】に念じるだけで、前世の娯楽(小説、映画、ゲーム)を魔術的な幻影として完璧に再現し、一人で楽しむことができるのだ。

技術を学ぶ必要も、魔力を練る訓練をする必要もない。ただ「楽しんで時間をドブに捨てること」が、この世界を救う最大かつ唯一の業務なのだ。



「誰が働くかよ。俺は死んでもここから出ないからな」



テリーは確固たる意志とともに、システムで呼び出した前世の娯楽コンテンツの画面を空中に広げ、今日という貴重な一日を全力で浪費し始めた。

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