4. 第三の調査「衣服のハッキング、帝国の隠密を骨抜きにする『もこもこ』の呪い」
次にレイが目をつけたのは、テリーが『衣服ギルド』の老職人ガルフを通じて発注したとされる謎の衣服「ルームウェア」の余り布だった。工作員の一人がガルフの作業場からキラーウールの糸で編まれた淡いベージュの布切れ(シルフィのセットアップの端切れ)を盗み出すことに成功した。
「ふん、ただの毛織物ではないか。これが王国の衣服界を震撼させているだと?」
レイは軽蔑混じりに、その布切れを指先で触った。
次の瞬間、レイの脳裏に「実家の母の温もり」と「どこまでも広がる暖かいお花畑の幻影」が強制フラッシュバックした。
「……っ!? は、はうあぁ……っ!」
指先から伝わるこの世のものえないなめらかさと圧倒的な多幸感。布に触れているだけで、日々の過酷なスローライフ(諜報活動)で張り詰めていた精神がドロドロの液体のように融解していくのを感じた。
「レ、レイ隊長!? 大丈夫ですか、顔が信じられないほど弛緩していますよ!」
部下たちの叫び声でレイはハッと我に返り慌てて布を投げ捨てた。彼の背中には冷や汗が流れていた。
「お、恐ろしい魔導具だ……。この布は、触れた者の『闘争心』と『国家への忠誠心』を根こそぎ奪い去る、最凶の精神汚染兵器(リラックスの呪い)だ。これを我が帝国の鉄血の軍隊に投げ込めば、一瞬にして全軍が戦意を喪失しその場にごろ寝してしまうだろう。テリーは、衣服の形状をした『広範囲無力化兵器』を開発している……!」
ただ気持ちいいだけの部屋着の端切れは、帝国諜報部によって「国家転覆級の精神兵器」へと格上げされた。




