1. 帝国の動惑、国境の異変と「謎の孤高なる存在」
大陸の北半分を支配する軍事国家『バルドゥール帝国』の不落の城塞。その地下深くにある暗号作戦室に緊迫した空気が張り詰めていた。
「……信じられん。あの『グラナート公爵家』が一夜にして解体され王国第ニ位の『ハインツ公爵』すら失脚、王都の物流インフラが完全に再編されたというのに王国の正規軍は一度も動いていないだと?」
帝国諜報部の総監である隻眼の老将・ガザは、机に叩きつけられた報告書を睨みつけていた。帝国の緻密な情報網が弾き出した結論は、あまりにも荒荒しいものだった。
一連の政変の裏には王国の差し金ではなくどの国家にも属さないただ一人の「黒髪の魔導師」の影があるという。
「彼の名はテリー。王国とは一切の関わりを持たず迷いの森の境界線に居を構え元聖騎士エクレアと、神話級の風の精霊を平然と従えている男です。王国すら奴には指一本触れられずただ腫れ物に触るように黙認している状態です」
若き精鋭工作員・レイが、冷汗を流しながら補足する。
「王国すら支配下に置かない孤高の怪物が、何も目的を持たずにそこにいるわけがない。あの『引きこもり』に見える生活は、世界を欺くための高度な情報遮断だ! レイ、お前が直接、潜入班を率いて『テリー』の正体、戦闘能力、そして奴を我が陣営に引き込むための『弱み』を徹底的に調査せよ。我が帝国が世界を統べるための、絶対的な鍵を掴むのだ」




