8. 究極の怠惰、もこもこに溺れるニートたち
その日の夜、リビングには前世の高級リゾートをも凌駕する「完璧なニートの巣」が完成していた。
テリーは、新調した黒のスウェット上下に身を包み「人をダメにするクッション」にダイブ。その左右には、もこもこウェアに身を包み完全に野生と緊張感を失ったエクレアとシルフィがソファに深く沈み込んでいる。
「ふぅ……。やっぱり、この肌触りと伸縮性だよ。服のストレスがゼロになると、脳のアルファ波が通常の3倍は出てる気がする」
「ボス……もう、剣を握るどころか、指一本動かしたくありません……。この『すうぇっと』という服は、人間の闘争心を奪う呪いの魔導具ですね……。ですが、最高です……」
エクレアは、パーカーのフードを深く被ったままとろけた顔でラノベを胸に抱いて寝息を立て始めている。
「我が主……明日の買い出しですが、この服のまま行っては駄目でしょうか……」
シルフィも、もこもこの袖で眠そうに目をこすりながらテリーの膝の上に頭を乗せてすっかり眠気に身を任せていた。
「んー、リサの分も作ってあるから、明日渡せばいいよ……おやすみ……」
テリーは、もこもこウェアを着たレオの柔らかい背中に手を埋めながら深い深い眠りへと落ちていく。
王都の貴族たちは、ハインツ公爵の失脚以降「あの迷いの森の怪物が、衣服ギルドとローゼンバーグ家を巻き込んで次なる国家規模の防衛魔導衣を極秘裏に開発している」と深刻な会議を重ねていたが、当の本人が必死になって作っていたのはただの「家から一歩も出たくなくなる最強に可愛い部屋着」であった。
最高のご飯、最高の部屋着、そして誰にも邪魔されない最高の有給休暇。それらを完璧に維持するためだけに最強の引きこもりは今日も圧倒的な魔力を無駄遣いしながら異世界のスローライフをダラダラと極めていくのだった。




