5. 衣服ギルドの老職人の驚愕、常識を覆す「伸縮性(ストレッチ)」
服がほぼ完成した段階でテリーは仕上げのボタンや細かい縫製の補強パーツを大量に仕入れるため、王都の『衣服ギルド』の最高顧問である老職人・ガルフを茶室に招いた。ガルフは王族のドレスも手がける、この世界のファッション界の頑固な重鎮である。
しかし、テーブルに置かれたテリーのスウェットやニットを見たガルフはこれ見よがしに鼻で笑った。
「……ふん。テリー殿、料理や魔法でのご活躍は聞いておりますが、衣服に関しては完全な素人のようですな。何ですか、この締まりのないダボダボとした締まりのない布の塊は。服とは、貴族の体型をコルセットで厳格に補正し背筋を伸ばして威厳を示すためのもの。このようなだらしない衣服、王都の人間は誰も見向きもしませんぞ。ギルドの素材を分ける価値もない」
老職人の頑なな態度。テリーは何も言わず、「まぁ、理屈はいいからこれに腕を通してみてよ」と、ガルフの体型に合わせて即座に空間魔術で仕立てた大きめのグレーのスウェットを手渡した。
ガルフは不快そうに顔をしかめながらも、渋々スウェットに袖を通し、その瞬間――彼の老いた目が、かつてないほど見開かれた。
「な……っ、何だこの、皮膚と一体化するような滑らかな肌触りは……!? それに、コルセットのように一切締め付けないのに、腕を動かしても、背を曲げても、布が私の動きに合わせて『伸び縮み』するだと……!?」
この世界の服には「伸縮性」という概念がなく、動きやすさは布のゆとり(サイズを大きくする)だけで調整していたのだ。生地自体が伸縮し、かつ裏地の起毛が体温を優しく包み込む。
「おまけに、このダボッとしたシルエットは、私の老いた醜い太鼓腹を完璧に隠し、洗練された『大人の余裕』を醸し出すではないか……! テリー殿、これはくだらん布ではない、人間の肉体を『束縛』から解放する、アパレルの大革命じゃ……!!」
老職人はその場に崩れ落ち、自分が作ったゴワゴワの最高級絹ガウンを脱ぎ捨て、テリーのスウェットを着たまま「もう一生、これがいい。ギルドの最高級ボタンなど、いくらでも持って行ってくれ!」と涙を流すのだった。




