2. 素材のバグ、伝説の「キラーウール」との極限タッチ
テリーが目指したのは、肌触りが極上で伸縮性に優れかつ見た目もルーズで可愛い「オーバーサイズ・スウェット(裏起毛)」そしてシルフィ用の「もこもこニット」の再現だ。
しかし、この世界の衣類ギルドから取り寄せた一級品の羊毛や綿は、どれも中世基準の織り方でありゴワゴワとしていて硬くテリーの敏感肌にはチクチクとした不快感が残った。
「ただの羊の毛じゃ前世のあの『包み込まれるような柔らかさ』が出ないな。もっと細くて空気をたっぷり含む原毛が必要だ。……シルフィ、この世界で一番柔らかい毛を持つ生物って何?」
「それでしたら、北の凍土に生息するSSSランクの魔獣『キラーウール(人喰い羊)』でございますね。その毛皮は神の衣のようになめらかですが、近づく者を一瞬で肉塊に変える凶暴さを持っています」
「よし、捕獲しに行くぞ」
テリーは一瞬で北の極寒の地へ全員を転送。目の前に現れたのは、家ほどもある巨体ですべてを噛み砕く凶悪な牙を持った地獄の毛玉のようなキラーウールだった。
「メェェェェ!!」と突進してくる魔獣に対しテリーは指先を軽く鳴らす。
「『絶対零度』」
キラーウールは、その凶暴性を維持したまま一瞬でガチガチの氷像と化した。
「よしエクレア、その聖剣のミリ単位の制御で皮膚を傷つけずに『アンダーヘア(最密度の産毛)』だけを均一に刈り取って。あ、少しでも焦がしたら使い物にならないからね」
「聖剣を、羊の毛刈りに……!? ボス、私、これでも王都では天才剣士と呼ばれていたのですが……!」
エクレアは涙目になりながらも、超高速の剣技『ルミナス・スラッシュ・微細工作モード』を繰り出し、氷漬けの魔獣から最高級の柔らかさを誇る産毛だけを芸術的に刈り取っていく。
しかし、持ち帰った毛をセーフハウスのキッチンで糸に紡ぐ段階でキラーウールの残った怨念(魔力)が反発。糸が自ら生き物のようにエクレアの首に巻き付き彼女を締め殺そうとする「呪いの繊維バグ」が発生した。
「う、うぐぐ……! ボス、糸が……糸が私に絞め技を極めてきます……! 格闘戦に移行します!」
「エクレア、無駄に抵抗して糸をちぎるな! シルフィ、すぐに『魔力中和・柔軟化』の術式を編み込んでくれ!」
テリーが慌てて魔法陣を書き換え、シルフィが針を通すことで丸一日かけてようやく「チクチク感ゼロの触るだけで指がとろける奇跡のもこもこ原糸」が完成した。




