8. 一杯の完成、リビングに広がる「幸福な湯気」
数日間に及ぶ、テリーの「全力を注いだ趣味」が、ついに一つの完璧な形として結実した。
セーフハウスのリビングのテーブルに並べられたのは、漆黒の器に盛られたこの世界における至高の一杯。
オークキングの濃厚なコクと、クラーケンの海の旨味が完璧に調和したわずかに濁りのある深い琥珀色の特製醤油豚骨スープ。そこに美しく折り畳まれた白銀の縮れ細麺。大ぶりの炙りチャーシューがどっしりと鎮座し絶妙な半熟加減の味付け卵、そして薔薇の伯爵直伝のコリコリとしたメンマが完璧な配置で彩りを添えている。
「よし……『特製・迷いの森醤油豚骨ラーメン』、完成だ」
「「おおおおお……!」」
シルフィとエクレア、そしてお座りをしてよだれを限界まで垂らし尻尾を激しく振っている白銀の巨虎レオがその神々しいビジュアルに目を奪われる。
テリーがまず、木製のレンゲでスープをすする。
「――美味い。これだ、俺が求めていたのは。いや、前世のものより美味い」
五臓六腑に染み渡る圧倒的な旨味の暴力。苦労してアクを抜き、乾燥バグを乗り越えたからこそその味わいは完璧だった。エクレアも麺を勢いよくすする。
「ズズズッ……! んんんーっ! な、なんですかこの、弾力のある紐のような食べ物は! 噛むたびに小麦の暴烈な甘みが溢れ、スープの油と醤油のコクが絡みついて離れません! 美味すぎますボス! 苦労してオークキングのアクを取った甲斐がありました!」
エクレアは騎士のプライドを完全に忘れて麺を貪り食い、レオもテリーが特製で作った「塩分抜きのオークキング骨付きチャーシュー」をバリバリと幸せそうに咀嚼している。リビングにはただただ幸福な湯気と麺をすする心地よい音だけが響いていた。




