7. 薔薇の伯爵の驚愕、トッピング「メンマ」の乳酸発酵の壁
「ほう、テリー殿。今度は『麺』という、東方の伝説に近い未知の料理を開拓されているのか」
王都の流通網の再編を終え、定期連絡のために茶室を訪れたローゼンバーグ伯爵。テリーは、完成間近のラーメンに載せる「最後の、走して絶対に必要なトッピング」について伯爵に相談を持ちかけた。
「味玉とチャーシューは、オークキングの肉で最高のものができました。ただ、あの独特の繊維質で、コリコリとした食感の『メンマ』が足りないんです。この世界に、竹……タケノコってありますかね?」
「タケノコ……? ああ、東方の辺境の限られた土壌にのみ生える、硬くてアクが強く、およそ人間の食い物ではないとされる魔性の植物のことか。我が領地の植物園にも観賞用として数本あるが……あれを料理に使うというのか?」
伯爵は困惑しつつも、テリーの頼みとあってすぐに最高品質のタケノコを王都へ取り寄せた。
だが、ここでも前世の常識は通用しなかった。異世界のタケノコは、前世のものよりも繊維が圧倒的に強靭でどれだけ鍋で茹でてもゴムまりのように硬いままで噛み切ることすらできなかったのだ。
「くそ、茹でるだけじゃビクともしないか。……シルフィ、前世の『乳酸発酵』の手順を踏むぞ。特殊な木樽を用意して、タケノコを密閉してくれ」
テリーは、植物の細胞壁を適度に分解する特殊な植物魔法の術式を考案。シルフィの微細な温度・湿度管理魔法を組み合わせ、樽の中で「数ヶ月かかる発酵プロセス」を魔力によって数時間に圧縮して進行させた。
しかし、途中で温度が1度ズレただけで、タケノコがドロドロに溶けて酸っぱい液体になってしまうという大失敗を3回も繰り返し貴重なタケノコの大半を失う羽目になった。
「ボス、最後の3本です……! これを外せば、もうタケノコの在庫はありません!」エクレアが樽を抱えながら緊張で叫ぶ。
「落ち着け、数式の複合比率を修正する。発酵を促進しつつ、繊維の芯だけは残す……いけ!」
テリーが最後に放った精密な魔力が樽を包み込み、そっと蓋を開けると、そこには、完璧に発酵し、独特の芳醇な香りを放つ、美しい黄金色の『特製魔力メンマ』が完成していた。
自家製醤油とみりんでじっくりと煮戻し、完成したメンマを試食したローゼンバーグ伯爵は上品な髭をガタガタと震わせた。
「コリコリとしたこの絶妙な歯ごたえ……精度噛むたびに溢れる、発酵によって引き出された深いコク! 誰も見向きもしなかった硬い竹を、ここまで高雅な美味に変えるとは! テリー殿、君が本気を出せば、王国の食文化など数日で塗り替えられてしまうな……!」




