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6. 常識を覆す「運命の調和(Wスープ)」

セーフハウスに戻ったテリーたちは、限界まで疲弊しながらもいよいよスープの調合に入った。

オークキングの骨を限界まで煮込んだ濃厚な白湯スープ。そして、クラーケンの煮干しと魔力昆布から、雑味が出ないよう80度の低温でじっくりと引いた透明な琥珀色の魚介スープ。


テリーは、今後の食材調達の円滑化も見据え例のアントニオを森の境界線にある「茶室」へと招きこの試作のスープを披露した。


しかし、スープが並んだ瞬間、ギルドマスター・アントニオは顔を真っ赤にしてテーブルを叩いた。



「な、何ですかこれは……!? テリー殿、いくらあなたが天才魔導師だからといって、料理の常識を愚弄するのも大概にされよ! 肉のスープと魚のスープを……混ぜる!? そんなことをすれば、お互いの個性が喧嘩し、特有の臭みが混ざり合って、ただの生臭い泥水になるだけですぞ! 料理ギルドの長として、このような不浄な混ぜ物は断じて認めん!」



異世界の料理界では「スープは単一の素材から純粋に引くもの」という絶対のルールがあり、異なる系統のダシを混ぜるなど邪道中の邪道、料理への冒涜とされていたのだ。



「まぁ、理屈はいいから、黙って一杯すすってみてよ。話はそれからだ」



テリーはダルそうに、かつて開発した「自家製醤油」で作ったタレ(かえし)を器の底に敷き、二つのスープを【7:3】の黄金比率で注ぎ入れマスターの前に差し出した。


マスターは不快そうに顔をしかめながらも渋々レンゲを取りスープを口に含んだ。

次の瞬間、マスターの身体がビクンと硬直した。



「な……っ、何だ、これは……!? 肉の濃厚なコクが押し寄せたと思った瞬間、それを追うように、海の底知れない深い旨味が波のように口内を駆け抜けていく……! 喧嘩するどころか、お互いの欠点を完璧に補い合い、旨味の次元が数倍に跳ね上がっている……! そして、この異国の『醤油』のキレが、全体を一つの完璧な芸術へと昇華させている……!」



マスターは器を掴み、狂ったようにスープを飲み干した。そして、畳の上に両手をつき涙を流して震え始めた。



「私は、己の無知を恥じるばかりです……。単一の素材にこだわっていた我々は、井の中の蛙だった。テリー殿、これは料理ではない……味覚の、奇跡の錬金術だ!!」



保守的だった料理ギルドの頂点が、テリーの発想の前に完全に屈服し新たな味覚の扉が開かれた瞬間だった。

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