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2. 麺の命「かんすい」の暴走と、シルフィのミリ単位の試行錯誤

翌朝から、キッチンは臨時の「化学実験室」と化していた。


テリーは前世の記憶を掘り起こし、ラーメンの麺に不可欠なアルカリ塩水溶液――すなわち「かんすい」の主成分である炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの配合を、創造魔術によって大気中から元素を抽出・再構成して生み出そうとしていた。



「よし、理論上の比率は完璧だ。シルフィ、ローゼンバーグ伯爵から届いた最上級の王室御用達小麦粉に、この人造かんすいと水を混ぜて練ってみてくれ」


「御意に、我が主」



シルフィは完璧な手際で、風魔術の微細な圧力を使って生地を均一に練り上げていく。しかし、ここで最初の「異世界のバグ」が発生した。この世界の最高級小麦粉は前世の地球のものよりも遥かに「魔力伝導率」が高かったのだ。

テリーが作ったかんすいと結びついた瞬間、生地が異常な魔力反応を起こし鋼鉄並みの硬さにカチコチに凝固してしまった。



「なっ……!? ボス、生地が……私の風圧を跳ね返すほど硬化し、キッチンカウンターを粉砕せんと輝いています!」


「しまっ……! アルカリ反応が魔力で増幅されて、小麦のグルテンが限界突破して結合しやがった! シルフィ、すぐに魔力中和の術式を重ねろ! エクレア、それ以上生地を刺激するな、爆発するぞ!」


「ひえええ!? 麺を作っていたはずなのに、なぜ国家防衛級の緊張感が漂っているのですか!?」



エクレアが聖剣を抜く寸前でバタバタと騒ぐ中、テリーは冷や汗を流しながら魔法陣の数式を書き換えた。


かんすいの配合を1ミリグラム単位で減らし、魔力を吸着する特殊な鉱石の粉末をわずかに加えることでようやく生地は「理想的な美しい薄黄色のしなやかな弾力」を取り戻した。



「ふぅ……死ぬかと思った。よし、シルフィ。その生地を風魔術の刃でミクロン単位の細さに裁断し、仕上げに手揉みの魔法で『縮れ』を加えてくれ。スープがよく絡むようにな」



シルフィは10秒で完璧な縮れ細麺を仕上げ、キッチンにはようやく、前世のラーメン屋の裏口から漂うような、独特のあの香ばしい小麦の香りが満ち満ちた。麺の開発だけで、テリーの有給が一日分、丸々消し飛ぶほどの激闘だった。

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