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1. 前世の記憶、あるいは「圧倒的な麺飢え」

グラナート公爵家という王都の巨悪を、部屋から一歩も動かずにオープンソース化(インフラ無料開放)によって破滅に追い込んだテリー。王都の物流を裏から完全に掌握し、欲しい食材は何でも手に入る無敵の環境を構築した彼だったが、その心には、どれだけ贅沢な異世界の肉や果物を食べても満たされない「致命的な渇き」があった。


金曜日の夜。テリーはリビングの「人をダメにするクッション」に深く埋もれながら、天井の木目を虚空を見つめるような死んだ魚の目で眺め、ボソリと呟いた。



「……なぁシルフィ。俺、どうしても『アレ』が食いたい。今すぐ食わないと、明日からの引きこもりライフのモチベーションが完全に死ぬ」


「おや、我が主。そこまで深刻な飢えとは珍しいですね。どのような幻の食材でございますか? 竜の肉でしょうか、それとも世界樹の果実でしょうか。どのようなものであれ、商会のリサ殿を通じて王都の全商店から即座に徴収してまいりますが」



シルフィが静かにハーブティーを机に置きながら尋ねる。テリーは首を横に振り、前世の社畜時代、深夜二時のオフィス街で、精神をすり減らした後にすすった「あの光景」を脳裏に蘇らせていた。



「違うんだよ。ラーメンだよ。それも、化学調味料に頼らない、厳選された素材の旨味を極限まで凝縮した、ガツンと脳の血管に響くような濃厚醤油豚骨ラーメンだ。あの黄色くてコシのある縮れ麺、ギチギチに旨味が詰まったチャーシュー、スープの油を吸った海苔……思い出すだけでヨダレが出る」



その熱弁を聞いていたエクレアは、部屋着姿でライトノベル(有給休暇の任務)を読みふけっていた手を止め、不思議そうに首を傾げた。



「らーめん……? 麺類ならば、王都の食堂にも小麦を練って茹でた『パスタ』や『ウドン』に似た料理はありますが、それでは駄目なのですか、ボス?」


「全然違う! あれらはただの茹でた小麦の塊だ。ラーメンの麺にはな、独特の歯ごたえ、喉越し、そしてあの特有の香りと黄色い発色をもたらす『かんすい』という絶対的な要素が必要なんだ。この世界にはそれがない。……くそ、働きたくないのに、ラーメンが食いたすぎて脳の処理能力がそっちに100%割かれてる。こうなったら、ニートの全力を注いで、この世界に存在しない『究極の一杯』をゼロから構築してやる」



こうして、働きたくない男が「食への執念」だけで重い腰を上げるという、最大の矛盾から至高のプロジェクトが幕を開けた。

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