10. 変わらない日常と、完璧なる不真面目の続き
王都の激震など、遠い世界の出来事のように。『迷いの森』の最深部にあるテリーの家には、今日も穏やかで、徹底的に不真面目な時間が流れていた。
ハインツ公爵の失脚により、テリーに対する「取引凍結」などの嫌がらせは一瞬で消滅。むしろ王都の全商店が「テリー様、大豆を実質無料で納品いたしますので、どうか我が店を滅ぼさないでください」と、恐怖のあまり貢ぎ物を持ってくる始末だった。リサも冒険者ギルドの最高幹部へと昇進し、テリーの永久専属窓口として、彼の平穏を制度的に守る盾となった。
リビングのソファでは、テリーが「人をダメにするクッション」に完全に同化し、新しく王都から仕入れた最高級の大豆で作った「自家製味噌」の熟成具合をシステム画面でチェックしている。
「うん、味噌の出来も完璧だな。これで冬は毎日美味い味噌汁が飲める」
「ボス! 本日の有給休暇(ラノベの読書任務)、無事に4冊目を読破いたしました! この『転生したらスライムだったらいいなー』という書物、我が国の軍事防衛の観点からも、非常に示唆に富む素晴らしい聖典です!」
エクレアが、すっかりお馴染みとなった部屋着姿で、満面の笑みを浮かべて報告してくる。彼女の真っ直ぐな正義感は、今や「テリーの引きこもり環境を完璧に維持し、美味しいご飯を一緒に食べること」へと完全にロックオンされていた。
「そうか。じゃあ次はこれ読んどけ。……おいシルフィ、おやつは何だ?」
「はい、我が主。本日は、新調した醤油とグラニュー糖をじっくり煮詰めた『特製みたらし団子』でございます」
「最高だな」
テリーはレオの柔らかいお腹を枕にしながら、深く、深くソファに沈み込んでいく。
世界がどれだけ彼を「救世主」と呼びたがろうが、貴族たちがどれだけその力を欲しようが、彼は一歩も動かない。
カンストした魔力と現代の知識、そして過保護な神々の結界に守られながら。
働きたくない最強の男と、すっかりホワイト企業に染まった元聖騎士の、アンバランスで愛おしいスローライフは、今日も誰にも邪魔されることなく、どこまでも怠惰に続いていくのだった。




