3. 泥を啜る金獅子、ハインツ公爵の影
薔薇の伯爵との良好な面談から数日後。王都の最高階級が集う『中央議事堂』の一角で全く異なる性質の「傲慢」が渦巻いていた。
「ローゼンバーグの奴め、どこの馬の骨とも知れぬ平民の魔導師を囲い込み前線の支持を集めているようだな」
豪華絢爛な毛皮の外套を羽織り、金の装飾が施された杖を床にコツンと打ち鳴らしたのは、ハインツ・フォン・グラナート公爵。国王の血縁であり、王都の軍権と流通の大部分を握る権力欲の権化のような男だった。
ハインツ公爵にとって、テリーがもたらす『高純度ポーション』や『人造ダイヤ』の技術は、一平民が持っていいものではなかった。それはグラナート公爵家が独占し、他国や魔王軍との交渉材料、あるいは王位を簒奪するための「絶対的な財源」にすべきものだった。
「会頭のボルドーとかいう無能は、力ずくで拉致しようとして自滅したそうだが……所詮は商人の浅知恵だ。貴族の、それも我がグラナート公爵家の権威をもってすれば、平民など這いつくばって靴を舐めるのが当然」
ハインツは冷酷な目で、背後に控える側近の魔導師に命じた。
「ギルドと、あの男が立ち寄る商店に圧力をかけろ。我が公爵家の名において、あの黒髪の若造――テリーに関わる一切の商取引を禁止する。売るな、買うな、関わるな。兵糧攻めにし、王都での生活基盤をすべて破壊しろ。孤立無援となったところで、我が家臣として『永久隷属契約』を結ばせる」
「御意に、公爵閣下」
ハインツはテリーの本当の力量を「一ミリも知らない」がゆえに、いつも通り「権力」という旧時代の武器で、最強の引きこもりを踏み潰せると確信していた。




