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1. 薔薇の伯爵と、究極の「顧客第一主義」

王都の商業ギルドを巻き込んだ『ボルドー商会』の自滅劇から数ヶ月。

テリーの『琥珀色の魔力ポーション』や、時折流される超高純度の人造宝石は王都の最上流階級――貴族たちの間でも、もはや無視できない「戦略物資」として噂されていた。


当然、働きたくない男であるテリーが自ら貴族の屋敷へ営業に行くはずもない。窓口であるギルド職員のリサが事前にハブとなり、今回は「森の結界の外」にある指定の場所にて一人の貴族との会合が行われることになった。


その場所とは、テリーが「買い出しのたびに王都まで行くのがダルい」「人目を気にせず、リサと安全に物資を受け渡せる中継基地が欲しい」というただそれだけの私的な理由で、森の境界線にカンスト魔力で一瞬にして建てた、和モダンな「茶室」だった。



「――お初にお目にかかる、テリー殿。私はエドワード・フォン・ローゼンバーグ伯爵。以後、見知り置きを」



現れたのは、見事な美髭を蓄え、洗練された仕立ての衣装をまとった壮年の貴族だった。ローゼンバーグ伯爵は、王都でも「宮廷魔導具の管理」や「辺境の防衛」を担う、実力派の正統派貴族である。彼は、森の木々に囲まれた異国情緒あふれる「茶室」のあまりに洗練された建築様式と、そこに満ちる微かな、しかし底知れない高密度魔力の残滓に、内心激しく戦慄していた。


テリーは普段の部屋着パーカーではなく、一応、シルフィに無理やり着せられた小綺麗なシャツ姿で、ひどくダルそうに畳の上に座っていた。その背後には、護衛(という名のお出かけ許可)として、ビシッと背筋を伸ばしたエクレアが控えている。



「どうも。テリーです。……先に言っておきますけど、俺はどこかの宮廷お抱えの魔導師になる気はありませんし、毎月の製造ノルマとか決められるのも大嫌いです。もしそういう契約を結びたいなら今すぐ帰りますけど」



開口一番、あまりにも不敬で怠惰なテリーの言葉。エクレアが「テ、テリー殿!? 伯爵閣下に対してそれはあまりにも――っ!」と顔を青くして不憫に震えたが、ローゼンバーグ伯爵は不快に思うどころか、愉快そうにハハハと笑った。



「いや、素晴らしい。リサ殿から聞いていた通り、実に見事な『職人気質』だ。安心してほしい、テリー殿。私はあなたを我が家臣に誘いに来たわけではない。ただの『一人の熱狂的なファン』として、商談に来たのだよ」



伯爵は優雅に手を振ると、従者が持ってきた極上の木箱をテーブルに置いた。



「我が領地は魔王軍の前線に近く、常に優秀な魔導具やポーションを求めている。あなたの作るポーションは、前線の兵たちの生存率を劇的に引き上げた。私はただ、今後もあなたのような天才が『誰にも邪魔されず、最高のものを作り続けられる環境』を尊重したい。あなたがダラダラしたいと言うなら、我がローゼンバーグ家がその怠惰を全力で肯定し、王都の面倒な法規制からあなたを保護しよう」


「……ほう?」



テリーの目が、少しだけ動いた。

「働かなくていい環境を保証する」「方針には一切口を出さない」「ただし、完成したものは優先的に適正価格で買い取る」。それは、前世でテリーが夢にまで見た『最高のクライアント(神経営者)』の姿そのものだった。



「いいですね、伯爵。あなたとは、非常に良いビジネスができそうだ」



アンバランスな二人の奇妙な信頼関係が、ここに結ばれた。

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