5. 引きこもりハウスの「週末」
金曜日の夜。
テリーの家では、一週間の「労働(という名の徹底した趣味の追求)」を労う、定例の『週末お疲れ様会』が開催されていた。
ダイニングテーブルの上には、エクレアが必死に搾った醤油を使った「極上唐揚げ」、シルフィが焼き上げた「自家製ピザ」、そしてキンキンに冷えた各種ビールや炭酸飲料が並んでいる。
「ふぅ……今週も生き延びた。素晴らしいな、土日は完全休業だ。アラームも鳴らさないしベッドから一歩も出ないぞ」
テリーはビールの入ったのグラスを傾け至福の表情を浮かべていた。
「テリー殿、この『からあげ』という料理は、本当に悪魔的ですね……。外はカリッと、中はジューシーで、あの醤油の香ばしさが肉の旨味を何倍にも引き立てている……。これなら、何個でも食べられてしまいます!」
エクレアは、すでに聖騎士の鎧を完全に脱ぎ捨て動きやすい部屋着姿で口の周りを油で光らせながら唐揚げを頬張っていた。その手には、テリーに勧められたノンアルコールのレモンサワーが握られている。
「だろ? 働くために食うんじゃない、美味いものを食ってダラダラするために、俺たちは生きてるんだよ。なぁ、エクレア。お前、ここに来たばかりの時、『国を救え』とか何とか言ってただろ。今の生活と、あの血みどろの戦場、どっちがいい?」
テリーの意地悪な質問に、エクレアは一瞬、唐揚げを動かす手を止めた。
彼女の真っ直ぐな正義感は、まだ心のどこかで祖国の民を憂いている。しかし、この家に満ちている「徹底的な優しさ(ホワイト環境)」と、テリーが時折見せる「圧倒的な守護の力」は彼女に別の真実を教えていた。
「……私は、今でも祖国を救いたいと思っています。ですが」
エクレアはレモンサワーをゴクリと飲み干しテリーを真っ直ぐに見つめた。
「命を削り、憎しみをぶつけ合うだけの戦いでは本当の救いは訪れないのかもしれない、とも思い始めています。テリー殿の言う『経済的包囲網』やこの『美味しい食事による活力の充電』……これらこそが、人を真に幸せにするのではないかと。……ですから、私は決めました!」
「あ? 何を?」
エクレアは立ち上がり、ビシッとテリーを指差した。
「私はこの『ホワイト企業の従者』として、まずはあなた様の快適な引きこもりライフを全力で支えます! そして、あなた様の趣味のアイテムを世界に広げ、間接的に世界を平和にしてみせます! これもまた、私の新たな正義です!」
「……いや、だから俺の仕事を増やすようなやる気を出すなって。お前はただダラダラしてろよ」
「ご謙遜を、ボス! 明日の有給休暇(ラノベの続き)も、全力で努めさせていただきます!」
「話を聞けよ、この仕事中毒者が……」
頭を抱えるテリーと、満面の笑みで唐揚げをおかわりするエクレア。
正義感の塊である少女と、働きたくない最強の男。その歩む道は真逆のはずなのになぜかこの奇妙な「引きこもり空間」の中では、完璧な歯車のように噛み合い心地よい夜の時間を紡いでいくのだった。




