5. 傲慢の代償
数日後。
王都『グラン・ルミエール』の商業区にあるボルドー商会の本部に静かな、しかし決定的な破滅の足音が響いていた。
「会頭! 大変です! 『レオナルド商会』から今後の全取引を停止するとの書状が届きました!」
「な、何だと……!? あそこは我が商会の最大の小麦仕入れ先だぞ!?」
オフィスで頭に包帯を巻き怯えた目で書状を引っつかむボルドー。あの日以来、彼は夜も眠れないほどの恐怖に怯えていたが現実の追い込みはテリーの魔法よりも容赦がなかった。
「それだけではありません! 冒険者ギルドからも『ボルドー商会への素材納品を全面的に凍結する。また、商会所属の全護衛冒険者の登録を一時抹消する』との通達が……!」
「ば、馬鹿な! なぜだ! たかが平民の魔導師一人を脅しただけで、なぜギルドや他の中央商会がここまで動く!?」
ボルドーは気づいていなかった。
テリーがリサを介して流していた高品質なポーションは、すでにギルドの上層部や、他のお大手の商会にとって「今後の流通を左右する重要な試作品」として極秘裏にマークされていたのだ。ギルドや他商会は、テリーの製法を「良好な関係を築いて優先供給を受ける」ためのプランを練っていた。
それを、ボルドーが目先の欲に駆られ武力行使という最悪の手段でテリーを脅し、あろうことか王都との繋がりを断絶させかねない事態を引き起こした。
「ボルドーの馬鹿が、あの『特異なポーションの製作者』を怒らせて引きこもらせたらしい」
「あいつのせいでギルドとの共同研究や新素材のルートが潰れたらどうするんだ。我が国の損失だぞ」
他の中央商会やギルドの重鎮たちはすぐさまボルドー商会の「切り捨て」を決定した。危険なトラブルメーカーを放置して、自分たちまでテリーからの供給を失うわけにはいかないからだ。
取引先をすべて失い、莫大な違約金の請求書だけが机に積み上がる。
ボルドーは、自分が一時の強欲のために、王都の巨大な商業網から完全に爪弾きにされたことを悟り、ガタガタと震えながら、ただ机に突っ伏して号泣するしかなかった。
一方、そんな王都の商業崩壊劇など、知る由もないテリーは――。
「……うーん、やっぱり大豆の量が足りないな。発酵のプロセスは魔術でコントロールできても、元の素材がこれじゃ今回の醤油は少しコクが足りないか」
静かな我が家のキッチンで新しく完成した試作調味料を舐めながら、テリーは贅沢な悩みに眉をひそめていた。
王都の人間たちがどれだけ欲に目を眩ませようとも、彼はただ自分のスローライフを少しずつ豊かにすることだけに今日もその知恵と力を注ぐのだった。




