第七話 世界情勢
久しぶりに家族が全員集まり、感動的な再会をしたあと、アイリーンは泣きつかれたのかそのまま医務室のベッドで寝てしまった。
潮とエクシードはこの五年の間の話で盛り上がっているが、ふたりともその目尻はまだ赤かった。
「それで、地球から核兵器の爆発反応があったからやってきたというわけだ。まさか決戦の裏で地球侵攻を考えているとは思わなかった」
エクシードはうなだれながら言う。熟睡しているとはいえ自分の娘にはあまり聞かせたくない話だと思う。
「やっぱり札幌の方の爆発は核兵器だったのね。そっちには行ったの?」
「いや、僕達は行ってない。グロワールたちに頼んでいる」
「そう」
一旦話は途切れる。
あまりにも多すぎる情報量に潮は頭が割れる思いだった。
でも「自分の愛する人達の帰って来る場所である」という彼女の生き方がそれでも夫に質問させる。
「今、世界はどうなっちゃってるの?」
その時エクシードの顔が少しこわばったように見えた。
夫は一つ深呼吸をしたあと
「艦橋に来てくれ」
と一言話し、立ち上がった。潮もその後に続く。
部屋を出る直前、横目に娘を見る夫を見て、自然に笑みがこぼれてきた。
* * *
超戦艦ムサシ艦橋。
縦7m横18mの空間に艦長席、戦術長席、航海長席、レーダー席、機関長席、気象長席、情報技術長席、通信長席が並んでおり、正面の大窓の上に縦4m横10mの大スクリーンがある。
そのスクリーンにはデジタルの世界地図が写ってる。
その中で各国の都市があるところが赤く点滅しており、その上には数字が書かれている。
欧州は完全に赤で塗りつぶされており、アメリカ、特に東海岸のニューヨーク、ワシントンDCの印は異様に大きい。そして現在進行系で赤い印は増えていく。
更にその周りの海と陸には赤い三角と青い三角が映されている。
「赤く点滅している場所は15日から今日までの一週間で攻撃を受けた都市を示しています。詳細はまだ判明していませんが被害が大きいほど大きく、早く点滅します。そして赤と青の三角はそれぞれの部隊配置を示しており、赤が聖道同盟軍、青が国際連合軍を示しています。すでにアメリカ西海岸に上陸部隊がいるようですね」
ムサシヒューマンモデルは淡々という、まるでそうプログラムされたロボットのように。
「1972年8月15日、世界の主要都市12箇所に大型の核兵器が空球聖道同盟によって投下されました。未だ全貌は分っていませんが最低でも3000万人、最大で6500万人が亡くなった可能性があり、これに傷者を加えれば億単位の方々が被害にあったものと推測されます。これは第二次世界大戦の総死傷者数と同じ、もしくはその1,6倍以上に上ります」
ムサシヒューマンモデルは機械的に話していく。ヒューマンモデルであるからこそ淡々と説明できるのであり、人間であればこのような惨事を人に説明しようという気にすらならないだろう。
ムサシはそれでも続ける。
「さらにこれは核兵器のみによる死傷者数であり、そのすぐ後から始まった主要都市以外への空襲及び艦砲射撃によるものを加えればその全容を知ることは永遠に不可能と言えるでしょう。紛れもなく今まで人類が受けたどの戦争、災害をはるかに超える最悪なものとなっています」
「各国の都市が破壊されたことにより国際情勢は完全に崩壊、政府も消滅、または停止、最後の砦である国際連合すらニューヨークに落とされた核兵器により本部が消滅し、即座に機能不全に陥りました。情報ネットワークも寸断され、貿易もままならず、更に世界人口の4%を消失。このままではまず教会同盟、すなわちHOOP・VIAとの戦争どころか世界中のテロリズムや暴動に追われることにもなってしまいます」
艦橋にいる者たちは誰も声を発することはなく、ただただ立ち尽くしていた。
すでに状況をおぼろげに把握している艦橋員たちもまた青い顔をしている。
潮もすでにアッツ島やペリリュー島などの玉砕。広島、長崎の原爆の報告などで同じような気持ちになったが、それ以上に状況が酷かった。
人類最大の試練となった第二次世界大戦。
その総死傷者数は3000万から5000万と言われている。
しかし今はそれをさらに超え、更に各国の主要都市が破壊され、国際情勢は完全に崩壊、頼みの綱である国連すら本部は消滅し、機能不全に陥っている。
人類近代からおよそ200年、これ以上ないほどの崖に立たされていた。
潮には人類滅亡の時計が聞こえるように思えた。
* * *
母たちがムサシに世界情勢の説明を聞いているている間、アイリーンはリコに連れられムサシ第一主砲前にいた。
「おおきい…!」
見上げるほど巨大な連装の51cm方はアイリーンが屈めば砲身の中に入れそうなほどであり、その威容は少女の幼い心をつかむには十分だった。
「あのおふねでみたたいほうよりぜんぜんおおきい…」
「あのお船?」
「あっちのほうのどうくつにいるやつ…」
アイリーンは口を半開きにして地球岬の方を指差す。それでも視線は主砲の方に釘付けになっている。
「ああ、駆逐艦潮か。そうだねえ、全然大きいねえ」
リコは顔を和ませながら頷いている。この艦隊の司令部はみんな子供好きのようだ。
しかしその顔は完全には笑っていない。街の方ではまだ黒煙が上がっている。
「あれ?ムサシって連装だったっけ?三連装だった気が…。てかなんか大きくなってない?」
「ああ、戦争前に改造してな。この艦の正式名称はヤマト型改超戦艦キイになってる」
奥から両親が話しながらやってくる。
「おとうさん、このおふねキイっていうの?ムサシじゃなくて?」
少女は腑抜けた顔をして聞いてみた。たしかこの船はムサシだとみんなが言っていたが父が言った名前は違った。
「いや、ムサシっていうのは…そうだなあだ名みたいなもんだな。アイリーンだってよくみんなにアイって呼ばれるだろ?」
「へえー」
少女と父はムサシの艦橋がある方を見てみた。
これほど大きな船を少女は見たことがない。あったとしてもたまにやってくる連絡船だったが、それでもここまでではなかった。
「そうだな。アイ、この船まだよく見てないだろ?よかったら父さんが案内するがどうだい?」
「いいの!?みたい!」
少女は目を見開いて大きく頷く、そして艦後方へ走っていった。エクシードもそれにゆっくりついていく。
「リコちゃん、いいの?」
娘についていく夫を見ながら潮は不安げに聞いてみた。
「ええ、問題ありません。室蘭などの被害を受けた街を支援するために2週間ほどこの辺りに停泊する予定ですから」
リコは微笑みながら言う。
「でも、それは建前でしょうねえ」
「建前?」
潮はまた不思議そうに聞く。
「アイちゃんの誕生日を祝いたいんですよ、我が司令官は」
確かにあの人らしい。
そう潮は思った。




