第六話 再会
突然、変異した空の下で少女はひどく怯えている。
ついさっきまで青く、夏ならではの入道雲が見えていた空は赤と黒とオレンジの縞模様で覆われ、水平線の端に暗黒の大穴が空いていた。
「アストラルリンクシステム!?」
母が聞いたこともない単語を言う。
「いけない!もう戦闘が始まった!潮さんたちは早く家に帰って安全にしていてください!」
ハインケルは大声でまくしたてる。
「わかったわ。ハインケル君も気をつけて」
「ええ、それではまた」
ハインケルはそういった後大急ぎでヘリに戻っていった。
「早く逃げるよ、アイ」
少女は何が起こっているかも知らされずに母に手を引かれ走っていく。
その時、視界は一瞬白黒になった。
その後、気がつけば母と少女は空にいた。
札幌原爆の比ではないほどの衝撃波が少女たちを吹き飛ばしたのだ。
少女は呆然として近づいてくる地面を見上げていた。
* * *
「もうすぐ気づかれると思いますよ」
少女は朦朧とする意識の中で声を聞いた。
聞いたことのない声だったはずだが、妙に懐かしい感じがした。
「全く、お前がいきなり艦橋から飛び出したって聞いてこっちは何が起こったかわからなかったんだぞ」
こっちは女性の声だ、こっちも同じ感じがした。
「申し訳ないね先生、未来が見えるっていうのは不便なものでさ」
すぐとなりからもう一人の男性の声が聞こえた。おそらくその人の手が少女の頭を撫でていた。
「久しぶりにあったが覚えてないよなあ、アイリーン。5年ぶりだな」
* * *
またアイリーンは完全に置いてけぼりにされていた。
眼の前では母と自らの父と呼ばれた男が話している。
少女は完全に混乱状態に陥っていた。
眼の前に「なぜ来てくれないのか」と恨んでいる人物がいる。
しかし同時に自分を救ってくれた救世主でもある。
そんな考えが交錯し、少女は何もすることができずに医務室と思われる場所の椅子に座り尽くしていた。
そんな時だった。
母の平手が男の頬をはたき、軽い音が部屋中に響いた。
めったに怒らない母が珍しく怒っている。
そんな光景を目にし、男に対する嫌悪感も混乱も吹き飛んでしまった。
その代わり、少女にはこの男のことを知りたいという好奇心が湧き出してきた。
* * *
男の名前は”エクシード・プロティフィア”といい、本当の自分の父親であることを後ろにいたリコという女性が教えてくれた。
ミラーリンクシステムという装置を切るときの衝撃波で飛ばされた少女たちを間一髪で助けあげ、ムサシというこの船まで連れてきてくれたのだという。
「たしかにあなたが来てくれたことはみんな感謝しているし喜んでいますよ、そりゃあ命の恩人ですもの。でもね、まず家族に顔の一つでも見せたらどうなの?ハインケルくんたちと一緒にヘリで来ればよかったのに」
「いやあのときはもう戦闘準備が始まっていてだな…」
「ていうか最初に空襲を追っ払ったときにこればよかったのよ。どうしてそれをしなかったの?時間は十分にあったのよ?それにアイリーンがあなたに嫌悪感を持たずにも入れたかも知れないのに。まさか遅れたことが後ろめたかったの?」
「いや、え〜とだな…」
「それに…」
母に一方的にまくしたてられ、見るからに肩を落としている父を見て少女は面白かった。
それに少女の後ろで二人の男たちが笑っていた。
(この二人は父の友人のディンギル・ソロモンとカスケード・トランジスタであると後でリコが教えてくれた)
本当の家族はこんな感じなのかも知れないと思えてくる。
「とりあえず貴方の娘にごめんなさいの一つでもしなさい。この先のことはあとでもいいわ」
母はそう言って父をこちらに押し出してきた。
父は艶の入ったきれいな黒髪をし、自分と同じ漆黒の目をしていたが、右目のあたりに大きな傷跡があり右目が赤く変色していた。そしてその顔は自分と同じでやけに緊張している。
「えーっとね、何から話せばいいのかわからないが。一応久しぶりなんだよ。最後にあったのは君がこんな小さな赤ん坊の頃だったがね」
父は頭を掻きながら腕で「これぐらいだった」と言いたそうな円を作った。
「覚えてはいないだろうが僕は君の父親なんだ。こんな言い方したら偽物みたいだがね」
父の耳は少し赤くなり始めていた。自分も何故か耳が熱くなってくる。
「かなり長い間が空いてしまっていたが、こうして君にまた生きて会えたことが何にもおいて一番うれしいんだ」
父は何を言いたいのか自分でも分からなくなっているようだった。自分の目は何故か霞んできていた。
「たしかに君が僕のことを恨んでしまうのはよく分かる。僕も同じだったらそうなると思う。でももう一回やり直したいと僕は思う、いや無理だな。でも僕はそう思っているんだ。こんな戦争が始まってしまったがそんなものおいて君たち家族とまたやりなおしたいんだ。本当に」
父の顔はもう泣きそうになっていた。自分も母も、周りの人も同じだった。
少女には言いたいことがたくさんあった。
今までどうしていたのか。
どうして早く来てくれなかったのか。
自分の覚えていない8ヶ月間のことを。
でも最初に出た言葉はー
「おかえりなさいおとうさん」
少女は無意識のうちに言っていた。でも本心だった。
その言葉は父の最期の我慢していた涙の堤防を壊した。
広い海原に浮かぶ巨大な船の中で、小さくも大きい一つの家族が大声を上げて泣いていた。
これにてプレ投稿を終わりたいと思います。
好評だったり、なにか気が向いたら不定期で投稿するかもしれないのでよろしくお願いします。




