第三十三話 和解
「敵戦車より投擲物!」
車内に砲手の悲鳴が響き渡る。
タナヴィー校の不可解な形をした戦車を追い続けすでに二両の戦車を失った。
だが敵ももはや満身創痍だ。
そう考え、もはや逃げ場のない一本道に惹きつけたのが悪手だった。
「操縦者!全速後退!」
戦車長が叫ぶが、遅かった。
投擲物は地面に当たると同時に白い煙を吹き出し始める。
「煙幕弾か!」
煙はまたたく間に戦車を包み込み、すべての視界を奪ってゆく。
それに合わせ、搭乗員が咳き込み始めた。
さらになにか異臭までしてくる。
通常の煙幕弾ならこんなことにはならないはずだ。
煙の中になにかでも混ぜられていない限り…。
「まさか…」
最悪の考えが戦車長の頭の中に浮かぶ。
それは一瞬後に現実となるのだった。
* * *
「撃てぇ!」
煙幕が十分敵戦車を覆ったところを見計らい、望夢が発射令を出す。
砲弾が煙幕内に侵入し、爆発するとともに火の柱が天高くへと舞い上がる。
敵戦車は瞬時に内部まで燃やし尽くされ砲弾が引火、車体を粉々に吹き飛ばした
それと同時にキドセンを押し出すほどの衝撃波と車内を焼き尽くしかねない熱波が襲う。
その熱波によりアスファルトは溶けて燃え上がり、建物のガラスまでもが溶け始める。
戦車を覆い尽くした炎はまだ炎に適応していなかったイーターを通して近くの建物まで燃え移り、またたく間に辺りは火災となる。
「なんて威力だ…。シールドが回復しなかったら僕達まで焼け死んでるよ…」
燃料気化爆弾。
いわゆるサーモバリック爆弾である。
燃料気化爆弾は火薬ではなく、酸化エチレンや酸化ポリプロピレンといった燃料を一次爆薬で加圧沸騰させ、BLEVE(水蒸気爆発)という現象を起こすことで空中に散布する。
燃料の散布はポンプなどによるものではなく、燃料自身の急激な相変化によって行われるため、秒速2,000mもの速度で拡散する。このため、数百kgの燃料であっても放出に要する時間は100ミリ秒に満たないと言われている。
爆弾が時速数百kmで自由落下しながらでも瞬間的に広範囲に燃料を散布できるのはこのためである。燃料の散布が完了して燃料の蒸気雲が形成されると着火して自由空間蒸気雲爆発をおこすことで爆弾としての破壊力を発揮する。
またその爆発によって生じた爆轟波、瞬間的な超高温、衝撃波、減圧と超加圧で爆発領域内に存在した生物はまたたく間に死滅する。
今回ユイが使用したものはBLEVEではなく通常の煙幕弾に燃料エアロゾルを含ませた簡易型であるため一帯に広がるのに一定時間を必要としたほか、燃料の量も数百グラムという少量であったためにその破壊力は限定的であった。
だが、燃料気化爆弾であることにかわりはない。
その兵器は核兵器を除いた中で最も破壊的だと言われている。
「取り敢えずこの炎で敵は追ってこられない。今のうちに逃げよう」
アイの言葉が熱の籠る車内に溶けていった。
* * *
だが、それを敵は許さなかった。
燃え盛る炎の中から、もう一両の戦車が突っ込んできた。
「聡太!下がれ!」
望夢の怒号に聡太が反射的にバックギアを入れアクセルをベタ踏みするも一歩遅かった。
敵戦車がキドセンのひしゃげたフロントに激突し、キドセンは大きく吹き飛ばされる。
そのままの勢いで電柱へと激突すると、完全にエンジンは停止してしまった。
さらに追い打ちをかけるように脇道からも続々と戦車と兵士が出てくる。
その中から隊長らしき人物が出てくる。
「いま出てきたのが奴らの頭だ。たしか月嶋アカリって言ったかな」
ユイが天窓を開けて言ってくる。
サーモバリックとさっきの激突でもまだみんな無事でもあるという。
さすが頑丈だ。
アカリと呼ばれた女が前に出ると、メガホンをこちらに向け再度降伏勧告をしてきた。
『タナヴィー高等学校の諸君。
諸君らは先程の降伏勧告を無視し、さらに二両の戦車を撃破するという英雄的行動を取ってみせた。
それは称賛に値することだ』
そこまで言うと、アカリは後ろにいる戦車たちに一瞬目線を向けた。
それと同時に全ての戦車の砲塔がキドセンへと旋回する。
さらに周りの兵士たちも対戦車砲を構える。
『だが、いま諸君らの戦車はすでに起動不能に陥っている。
おそらく残弾数もわずかだろう。
それに対してこちらの戦力は戦車4両と兵士二十余名。この状況で愚かな判断をする者たちではないことはわかっている。
私は無益な殺し合いを好まない。
だからこそ諸君らに機会を与える。
武器を捨て、端末をこちらに引き渡せ。
そうすれば命は取らずにおいておこう。
繰り返す。
武器を捨て、端末をこちらに引き渡せ』
アカリの降伏勧告は戦闘の中でも理性を失わずに指揮官として貫く意志が混じっていた。
だが、こちらも「はいそうですか」と従うわけには行かない。
こちらにもプライドというものがあるのだから。
「少しでも抵抗したい気持ちがあるのは山々だが…。いかんせんキドセンぼろぼろになっちまったからなあ」
望夢が戦車長席から腕を組みながらつぶやく。
「そうだね。エンジンは完全にやられちゃったし、タイヤもいくつ生き残ってるかわからない。装甲もボコボコだし残弾数も残り一発。結構万事休すだよ」
聡太がキドセンの端末を操作し現状確認をするが、良くない情報しかやってこない。
レイたちもこれ以上は掴まっていることも難しいだろう。
無理に動かしても振り落とされかねない。
だが、そんな中でも一人だけ余裕そうに髪をいじっているものがいた。
「で、何でそんなアイは余裕そうなんだ?諦めか?」
「私の寵愛は未来感知。今度は見えた。だから余裕なんだよ」
アイはそういったあと不気味に笑う。
その目はなにか悪いことを考えている目だった。
「ソウくん。エンジン全開にしといて」
「いや、動かないんだって」
「大丈夫、すぐ動くよ」
その時、遠くから何かが爆発する音が聞こえてきた。
しかも一回ではなく何回も。
「何だ!?」
見てみると、何発のロケット弾が敵兵隊のいる場所へと撃ち込まれている。
ー「一体誰が…」
そう望夢が考えていると、次は車内にエンジンの駆動音が響き渡る。
「ほんとにかかった!エンジンかってに再起動しちゃったよ!」
聡太はすぐにギアを全開にしてアクセルを踏み込む。
キドセンはまっすぐに敵兵隊のいる場所へと突っ込んでいく。
「うわぁ!突っ込んできた!」
シタデル兵士の悲鳴をよそにキドセンはまっすぐに走り去っていった。
「クソ!追え!」
「無理です!何者かからの砲撃によりすでに1両やられています!」
アカリの叫びも虚しくキドセンはどんどんと離れていく。
「なぜだ、エンジンは完全に破壊され、タイヤも半分以上が潰れているように見えた。なのになぜ動ける…」
その時どこからか飛んでくるロケット弾はキドセンの逃げていった道の脇にあった建物へ直撃、その瓦礫が道を塞いでいった。
もはや戦車で追うこともできそうにない。
「まさかこんな幕引きになるとはな…」
アカリは拳を握りしめながら歯を噛みしめる。
だが、命令は出さなければならない。
「全隊、撤退用意。ロケット弾を回避しながら迅速に撤退せよ」
アカリは瓦礫に遮られた道を見ながら悔しそうに目を細めるのだった。
* * *
「やれやれ、終わったみたいだね」
アイたちがいた場所から西へ約700メートル。
崩れかけたビルの屋上で、一人の少女が双眼鏡を下ろした。
眼下ではシタデルの戦車が瓦礫を避けながら後退し、歩兵たちも周囲を警戒しつつ撤収を始めている。
さきほどまで砲声が響き渡っていた街は、今では燃え盛る建物が立てる爆ぜる音だけが残っていた。
少女は小さく息を吐く。
その腕には赤黒いソウルリングが静かに浮かび、傍らには数本の発射筒を束ねた多連装型APILASが無造作に置かれている。
「……これで終わり、かな」
誰に聞かせるでもなく呟いた、その時だった。
ポケットの中でファンリックが短く震え始める。
少女は少しだけ面倒そうに肩をすくめると、端末を取り出して耳に当てた。
「ああ、隊長。仕事は終わったよ」
『……』
「うん。タナヴィーは逃げられたし、シタデルの連中も撤退を始めた。こっちの目的はほぼ達成ってところ」
少女は再び双眼鏡を覗き込む。
炎の向こうへ消えていくタナヴィーの戦車は、もう小さな影にしか見えなかった。
『……』
「うん。この多連装型APILAS、結構使い勝手いいよ」
彼女は足元の発射機を軽く蹴る。
「でも反動が強いからさ。隊長なら途中でへばるかも」
『……!』
「ははっ、そんなことないって?」
口元に少しだけ笑みが浮かぶ。
普段は無表情に近い彼女が見せる、数少ない自然な笑顔だった。
『……!!』
「はいはい。頑張ってよ」
そう言って空を見上げる。
黒煙がゆっくりと空へ昇り、夕日に照らされて赤黒く染まっていた。
「私は先に帰る。この辺に長居すると帝国の連中に見つかるかもしれないし」
『……』
「私たち、お尋ね者だもんね」
その言葉だけは、どこか自嘲気味だった。
『……』
「どうかな」
少し考えるように目を細める。
「シタデルの連中は帝国の傀儡の中でも筋金入りだし。あの様子を見る限り、簡単には寝返らないと思うけど」
少し間が空く。
風が吹き抜け、屋上に散らばった薬莢を転がした。
『……』
「……別の目的?」
眉がわずかに動く。
「あの帝国主義の学校が略奪以外の目的を持ってるって?」
『……』
「そう」
彼女は短く返事をすると、もう一度だけ戦場へ視線を向けた。
「あれは……凄かったな」
絶望的な包囲。
動かないはずの車両。
それでも最後まで諦めず、生還してみせた。
あの爆炎を思い返す。
あれがなければこちらも手助けできず、包囲網も突破できなかっただろう。
思わず息を呑んだのは、自分も同じだった。
「もしあの子たちが仲間になったら……」
自然と口元が緩む。
「きっと面白くなる」
ファンリックをポケットへしまうと、APILASを肩へ担いだ。
夕焼けを背に、屋上の扉へ歩き出す。
その足取りは軽い。
「今度、ちゃんと会ってみるかな」
鉄の扉が静かに閉まる。
屋上には誰もいなくなり、遠くで燃え続ける街だけが、戦いの終わりを物語っていた。
* * *
「うへ〜、帰ってきた〜」
アケミが砲塔のうえで大きく伸びている。
何者かが大戦車弾を敵に打ち込んだおかげでできた隙を狙い、アイたちは無事にユイを連れてタナヴィー校舎へと帰ってくることができた。
既に日は西の空へと沈みきり、春の烏が群れをなして飛んでいる。
「取り敢えずみんな降りてくれ。キドセンの状態を見なきゃだからな」
望夢のその言葉とともにみんながぞろぞろと降車していく。
聡太は降りると同時にエンジンを見に行った。
「ねぇ、節子」
「うん?」
「ソウくんって結構方向音痴だったはずなんだけどさ、何で運転手やってたの?」
「その場のノリ♪」
節子が両手でピースをしながらオチャラ気に応える。
それを見てアイはため息を付くしか無かった。
「まあ帰ってこれたしいいでしょ。終わり良ければ全て良しってね」
そう言って節子は腕を振りながら校舎へと行ってしまった。
彼女がここへ来るのは初めてのはずだが…。
でも空き教室は多い、今日はここにでも泊まっていけばいいだろう。
「あの〜、カズサ先輩。ユイ先輩どこに行ったか知りませんか?」
「ユイちゃんですか?ユイちゃんならすぐに校舎の方に行っちゃいましたよ」
「ありがとうございます」
アイはすぐに校舎へと走っていく。
「アイちゃん何かユイちゃんに用でもあったのでしょうか…」
カズサが独り言をつぶやいているところをよそに、望夢と聡太は頭を悩ませていた。
「どうしたの?二人とも」
「おお、レイ先輩」
「いや〜、急に再起動したエンジンを見てみてるんだけどさ。何で新品になってるんだろうってね」
聡太の見つめる先にあったキドセンのエンジンは傷一つ無いきれいな姿でそこにあった。
あれほどの戦闘を乗り越えてくれたのは嬉しいが、それでも無傷ということは絶対に有り得ない。
何者かが新品に取り替えたとしか考えられないほどだった。
「流石に誰かが取り替えたってのはぶっ飛んでるかな」
「あの短時間でこれほどの大きさのものを取り替えられる神技師がいない限りな」
このまま考え続ければ続けるほど謎の渦の中に飲み込まれかねない。
今はこのままにし、謎が解けるのを待つしか無いと考えたほうがいいだろう。
「聡太、ここまでにしよう。たぶん考えるだけ無駄だ」
「そうだね」
そう言って聡太は立ち上がると、大きく伸びをする。
「でもキドセンはこのまま動かさないでおくと、僕ら今日中にパリロイアに戻れないんだけど」
「ならここに泊まっていきゃいい。空き教室ならいくらでもあるからな」
「そうなのか、ならお世話になろうかな」
そう言って二人はキドセンをあとにする。
その間、アイは屋上への階段を駆け上がっていた。
ユイと少しでも話をするために。
* * *
アイが校舎屋上の扉を開けると、フェンスに寄りかかっていたユイがそこにいた。
「何で来た」
ユイは開口一番、かなり低い声で言ってきた。
「貴方と少し話がしたかった」
「へぇ、君を殺しかけたのにかい?」
「殺されかけたからこそですよ」
アイはそう言いながらユイの横に並ぶ。
屋上からの景色は素晴らしく、荒廃した街が沈んだ日の残り火に照らされ美しい赤色となっている。
「少し聞きたかったんです。私と同じ名前の人について」
そう首を横に向けると、ユイは足を振りながら口を開いた。
「捕まってる間、君とアイツの違いを色々と考えてた。髪も目も姿も全く同じだったけど、確かに違うところを一つ見つけた」
「どんなところが違ったんですか?」
「身にまとってる雰囲気だよ。君はもう光のオーラ全開だよね。私敵じゃありません感がもう溢れ出てる」
「そうですかねぇ」
「でも、アイツは違う。なんかこう…ロボットみたいな、人を殺すのを躊躇しない殺戮マシンみたいな感じだった」
そういったあと、一瞬静寂が二人を包んだ。
アイがユイの手元を見るとその手は細かく震えており、その顔は赤く紅潮していた。
そして
「本当にごめん!」
ユイは大きく腰から身体を折る。
「名前が同じだって理由で、あんなに傷つけて。途中でおかしいって気づいても衝動ばっかりに身を任せて…。アケミ先輩にも言われてたのに…こんな…。
本当にごめん!」
見えないが、おそらくユイの目からは涙がこぼれ落ちているのだろう。
最後の言葉は、明らかに震えていた。
「大丈夫ですよ先輩。私は貴方と友達でいたいんです。取り敢えずこの2,3日のことは水に流しましょう!」
「いいのか?」
「ええ!先輩と嫌〜な関係でいたほうが私はずっと嫌ですから!」
アイの無邪気な笑顔がユイの最後の結界を破ったらしい。
ユイは膝をつくと大声で泣き始めてしまった。
アイはそれを優しく包み込む。
「これからもよろしくお願いします。ユイ先輩」
ユイの泣き声で遮られそうになったが、その言葉は確実に彼女の耳に届いたことだろう。
それを遠くから5人の生徒が見守っている。
日は完全に沈みきり、夜空には満天の星空が広がる1982年4月27日のことだった。
* * *
「何で2日連続でここに来なきゃならんのかね〜」
壮大な装飾に彩られた謁見の間にまた中浦カスミは来ていた。
いつもならば一週間おき程度にしか来ないのだが、今回は2日連続で来る羽目になってしまった。
それもこれもシタデルの傀儡どもの失態のせいだ。
一度ならず二度も目的を達成できず撤退したとなれば皇帝の怒りも如何程になるか検討もつかない。
しかもその怒りを一番最初に受けるのが側近であるカスミ本人であるというのもあり、彼女の足取りは重かった。
だが、足取りは重くても進んでいるのは確かだ。
赤いカーペットの敷き詰められた階段を一歩一歩と進んでいっている。
ー「どうせお叱りを受けるならさっさと終わらそう」
そう考えることにし、ゆっくりと最上段へと足を踏み入れた。
最上段の奥の玉座では皇帝がいつも通り足組み、憮然と座っていた。
その身からは底しれない怒りのオーラが……出ていなかった。
それどころかその口にはかすかな笑みすらもこぼれている。
まさか怒りを通り越し、笑うことしかできなくなったわけではないか?
カスミは皇帝の前へ出ると、右膝と右拳を地面につけ跪いた。
「皇帝陛下、ご機嫌麗しゅうこと存じ上げます。しかし、その心に火を投じるご報告をしなければならぬこと、小官は大変残念に思われます」
カスミは精一杯の”ご機嫌取り”を試みた。
だが、皇帝は低く笑って顔を上げるよう言った。
「カスミ、そこまでわかりやすく予の機嫌を取らずともいい。今日の予は機嫌がいい」
「は?」
予想外の返答にカスミはあっけにとられる。
「今まで無意味に広げてきた版図共の網の中に、自ら獲物が飛び込んできおったわ」
ー「ああ、そういうことか」
シタデルがタナヴィーに惨敗したという報告で頭がいっぱいだった。
だが、真の彼女らの目的であるものは既に達成されていたようだ。
「では、シタデルはいかように処理されましょう」
皇帝は少し前かがみになりカスミに顔を近づける。
「第1戦車大隊を向かわせろ。もはや学校としての機能を喪失するまで徹底的にやれ」
「御意」
「して、もう一つあるのだろう?」
「はっ。シタデル内に潜入している諜報員の報告によると、タナヴィー校の撤退をレジスタンスが支援していたとのことです」
ー「まずったかな」
急に変わった皇帝の顔を見て反射的に思った。
レジスタンス。
アヴァン帝国学園の方式に異を唱え、離反した反乱分子。
これらの対応は帝国にとって目の上のたんこぶとなっている。
もしシタデルを退けたタナヴィーと手を取ったとなれば、その脅威度は飛躍的に増すことになるだろう。
「レジスタンスがか…。だが今はシタデルの方を優先しろ。第一大隊隊長に一週間以内に侵攻を開始しろと伝えろ」
「御意。ですが、北嶋アカリはどうされますか?彼女の能力はこちらの大隊長と比べても遜色あるものではありませんが…」
「いや、誰が奴らと手を組んでいるかわからない今、むやみに幕僚に加えるわけには行かない」
「では、問題が解決次第、幕僚に迎えると?」
皇帝は黙り込んだが、その口元はニンマリと笑っていた。
「承知いたしました。第一大隊隊長にもそう伝えておきます」
すると、皇帝は再び身を乗り出してきた。
「して、カスミよ。一つ疑問なのだが…」
「はい、どうぞ何なりと」
「タナヴィーが使用したという高機動戦車は何処から入手したものなのかね?」
「そこに関しては既に推測が立っているようで。最近入学したという二人の新入生のいずれかが保有していたものであるそうです。おそらく奴らとは無関係かと」
皇帝は身を引くと納得したように頷く。
そしてカスミに下がるように言った。
「御意。我がアヴァン帝国の目的が速やかに解決されることを願って」
そういってカスミは踵を返し階段をゆっくりと降りていくのだった。




