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プロフィティエスヒストリー  作者: Seydlitz
第二章 残響の世界へ
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第二十話 パリロイアと寵愛

「いや〜、私の身体とは全く違う艦橋してるわね」


あれから少しあと、アイとオイゲンは潮の艦橋にいた。

オイゲンの右手にはビールがある。


「あなたもパーソナルモデルっていいましたよね?あの、何なんですか?それ」


そう聞くと、オイゲンは驚いたような顔をする。


「貴方、母親の正体知らないの?」

「一応、太平洋戦争を戦った駆逐艦ってことだけは知っているんですが、何で人の形をしているのかとかは知らなくて…」


そう言うと、オイゲンは困ったようにビールを飲み始めた。


「じゃあ、ちょっと説明するとしましょうか」


そう言うと、オイゲンは艦橋中央にある机に腰を乗せた。


「『パーソナルモデル』っていうのは、そうね…あなた『空の艦隊』はわかる?」

「はい」

「それなら話が早いわ。『空の艦隊』の艦艇が持つ『ヒューマンモデル』はコアを中心に身体を構成しているのだけど、人類艦はCとかFeとかの元素をもとにして人体を作り出して〜…ってこれは難しいわね。人類が人形の入れ物を作ってそこに船の魂の半分を入れ込んだもの、それが『パーソナルモデル』なの。

艦=パーソナルモデルと考えてもらって構わないわ。

あと長いから次から『PM』って言うから」


いきなりの長い説明に頭がついていけなくなるが、要約すると、「艦の分身が『パーソナルモデル』である」ということだ。


「そしてあなたはその『PM』の子。ならあなたにだってこの船を自由に動かすことができる。たぶん何となくこの船の操作方法知ってたりしたんじゃない?」


彼女の言う通り、室蘭を出発した時、なんとなくだが船の操作方法を知っていた。


「『この船を自由に動かせる』ってどういう意味なんですか?」

「よくSFとかで直感的に空中で剣を操作する人とかいるじゃない?あんな感じよ」


そう言われてもよくわからないが、どうやら一人で船を動かせるらしい。


「でもあなたはハーフだから動かすときはその体を動かすことはできなくなるだろうけどね」


最後になにか不穏なことを言っていたが、それ以上聞くことは怖くなり、聞けなかった。

後で聞くことにしよう


「ところで、話は変わるんですけど」

「うん?」

「何でずっとビール持ってるんですか?」


 *  *  *


その後、オイゲンから彼女の出自やPMの歴史について聞くことができた。


どうやら彼女は1938年生まれで、ビスマルク追撃戦などを戦ったらしい。


その後欧州の海を戦った後に祖国が敗戦し、『USS プリンツ・ユージン』としてアメリカに接収された後、ビキニ環礁の水爆実験の標的艦となった。


だがどういうわけか生き残り、どういうわけか空球に転移し、どういうわけかこの護衛団の第二艦隊旗艦をしているそう。


(ちなみに、さっきした「なぜずっとビールを持っているのか」という問に対する答えが


「イエスの身体は『パン』、血は『ワイン』でできている。ならドイツ人の身体は『ソーセージ』、血は『ビール』でできていることになる。だから私はビールを持っているんだ」


というものだった。


何を言っているのかわからないが、彼女の好物はビールとソーセージらしいということはわかった)


「凄い人生ですね。いや、艦歴かな」

「まああの戦争を生き残ったのが一番の幸運だった。『欧州一の豪運艦』なんて呼ばれたりもするかな。たしか『Lucky Eugen』だったね」


オイゲンはドヤ顔で言う。

アイは第二次世界大戦をあまり知らないが、彼女の話を聞く限り確かにすごいことだということが伝わってきた。


「そしたら潮の話についてしたいんだけど…」

「おかあさんといっしょに戦ったなら知ってることたくさんありますよね?教えてください!」


アイは待ってましたと言わんばかりに身体を乗り出す。

共に戦った仲であるというのなら母についても色々知っているのだろう。


「ごめん…私潮さんにあったこと無いからわからない」


腰掛けていた机から盛大にずり落ちる。


「え?あったこと無いんですか?」

「私が護衛団に入ったのは戦後だし、目覚めたのは1971年だからね。っていうか私潮さんと戦ったなんて言ったっけ」


たしかに母について知っているとは言っていた。

しかしそれは母のメンタルのことなどではなくスペックなどのことだったらしい。


だがアイにとってはそれでも全く構わない。

これからこの先、この艦とともに人生を積み上げてゆくのであれば知らなければならないことなどたくさんある。


「それならこの船のスペックを教えてください!」


そう言うと、オイゲンはビールを一口飲んで言った。


「Überlass es mir!」(任せなさい!)


 *  *  *


「護衛艦パリロイア」

正式名称 固定翼機搭載兼主力戦車搭載型旗艦級駆逐艦改パリロイア級一番艦 パリロイア

所属 無所属(仮)


・基準排水量 8000t

・満載排水量 9217t

・全長 150.7m

・全幅 19.2m

・速力 53kt(96.3km/h)

・主機 原子力機関&重核子大戦艦型エンジン連装機関

・乗員 8名

・武装

 ・主砲 50口径12.7cm連装重核子ビーム砲×2

 ・機関砲 25mmパルス高速機関砲×2

 ・速射式機関砲 PHALANXΔ×1

 ・MK.72 VLS崩壊弾頭搭載×8

 ・MK.68 SAM崩壊弾頭搭載×12

 ・MK.66 AMB崩壊弾頭搭載×6

 ・MK.70 SUM崩壊弾頭搭載×6

 ・ハープーン4連装発射筒×2

 ・400mm3連装短魚雷筒×2

 ・改造型超重核子砲×1

・防御

 ・新式時空間接続式防御転移システム(アストラルリンクシステム)

 ・強制砥粒装甲アブレシブ・フィールド

・搭載機

 ・艦載機 F-42 エグゼクター×1

 ・主力戦車 K2 白豹×1

・その他 転移魔法文様


 *  *  *


「ざっとこんな感じね」


オイゲンは「やれやれ」といった感じで肩を叩く。


「あの、まあ、色々言いたいことはあるんですけど…」


そう言うと、彼女は微笑んで


「あなたはこの先この船とともに成長していく。今聞かずともいずれわかることはたくさんあるわ」


と言ってくれた。

だが、ただ一つだけ聞きたい。


「どうして私はこの船を動かせるのですか?」


オイゲンの話によると、『PM』は直感的に自らの船体を操縦することができる。

当然だろう、自らが自らの手足を動かせないことなどありえない。


しかし、アイは違う。


たしかにアイは『PM』の娘だ。

だがそれが『パリロイア』を操艦できるという彼女の言葉の裏付けにはならない気がする。


娘といえど、所詮は他人の身体なのだから。


「う〜ん、そのへんは結構難しいのだけど…。なんて説明したものかしらね…」

「残念だがそこについては全くわかってないと言っていい。なにせPMと人間のハーフなんぞ貴様が最初なのだからな」


二人が振り向くと、そこには艦橋に入ってきたばかりのレジストがいた。

両手はポケットに入れられ、深被りされた帽子は彼の顔の半分ほどを隠している。


「私が、最初?」

「そうだ。お前が生まれるまでPMに生殖能力があるなんてわかってなかったからな」


なにか急に話が生々しくなった。


「それにその子が正常に成長するかどうかもわかっていない。PMの寿命は本体が存続し続ける限り半永久的に生き続ける。下手するとお前は他の人間よりも遥かに長いのかもしれんな」

「ちょっと待ってください。『艦が存続し続ける限り』って…」


アイの中の直感が、「この質問をするべきではなかった」と警告してくる。


「船の死をどう定義づけるかは難しいところだが、仮にパリロイアが敵の砲撃により沈んだ場合、その分身体であるお前の母親も死ぬ」


その言葉がアイの胸に深く突き刺さる。

叶うのなら外れてほしかった直感があっさりと否定され現実のものとして突きつけられた。


自らの采配を一つ間違えるだけで母が死ぬかもしれない。

その重圧に耐えることなどできそうにない。

「まぁ、あまり深く考えることじゃないわよ。『アストラルリンクシステム』持ってる船が沈むなんて万が一にもないから」


オイゲンが震える肩に手を添えて言ってくれた。


しかし、それが安心材料になるとはアイには思えない。


現にそのシステムを搭載した船。

『戦艦ムサシ』はフィリピンの海深くに父とともに沈んでいる。

「『アストラルリンクシステム』を持っていれば沈まない」などという戯言を信じることなど一向にできやしない。


「お前が母親を死なせたくないと思うのなら、その思いに通ずる行動を取れ。突き放すような言い方だが、ここから先はお前たちで考え行動しなければならん。そのことをしっかりと覚えておけ」


レジストは目をそらすことなくまっすぐにアイの目を見る。

アイもそれに答えるように大きく頷いた。


すると彼は満足したように目を閉じたあと、大きく手を叩く。

あまりにも大きい音で、アイは一瞬飛び上がってしまった。


「陰鬱な話はここまでだ。この船は俺達には全く理解の追いつかないほどの神秘の塊だ。この先のお前たちの冒険をしっかりとサポートしてくれるはずさ」


レジストは破顔して笑い出す。


「団長は根っからの機械厨だからね、あなた達が羨ましいのよ」


オイゲンが耳元で囁いて教えてくれた。


その後、1時間近く船の性能やギミックを教えてくれたのだが、あまりにも長過ぎて半分ほど忘れてしまったかもしれない。


 *  *  *


船の外ではまだまだ宴会が続いている。

ただ何人かは酔いつぶれてしまったのか長椅子の上で寝ている人や、海に吐き出している人もいた。


「おいお前ら!ガキどもが見てんだから滅多な姿見せんじゃねえぞ!」


レジストは艦橋の窓から身を乗り出して怒号を上げる。

あまりにも大きすぎて声が響き、アイの耳をもつんざいた。


「団長さん、大きすぎです」


焼きそばを持ってきた葛城に後ろから釘を差された。

レジストは苦笑しながら窓を閉める。


「まったく誰に似せてそんな大声を出してるのですか?」


葛城のその言葉の一瞬あと、レジストの顔が曇った気がした。

その視線に気づいたのか、レジストは「フッ」と笑いながら


「どうした?俺の顔になにかついてるか?」


そう言われ、アイはすぐに視線をそらす。

その横ではオイゲンがクスクスと笑っている。

ただその眼はなにか悲しいものを見るような慈悲の眼をしていた。


レジストは大きく息を吐くと、窓際にあった椅子に腰掛け話し始める。


「空球人の中にはたまに常識じゃ考えられないような特殊能力を持つ奴らがいる。無から物体を生成できるやつ、植物を操るやつ、未来を感知できるやつとな…」


最後の言葉と同時に彼の眼は鋭くアイを見つめる。

「お前のことだ」と言いたそうな眼だ。


「大体はそいつらのことを『寵愛者』と呼び、能力自体を『寵愛』と呼ぶ。その『寵愛』を受けるものは万人に一人いればいいほうだが…。日本なら大体6000人ほどか、結構いるな。まあレアかどうかと言われりゃ難しいとこだが、そんぐらいの確率だってことだ」


そうすると隣に立っていた葛城が手を上げた。


「補足いたしますね。団長は今『万人に一人』とおっしゃいましたが、正確には1000万人に一人となります。なので日本には6人いればいい方ということになりますね。正確に把握しておいてください」


最後の方はレジストに向けられた言葉だろう。

彼は手を顎に当てて「そうだっけか…」と呟いていた。


「え〜っと、取り敢えずとても少ないということはわかりました。でも今しなきゃいけないことなんですか?それ」


アイは頭に出てきたいくつもの質問の内一番大きなものを出した。

明日には出発すると言うのに、今こんな話をされても困るだけだ。

できるだけ時間は有効に使いたい。


「まあ聞け。もちろん何もお前の時間を奪い取るためにこんな話をしてるわけじゃねえ。話には順序っつうものがあんだよ」

「はあ…」


曖昧な返事をすると、レジストは片手の持っていた酒を一気に飲み干して続けた。


「ここまでの話はこの先学校に行けばすぐに分かることだ。だが、この先は教えてくれんぞ?」


ー「一応真面目に聞いておこう」

アイはそう思っておくことにする。


「さっき『寵愛者』は1000万人に一人だといった。だがこれは正確には正しくない」

「???」


「万人ではなく1000万人」という訂正がさらに訂正されるという混沌とした話に全くついていけない。


ー「この人、結構酔ってない?」


「実は寵愛者は一族の中で受け継がれるものでな、突然新たなやつが生まれるということはめったにない。お前の『未来感知』もお前の父、祖母、曽祖父、そのまた先祖から代々受け継がれてきたものだ」

「さらに、その『寵愛者』の中にまた100分の一ほどの確率で2つの『寵愛』を受けている奴らもいる。10億人に一人とかいうとんでもねえレアキャラだ」


ここまで言われれば、次に何を言われるかはだいたい想像がつく。


「お前がいる『プロフィティア家』もそうだ」

「やっぱり」


思ったとおりだ。

そう言うとレジストは面白くなさそうな顔になる。


「お前、なんかもっと無いのか?驚いたりよ…」


アイの隣ではオイゲンが狂ったように笑い始め、葛城も口を手で覆い、笑いをこらえているようだ。


「驚いたりはしないですよ。だって今までの話聞けばわかりますし。でも2つ目の能…『寵愛』は気になります」


これは彼女にとっての本心だ。

この能力がなにか、何もできない自分に希望を見せてくれるのではないか、母を守る力になるのではないか。

そう直感的に思える。


レジストはニヤリと口を歪める。

明らかになにか良くないことを考えている顔だ。


「そうかそうか。ならば教えてやろう」


その10分後、アイは2つ目の『寵愛』について尋ねたことを本気で後悔した。

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