第十八話 護衛団と入学準備
「いや〜遠かったね〜」
空球に転移してから2日。
アイたちは『葛城』に連れられ、ようやく護衛団の基地があるセント・レオポンズ島へ到着した。
レイの説明によるとこの島は火山島であったがすでに噴火は終わっており、多数の洞窟が存在しそのすべてが内部の広い空間につながっている。
そして内部の空間に多数の艦艇が停泊しているとのこと。
更に島の奥は平地となっており、護衛団員は底に住んでいるらしい。
(アイが「何でそんなに知ってるの?」と聞くと「昔に来たことがある」とだけ答えてくれた。)
そんな洞窟の中を抜け、パリロイアは空間へと出る。
港は全体的に暗かったが、天井に空いた大穴(おそらく噴火口と思われる)から陽の光が入り、海は神秘的に照らされている。
多くの人が行き交い、タンカーのように巨大な船から小さな漁船までいる。
そこは見慣れた室蘭の港に似ていた。
ただ一つ、軍艦が多数いることそれだけを除けば。
港には『葛城』と似たような船が4隻ほどあり、『パリロイア』と似たような船も多数停泊しており、その中には最新鋭の空母、時代遅れともとれる砲艦、頭だけ見える潜水艦も含まれている。
そんな船の中で1隻だけアイに見覚えがあった船がいた。
『CVN-65 原子力航空母艦エンタープライズ』
父たちとともにいた4隻の空母のうちの1隻だった。
その全てに共通して赤紫色の鴉と銀色の錨の紋章が入っている。
レイによるとあれは護衛団のシンボルマークらしい。
そんな港の一番端っこのバースに泊まるように言われた。
ラッタルが降ろされアイたちが上陸すると、そこには一人の男が立っていた。
黒い軍服に身を包み、緑色の髪と同じく緑色の目、そして右腕に刻まれた大きな傷跡。
その人物はそこにいるだけで威圧感を醸し出していた。
「よく来たな、エクシードのガキども。俺はレジスト・ダンケルド。プロフィティア海域護衛団団長だ」
* * *
望夢は思わず背筋を伸ばし、節子も少し腰を落とし警戒するような姿勢を取る。
レイですら少し警戒しているようだ。
しかし次の瞬間、レジストと名乗った男は大声を上げて笑い出した。
「ハッハッハ!そんな警戒するな!エクシードのガキどもだろう?歓迎するぜ」
アイたちは呆気にとられる。
つい先程まで出していた威圧感はどこかに消し飛び、なにか気さくそうな雰囲気を出すようになった。
「レイ、お前までそんな警戒しなくてもいいだろう。少しの間だけだったが共に戦った仲だ!」
そう言われるとレイは更に警戒するようになった。
「少しの間だけでしょ。言いたいことは色々あるけど後で」
レジストは「フッ」と息を吐くと同時に左の眉を上げる。
まるで何かを挑発しているようだがレイは何も動じなかった。
そんなことをしていると、レジストの奥から一人の女性が歩いてきた。
黒く長く美しい艶髪に赤い楓のような髪飾りをつけ、緑色の着物で身を包んでいる。
「団長さん?そんなに挑発しないであげたら?レイさんも色々あったようだし」
女性はゆっくりと、まるで女将さんのように話す。
そしてアイの方を見た。
「お久しぶりですね、アイさん。と言っても貴方は覚えていらっしゃらないでしょうけど」
「またその展開…」
アイは露骨にうんざりした態度を取ってみせた。
自分は覚えていないのに相手から一方的に「久しぶり」と言われる。
すでに何度も同じことを言われなんだか若干イライラしてくるほどだ。
それに女性は「あらあら」と返すだけだった。
「では自己紹介に行きましょうか。私の名前は『葛城型強襲揚陸艦一番艦[葛城]』。元大日本帝國海軍『雲龍型航空母艦三番艦[葛城]』であり、そのパーソナルモデルです」
パーソナルモデル。
その単語にアイは驚く。
確かムサシもパーソナルモデルという単語を使っていた。
それも母のことを指して。
「お気づきになられたみたいですね。貴方のお母様と同じものです」
そして続きを話そうとした時、レジストが横に入ってきた。
「その話は長くなるだろう、後にしてくれ。先に話すことが多くある」
「そうでしたね。では皆さん一旦私達の司令部にお越しください」
そう言って葛城はエスコートするように右手をゆっくりと差し出した。
「いや〜、アイちゃんは知り合いが多いねぇ」
節子が手を後ろに組みながら話しかけてきた。
「こっちは全く知らないんだけどね。正直うんざりしてくる」
「まあしょうがないんじゃねえの?お前の父さん結構有名人なんだろ?」
望夢も横から割り込んできたがそんなことに構ってられない。
「ほとんど家にいなかったんだよ?それで有名人だなんて言われても知らないとしかいいようがないじゃん。てか実際お父さんのことは全く知らないんだよ?知ってるのは軍人で海神の艦隊群ってとこの司令官ってことだけ」
今まで思ってきたことの一部をまくしたてるように話してしまった。
それを見て望夢と節子はニッと笑って言ってくれた。
「俺さ、前に言っただろ?『そんな悩むことじゃない。このあとお前の父親と関係大有りな場所に行くんだからよ』ってな」
「そうそう、思い込みでやられちゃうよ〜?」
二人はその後レイが押す聡太の車椅子のもとへ走っていった。
この先いろいろなことがあっても、みんなといれば大丈夫。
単純にもそう思えてきた。
* * *
護衛団の司令部は港から少し登った場所にあり、いくつもの四角がくっついたような歪な形をしていた。
そしてアイたちは今、その司令部のうちの一室。
状況確認室という場所にいる。
テーブルの上には空球の世界地図と海図、そしてラディオスの全体地図が置いてあった。
アイたちはテーブルを挟みレジストと向かい合ってソファに座っている。
5人で座っているというのにゆったりとできるほどの広さがあった。
「俺達は簡単に言えば海の警察だ。海賊退治、航路警備、災害救助、国家間調停。まあいわゆる何でも屋だな」
レジストは腕を組みながら続ける。
「『プロフィティア』なんてのがつくからエクシードが作ったものだと考えるだろうが、じつは違う。彼の、というかアイ、お前さんの親戚である『グロワール・プロフィティア』が創設したものだ」
「へぇ、アイちゃんのお父さんじゃないんだねぇ」
「あいつが作ったら自分の名前なんて入れねえからなぁ」
そんな事を話しながらレジストはラディオスの全体地図を取り出した。
「創設者の話なんて今はどうでもいい。今しなきゃならんのはラディオスへの入学準備だ。まず確認だが、全員行くってことで間違いねえな?」
「はい、そのつもりです」
望夢が代表して頷いた。
それを見てレジストは満足そうに頷く。
「うし、それじゃああのイカれた学校の概要説明と行こうか!」
* * *
「…と言ってもラディオス内部のことは殆どわかってねえから説明できることがほぼねえ」
節子が大げさにコケてみせた。
「えぇ〜?あんなに大声だしてそれ?」
「しょうがないの。あの学園はHOOP・VIAが管理している特務機関だということはわかっているのだけど、そのせいで情報が全くと言っていいほど入ってこないのよ」
「わかっているのは…そういやレイ、お前ラディオス出身じゃねえか!お前から言う事とかねえのか?」
そうすると、レイはとても嫌そうな顔をしてそっぽを向いて
「行ったら教えるから…」
といったきり押し黙ってしまった。
それを見てレジストは頭を掻きながら苦笑する。
「そういやそうだったな、まあこいつらに教えるんならいいか」
「まあ、いつかね」
そしてレイはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「ねぇアイちゃん、なんか話噛み合ってなくない?」
隣から節子が小声で言ってきた。
たしかにさっき、レジストとレイの会話はなにか不自然なものがあった気がする。
「そうだね。でもあんまり深入りしないほうがいいかも」
取り敢えず節子に忠告しておく。
レイの過去についてはわからないし、それをアイも知りたいと思う。
だがレイの過去に干渉するのはあまりやらないほうがいいと感じていた。
葛城は大きく息を吐いてレジストに言う。
「レイさんにも昔色々あったでしょう?流石に軽率すぎますよ」
「ああ、すまなかったな。話を戻すとしよう」
レジストはそう言ってアイたちの方に向き直る。
「俺達が知っているラディオスは以下のようなものだ」
・HOOP・VIAの聖革命軍兵士養成の場
・生徒の殆どは女性体である
・生徒はほぼ全員銃火器を携帯している
・学校数は30を超える
「といった感じだな」
ーいや、まず2,3箇所突っ込ませろ!
その場にいた4人全員が同時に思ったことだ。
「ちょ、ちょっといいですか?ラディオスってのはただの学校じゃないんですか?てか銃火器?」
望夢が身を乗り出して聞く。
「ええ、そのとおりです。現在わかっていることだけですが、ラディオスは単なる教育の場ではなく教育と兵士養成の場ではないかと考えられています。レイも元HOOP・VIA兵士ですしね」
「そういえば脱走兵だって言ってたかも」
「さらにラディオスは銃火器の携帯がごく日常的に行われています。それこそ銃を持たないものより裸で街を歩くもののほうが多いほどです。あなた達にも後で選んでいただきます」
「え?ほんとに?」
聡太が目を見開いて聞いた。
「僕この通り左手足がないんですけど…」
そうするとレジストが低く笑った
「心配するな、例の胡散臭魔術師に頼まれて君用の義手義足を作ってある。後で調整といこう」
「ほんとに?!」
聡太は車椅子から立ち上がるのではないかと思うほど勢いよく体を前に出す。
今まで7年近い車椅子生活にうんざりしていた聡太にとってはこれ以上無い朗報だろう。
「良かったねぇソウくん」
車椅子の後ろによりかかりながら節子が笑顔で言う。
そうすると聡太は気難しそうに目を逸らしてしまった。
それに節子は聡太の頬をツンツンするという追い打ちをかました。
「やめとけって」
望夢の静止も聞かず、節子は続ける。
それをレジストと葛城は笑いながら見ていた。
「さーて、だいたいするべき話は終わった。そんじゃお前らの銃を決めに行くとするぞ」
それを聞いて全員の身体が固まる。
「え?もう決めるんですか?」
「まともに扱えるように訓練しなきゃならんだろう。それを一週間でやれなんて無理難題を押し付けられてんだ。ほれ、さっさと行くぞ」
そう言ってレジストはさっさと部屋を出て行ってしまった。
4人は顔を見合わせる。
全員の顔が「どうする?」といった表情だった。
「ご心配なく。扱い方さえ覚えてしまえばある程度の安全は保証されるものですよ」
葛城もそういった後部屋を出ていった。
「じゃあ、行こっか」
アイの後を3人がゆっくりとついていく。
* * *
護衛団司令部を出たアイたちは、レジストに連れられて港のさらに奥へと向かっていた。
巨大な洞窟を貫く通路を進み、やがて分厚い鋼鉄製の扉の前へ到着する。
扉の上には大きく、
『第七兵装管理区画』
と書かれていた。
「ここだ」
レジストが端末に手をかざす。
ガコン、と重々しい音を立てて扉が左右に開いた。
「うわ……」
アイは思わず声を漏らした。
中は倉庫というより博物館だった。
壁一面に銃器が並び、天井には対戦車砲や機関砲が吊るされている。
古い火縄銃から最新式の自動小銃まで。
世界中のあらゆる武器が集められているようだった。
「好きなの選んでいいんですか?」
望夢が目を輝かせる。
「好きなのじゃねぇ」
レジストは即座に否定した。
「お前らの身体能力、戦闘記録、魔力適性、性格、全部調べた上で候補を絞ってある」
「いつの間に……」
「護衛団を舐めるな」
レジストはニヤリと笑った。
* * *
その後、アイのほか全員分の専用銃が配られた。
それぞれが自らの銃を眺めてみたり構えてみたりと興味津々だ。
それを見てレジストも満足そうに頷いている。
「よし」
そしてニヤリと笑う。
「武器の扱い、射撃、格闘、実戦訓練、応急処置、戦術行動」
レジストは指を折りながら数える。
嫌な予感しかしない。
「全部叩き込む」
「待ってください」
望夢が手を上げる。
「何だ?」
「休みは?」
「あるぞ」
全員が少し安心した。
レジストは続ける。
「睡眠時間だ」
その瞬間。
全員の顔が引きつった。
遠くで葛城が静かに笑っていた。
そして護衛団による地獄の入学準備週間が始まろうとしていた。




