第十六話 国際連合硫黄島基地
潮洞窟を出発してから5日。
パリロイアは太平洋を南へと進んでいった。
見渡す限りの海。
それしか無い。
前を向けば海。
後ろを見れば海。
横を見ても海。
どこまでも続いていく群青色の世界。
「いやぁ~海しか無いねぇ」
節子が艦首の手すりにもたれながら呟く。
「海だからね」
レイもその横で手をポッケに突っ込んで呟く。
「んぇ〜れいちゃんも夢を持とうよぉ。鯨さんとかいないかねぇ?」
「どこかにはいる」
「まあそうだけどねぇ」
節子とレイは横に並んで水平線を眺める。
アイ曰く
「3日もあればお母さんが教えてくれたところに着くから」
というが、全くそれらしきものは見えない。
そんな事を考えていると後ろから車椅子の音が聞こえてきた。
「そんなに海見てると目悪くするよ」
聡太は右手でタイヤを押しながら近づいてくる。
「そんなことある?」
節子は振り返る。
「無いとおもうんだけど」
レイは即答した。
「え〜、じゃあなんで言ったのさソウくん」
「なんとなく」
聡太は苦笑いをする。
この数日間、ずっとこんな調子で過ごしている。
暇なわけでもないがすることがない。
仕事はアイと望夢が全部やってくれている。
アイが操船を、望夢が艦全体を指揮している。
どうしてかは知らないがアイはこの船の動かし方がわかるらしい。
望夢も持ち前のリーダーシップを発揮し、最年長であるレイを抑えて艦長をしている。
それならば、ということで極力仕事をしたくない節子は少しエンジンの様子を見る以外はほとんど昼寝をしていた。
そのせいで少し日焼けをしたが節子は気にとめていないようだった。
「いや〜、のんびりしてるねぃ」
そう節子が呟いた時後ろにある艦橋の窓が開き、スピーカーを持った望夢が身を乗り出しいった。
「おーいみんな、前に島が見えるぞー!」
* * *
アイは今、遥か水平線城に見える島影を見つめながらパリロイアの舵輪を操作している。
その隣では望夢が双眼鏡で島を見ている。
「どう?島あってる?」
アイはそれとなく聞いてみる。
この船には自動操船システムというものが乗っているらしいのだが、どうにも信頼できるものではなかった。
なにせ2日前にはいきなり艦を西に向け始めたからだ。
望夢が異変に気づかなければ、今この艦は日本海にいるかもしれなかった。
更にその2時間後、今度はいきなり180度反転を開始し、それがあまりに急だったためアイが海に投げ出されるという自体まで発生した。
その他にもトラブルが絶えず、結局2,3時間おきにシステムの設定や航路を確認するということをしなければならなくなった。
「さすがに合ってるさ。海図に間違いがなければね」
「それ間違ってたらここがどこかもわからないよ」
そんな話をしていると艦橋後方の扉が開き節子たちが入ってきた。
「島見えたって〜?」
節子が眠そうな目をこすりながら聞いてくる。
さっきまで艦首の方で海を見てたはずなのだが。
「ああ、見えてるよ。ただなぁ…」
望夢はなぜか言葉を濁す。
そしてアイの方に双眼鏡を差し出してきた。
「ちょっと見てみろ」
そう言われアイは双眼鏡を覗いてみた。
真っ直ぐ続く海の向こうに小さな黒い島がみえる。
ただなにか違和感がある。
「砲台?」
「そうだ。なにか要塞みたいな、物々しい感じがする」
その島の周りには多数の砲台が設置され、崖には多くのトンネルがある。
海岸沿いに島をぐるりと囲むのではないかと思える高い防壁。
そして港と思われる場所には大型の軍艦が鎮座している。
その姿はまさの要塞と形容するにふさわしかった。
「戦争の跡だよ」
レイは静かに言う。
「ここは硫黄島。天球戦争時、地球連合とMAGISの連合軍5つあった再重要拠点のうちの一つ。今でも残ってるんだね」
全員が静かに沈黙する。
もはや戦争はとっくに終わった過去のものだと思っていた。
だが、誰も知らないところでその残り火はくすぶり続けていたのだ。
「な〜んでレイちゃんそんな事知ってるのさ?」
節子が沈黙を破る。
するとレイは気まずそうに目を逸らしていった。
「一応私あそこ攻撃したことあるから…」
「それにその時に結構情報見てるし…」
4人は全員「しまった」という顔をする。
「ああ、そうか。レイは戦争行ってたのか」
レイが戦争から逃げてきた脱走兵であるということを完全に忘れていたのだ。
「別にいいよ。その代わり君たちに昔のことを話せる」
「じゃあ聞かせて!」
そう節子が大声で行ったそのすぐ後、通信機から受信の音がした。
「残念、また今度ね」
それを見たレイが手を上げていった。
それを見て節子は口を尖らしている。
「はい!」
望夢はすかさず受話器を取る。
『こちら国際連合硫黄島基地。貴艦は現在航行禁止海域へと侵入している。即刻離脱せよ。これは命令である。従わない場合撃沈もやむなし。繰り返す、撃沈もやむなし』
若い女性の声だった。
しかしその声からは全く人間味を感じられず、まるでロボットがプログラムされた通りのことを話しているのではとも思えた。
場の空気が一気に冷え込む。
望夢の手は震え、受話器を落としそうになった。
『聞こえなかったか?繰り返す。貴艦は現在航行禁止海域へと侵入している。即刻離脱せよ。従わない場合撃沈も…』
「ちょっと待ってください!識別コードを伝えます!」
アイが通信を遮り、食い気味で叫んだ。
「コード13E97XD9EC3Eです!お願いします!」
その後、通信は切られた。
そのことがさらに場を急がせる。
「アイ、何なんだそのコードは」
望夢が冷静さを持って聞いてくる。
「お母さんに教えてもらったやつ。『硫黄島近くで通信が来たら伝えなさい』って…」
その後、また通信機がなり始める。
今度はアイが受話器を取った。
『識別コードを認証しました。海神の艦隊群旗艦、護衛艦パリロイアで間違いありませんね?」
「はい…」
『第4ステージへお進みください。長旅お疲れ様でした』
場の張り詰めた空気が一気に解ける。
アイも受話器を落としてその場にしゃがみ込んでしまった。
「よかった〜」
アイの喉の奥から出た安堵の声が響く。
「というか、相手はこの船を『海神の艦隊群旗艦』って言ってたよね?どういうことなんだろう?」
聡太はみんなが思った疑問を代表していった。
「う〜ん。お母さんは何も言ってなかったな」
アイは座り込んだまま頭を傾けた。
「だいじょうぶだよ、アイ。全部、この先の冒険でわかる」
レイは微笑んでいった。
パリロイアは真っ直ぐ硫黄島へ向かっていく。
* * *
島に近づけば近づくほど、その島は異様であることがはっきりしてくる。
「この島は1969年、あのときは黒鐵の艦隊って言ってたらしいんだけど、海神の艦隊群が母港として改造し始めたのが最初。その後の1972年のHOOP・VIA地球侵攻に合わせてまた改造されたの」
レイは窓を開け、そこから身を乗り出しながら話している。
まるで昔のことを思い出すように。
「その改造具合はすごくてね。島の周りが19%くらい埋め立てられてその先にでっかい軍港ができてね。それに硫黄島の戦いで旧日本軍が作った塹壕とかを使ってでっかい地下基地を作ったりね」
それを笑顔で話すレイを見て、4人は衝撃を受ける。
やはりレイとアイたちの間にはなにか大きな差があるのではないか。
そう思えた。
「で、え〜と地球侵攻を始めて2週間後ぐらいかな?硫黄島攻めたの」
「へ〜。どんな感じだったの?」
節子が窓際の席で背もたれによりかかりながら聞く。
「とりあえず近づいたんだけど、まぁ向こうからの砲撃がすごくてね。爆撃機とかも使って一旦とめたんだけどそれでも猛烈なのは変わらなかったな」
「その後島の周りの防壁を壊そうとしたんだけど、これがまた硬くてね」
「で、上陸したらしたでとんでもなく複雑な地下要塞で籠城戦されて。海神の艦隊群が来てもうおしまい。上陸帯の7割ぐらいがやられちゃった。作戦が悪かったねあれは」
またレイは外を見る。
その顔はいつもどおりの無表情だが、少し悲壮感あるようにアイには見えた。
窓の外からは段々と大きくなる硫黄島が見えている。
レイの言う通り、島の周りには海面から高さ6mはあるのではないかと思えるほどの防壁があり、その中段と上段には巨大な連装砲が並んでいる。
島に近づくと防壁の間のゲートが開き、そこから島の中がよく見えた。
島の山には建物が乱立し、いたるところにレーダーが設置され、山肌には対空砲が空を睨みつけている。
港には多数の軍艦が停泊している。
小さく、スリムな形をし、数が多い船
中くらいの大きさ、軽快な動きをする船
大きく、ずんぐりとした体を持つ船
平らで、そこに戦闘機が乗っている船
10年前、父を見送ったときに見た船とほぼ同じ船もある。
そんな軍艦達を横目に、パリロイアはゆっくりと指定された場所。
第4ステージと呼ばれる場所へと入っていく。
ステージには一人の女性が立っていた。
アイはその女性に見覚えがある。
アイたちはラッタルを通って硫黄島に上陸する。
「お久しぶりですね。アイ」
その女性はそう言ってきた。
「アイ、この人あったことあるの?」
節子が横から聞いてくる。
「うん、10年くらい前だけど」
「よく覚えてたな…」
望夢が呆れ気味に呟いた。
「この人はリコ・スチュアートさん。10年前にムサシを案内してくれた人だよ。
リコと呼ばれたその女性は優しく微笑んだ。
第二章 学園都市ラディオス編 スタートです。
第一章は15話で終わりましたが第二章は30話くらい行くかもしれませんが引き続きよろしくお願いします。




