第十話 RED SOLDIERS
世界中に核兵器通称ENBが投下され国際情勢は完全に崩壊し、世界は混乱のさなかにあった。
世界貿易市場は停滞し食料配給はままならず、医療品も手に入らず感染症による死者は増大する一方、株式市場が停止し株価は大暴落、ハイパーインフレにより通貨はほとんど意味をなくし、子供のおもちゃとなっている。
中東では第四次中東戦争が勃発。イラン、イラク、アフガニスタンを中心に砂漠は爆炎と衝撃波、そして大量の死体にまみれている。
欧州では食糧不足と大量の失業者が出たことにより各地で暴動が発生、更にクーデターが重なり、政権転覆が起こる国さえあるほどだった。
アメリカは欧州と同じく暴動が多発し、連邦政府が事実上消滅したことにより州政府がそれぞれ独自に行動を開始せざるを得なくなった。
アジア周辺では大量の餓死者が発生し、すでに国が崩壊し、難民が溢れかえっている。
日本はかろうじて存続しているものの、中央政府が消滅。急遽地域政府が成立し、7地域それぞれでの独自政府を持つこととなった。しかし食糧問題や失業者は後を絶たず、日本国消滅は時間の問題だった。
さらに核は2つの大きな遺恨を残した。
一つ目は放射性物質、二つ目は核の冬である。
放射性物質は世界中に降り注ぎ、世界中で原爆症と思われる患者が続出。しかし医療機器もままならないため患者は苦しみながら死を待つしか無かった。
海にも降り注いだため、水質汚染を招き漁業は深刻なダメージを負った。
核の冬は通常よりも2ヶ月早く世界の季節を進め、赤道上でも雪が降るという異常事態となった。これにより作物のサイクルは完全に狂い、農作物に大きな被害が出た。
これにHOOP・VIAの攻撃も加わり、それに対抗する組織も海神の艦隊群のほか数えるほどしかなく、蹂躙されることになってしまっている。
この半年の間に戦死、病死、殺害された人々の合計は世界人口の12%と言われている。
つまりこの半年で第二次世界大戦の死者の十倍を超えたというわけである。
そんな1973年だった。
* * *
父と別れてから半年、大変な日々だった。
父たちが行ってしまった後すぐに食料の供給はストップし、今まで以上に餓死者が道端に折り重なることとなった。
少女たちは山が近いということもありソウジの狩猟の先生である柏圭一の助けもあり、なんとか生き繋ぐことができたが、「この家には食料がある」という噂がどこからか流れ始めていた。
いい人は食料と衣服を交換しようといってきたが、ときには悪い人による強盗や窃盗に入られることもあり、対策に追われることになってしまった。
街には失業者が溢れかえっており、その中には祖父もいた。
「ENBによる放射性物質が海に流れ、室蘭の海にもそれが流れてきてそれを魚が食べるため魚が汚染されている」というデマ情報に人々が翻弄され魚の売れ行きは右肩下がりとなってついに祖父は漁師をやめてしまった。
母は高校の教師をしているため失業することはなかったが、それでも収入は戦争前の3分の1以下となっている。
しかもお金を稼いだとしてもそのお金にはほとんど価値がないため、冬の暖房の燃料になってしまった。
皮肉なことにその燃料のおかげで冬の間、凍死することはなかったが。
いまの戦争がどうなっているかもわからずそんな日々が続いていった。
* * *
そんな大変な中、過ぎていく一日の中に今日もあった。
その日、少女は節子、聡太といっしょに潮洞窟(潮がいるためそう呼ばれる)周辺でカニ釣りをしていた。
核の冬に覆われた海岸でも、カニたちも食料を求めているようだから釣れると踏んできたのだ。
「アイ〜つれた〜?」
少し離れたところから節子ののんびりとした声が聞こえてきた。
どれだけ生活が大変でも彼女の口調は変わらないらしい。
「いやーぜんぜん、かにのこたちみんなおひるねしてるみたーい」
少し距離があるせいで大声になってしまう。
そういった後周りを見てみると聡太の姿がない事に気づいた。
「あれ?節子ー。ソウくんはーっ!?」
声をかけた後勢い余って海に落ちてしまった。
それを見て節子がケラケラと笑っている。
「ありゃりゃ~、おっこちちゃったねえ」
「つめたーい!」
「3がつだもんねぇ」
そう言って節子は手を差し伸べてくれた。その手を掴み少女は海から這い出る。
「そういえばソウくんみてないね〜」
「ソウくんほうこうおんちだからね。さがしにいこう」
「オ〜」
二人で上に拳を突き上げ歩いていく。
その頭の上から雪がコンコンと降ってきた。
* * *
雛罌粟聡太
雛罌粟重工業の跡取りである今年5歳になる男の子であり、節子と同じく最も古い仲でもある。ドジっ子であり方向音痴なので毎度少女たちは振り回されっぱなしだが、少女はそれが楽しいとさえ思うようになってきた。
そのドジっ子は今少女たちから100mほど離れたところに立っていた。
「あ〜いたねぇ。アイちゃんいたよぉソウくん」
「あーほんとだ!おーいソウくーん!」
しかし声は届いているはずだが聡太は動かない。
それどころかその場の入り江の近くにしゃがんでしまった。
「あり?どしたんだろ」
そう言って節子は聡太の方へ走っていく。
少女もそれに習って走っていってみた。
しかし少しすると節子は急に止まってしまった。
そして聡太と同じくその場にしゃがみ込んだ。
少女も節子たちと同じ場所についた。
するとそこには女性が流れ着いていた。
「えっ…」
少女も絶句するしか無かった。
今は3月、しかも今年は異常に冬が長い、冬が長いということは海もずっと寒いということのはず。
なのにこの女性は海から流れ着いてきている。
この海の向こうには津軽海峡を挟んで青森がある。
そこから流れ着いたのか、それとも船から落っこちたのか、少女たちの頭は混乱するばかりだった。
更に驚いたことに、その女性は生きていた。
「とりあえずどうくつに運び込もう!このままじゃこの人しんじゃう!」
そう言って聡太は洞窟から逆方向に走っていった。
「ソウくんそっちぎゃくむきだよぉ〜!」
* * *
「う〜ん、このひとどっからきたんだろうね〜」
女性を見つけてから20分ほど経って、ようやく駆逐艦の上につれてくることができた。
「このひとおもい!」
「おんなのひとにそんなこといっちゃだめだよぉ、アイちゃ〜ん」
女性を艦長席に座らせ、少女たちはその周りで起きるのを待っている。
「にしてもきれいなひとだねぇ。きれいなぎんぱつだぁ」
その女性は少女の母ほどの背丈に肩まで伸びた銀髪、そして髪には円形のピンがつけられている。そして肩には小銃がかけられていた。
「そのじゅうはずしてあげたほうがいいんじゃない?かたこっちゃうよ」
「あれ?ソウくんなにもってきたの?」
少女は道に迷わず艦橋に来た聡太を見て言う。
「ひをつけれそうなものあつめてきたの。あんなさむいうみにいたらしんじゃうし」
女性の服からは海水が滴り落ちて下に水たまりを作っている。
「おお〜やさしいねぇソウくん」
そういった会話をしながら聡太は火打ち石を打ち付け手早く火をつけた。
少女たちは潮とエクシードに一定のサバイバル知識を教えられていたことが幸いした。
「これ、ゆかきだけどだいじょうぶなの?」
「う〜ん、たぶんだいじょうぶ」
そういいつつ聡太は下に鉄板を入れ始めた。
* * *
聡太が火をつけて10分ほど、節子と聡太は洞窟内の入江で釣りをしていた。
「ここってなにかつれるの?」
「あたしにはわかんないな〜」
「ええ〜」
ふたりがそんな会話をしている間、少女は女性の寝ている艦長席の前であやとりをしていた。祖母に冬の間教えられ、今となってはかなりの実力である。今も二段梯子を作っている最中だ。
そんな中いきなりPCの起動音のような音が聞こえた。
(もちろんこの時代にそんなものはないはずだが、少女には聞き覚えがあった)
少女は驚き、艦長席の方を見ると女性の手首足首に腕輪のような発光するリングが浮き上がっていた。
その光輪は赤色をしており、スコープのレティクルのような形をしている。
そして女性のまぶたが震え、ついに目を覚ました。
「ここは…」
よく聞き耳をたてなければ聞き取れないほどの細い声が火の灯る艦橋内に響く。
まだ女性の意識ははっきりしていないようだがそれでも目を覚ました。そのことが少女にとってはとてもうれしかった。
「あー!おねえさんおきた!」
「!!」
いきなりの少女の大声に女性は驚き、身を強張らせている。
そんなことも気にせず少女は入江で釣りをしている二人に知らせる。
「おーい!ふたりとも!おねえさんおきたよ!」
二人は顔を見合わせた後、艦横にかけてあるラッタルにむかって走っていった。
「……?」
女性は完全に呆気にとられた顔をして固まっている。
「わたしのなまえはアイリーン・パラロイア・プロティフィアだよ。よろしくね」
少し落ち着いた後少女は女性に自己紹介をしてみた。
「あ、私の名前は如月レイです…」
レイと名乗った女性は身を震わせている。
「あ、さむいよね。タオルどこだったかな〜」
少女はそう言ってタオルを探しに行った。
「プロティフィア…?まさか…」
レイの顔が青ざめながら言った呟きは少女に聞こえることはなかった。
* * *
その後合流した節子と聡太の紹介を終え、三人でレイに視線を向けていた。
「ええーっと、こ、こんにちは?かn」
「こんにちは!」
三人で大きく被せるように挨拶するとレイはまた困惑した表情になってしまった。
「そりゃそうだよねぇ、うみからながれてきたのにこれだもんねぇ」
節子はしんみりと同情しているようだ。
「とりあえずじこしょうかいおねがいします!」
「あ、はい」
「えーっと、私の名前は如月レイ。1960年製造のタイプⅫ型レッドソルジャーズの試験機であり学園都市ラディオス、タナヴィー高等学校2年生です」
「…???」
いきなりの難しい単語の羅列に少女たちは困惑してばかりだった。
「レ、レッドソルジャーズってなに?」
「しけんき?おねえさんロボットさんなの〜?」
するとまたレイは困惑した顔になってしまった。
「ごめんなさい、あんまり詳しいことは覚えてなくて…」
「うーん、うみからながされてきてたもんね、しょうがないよ。そうだ!おねえさんのことわかるまでわたしのいえにおいでよ!」
少女は元気に提案してみた。
「ええ、いいの?アイ」
「いいよ!たぶん」
「たぶんか〜い」
三人で楽しくなっていると、レイは少し笑っていった。
「それなら、少しお世話になろうかな」
こうしてプロティフィア家にまた一人家族が増えた。
その女性はこの先少女の人生において大きな影響を与える一人になる。
洞窟の外ではまだ雪が優しく降り続いていた。




