第三十話 同化
メディが原住民の掌握を行う速度は、はっきりいって異常だった。
原住民が教え、メディが覚え、それを書き記す。
それを見た船員たちが、徐々にだが、原住民の言葉のごく一部を解するようになる。
そうすると、協力と報酬が自然に生まれた。
船員たちは原住民から資材や食料を買い付け、報酬として鉄製品や魔道具をわたすか、ときに食事を振舞った。
しばらくそんな関係が継続していた。
ある日、メディのもとに一人の獣人がやってきた。よく手伝いに来ている女の獣人だ。
原住民の言葉で話しかけようとするメディだったが
獣人が先に口を開いた。
「さかな ほしい きょうは」
メディの背筋にぞわりと悪寒が走った
発音もたどたどしく、完全とは言えない言葉だったが、間違いなく王国語だった。
少女は驚いた様子のメディに満足げだったが、獣人が王国語を話したことに驚いたわけではない。
『ソフィアの予想通り』『原住民が自発的に』言葉を覚えたことに驚きを隠せなかったのだ。
メディは固唾を飲む。
ソフィアの指示通りに行わなければならない。
たとえそれが、原住民の文化を破壊する行為だったとしても。
メディはなるべく優しい口調で、原住民の言葉を使い話しかける。
『わたしたちの ことば ありがとう。たくさん さかな あげる』
少女は目をキラキラと輝かせ、フレンダの作った魚料理を受け取った。
この地にはない香辛料をたっぷりと使い、彼女らが知らない調理法で作られた蠱惑的な料理は、彼女の文化を蝕む毒に他ならない。
森へ駆けていく少女の背を、罪悪感に満たされた心で見送った。
あの獣人の少女は、王国語を話せばよりたくさんの報酬をもらえると、触れ回るだろう。いや、彼女は秘密にするかもしれないが、これを繰り返せばおのずと話は広がる。
そして、言語の習得はおそらく…容易だ。
なにせ、私がいる。
王国語と原住民の言葉を知る私がいるのだ。
そして、我々の発達した文化を、道具を、食事を、酒を、彼女らは味わってしまった。
彼らの生活は我々の文化に侵食されていく。
古く不便なものは淘汰され、新しく便利なものに置き換わる。
罪悪感に押しつぶされそうになる。
たかだか一週間程度の交流だが、彼らの大らかで慎ましい文化には好感が持てた。
メディは一つのことを心に決め、居住のために建てられた小屋に戻る。
これも原住民たちの協力によって建てられた小屋だった。
メディは筆を執ると、彼らの服装や使用している道具について詳細に記録をつけ始めた。
同化は、恐らく止まらない。これから、加速度的に彼らの文化は失われていく。
であれば、その引き金を引いたものの責任として
少しでも多くの記録をのこしておかねば。
―――メディに割り当てられた小屋では、連日夜遅くまで、発光の魔道具の明かりが灯っていた。




