第三十一話 原住民の村へ
ここ数日、メディの小屋の近くには人だかりができている。
そのほとんどが、王国語を少しでも知ろうとする原住民だった。
一部の原住民たちは少しずつではあるが、単語だけの王国語で話すようになっていた。
そんな姿を、ソフィアは近くの小屋から微笑ましげに覗いていた。
自身が直接行動したわけではないが、言語と文化の壁という逆境を乗り越えつつある現状に、彼女にゾクゾクとした程よい快楽をもたらした。
「まずは、第一歩ね」
締まりのない顔で、ソフィアは独り言を続ける。
「さて……もうそろそろ、ご招待が届くかしら。」
どこかワクワクした声の調子で、森を見つめながら呟いた。
さらに2日がたったころ、原住民の若いものが、村に来るよう族長が言っているとメディに伝えてきた。
アーノンたちは村を訪れることに反対したが、必要なことだとソフィアが押し切った
森の中を、原住民の案内で進んでいく。
海岸から村までの道のりは、原住民たちが頻繁に行き来することで獣道のようになっていた。
しばらく進むと、徐々に足元が踏み固められた土になり、森の中にぽっかりと開けた空間が現れた。
原住民は木を組んで作った小屋に住んでおり、思いのほかしっかりとした居住区を作り上げていた。
原住民たちは、自分の仕事に精を出していたが、ソフィアたちが来ると物珍しそうにして仕事の手を止めた。子供たちは目を輝かせてソフィアたちに近づいてきたが、案内をしている男たちに追い払われていた。
村の真ん中あたりまで来ると、案内人のひとりがメディに話しかけてきた。
メディはそれを訳してソフィアに伝える。
「あの布がかけられた小屋が族長の家だそうです。」
他の家々の屋根は藁葺きが置かれているだけだったが、その家にだけ、丁寧に模様が編み込まれた大きな布が掛かっていた。
ルカが扉の前に立ち戸を叩こうとする様子をみせ、あわててメディが手で制した。
「ルカ、いけません。ノックは我々の国の礼儀です。戸を叩くのは攻撃とみなされる可能性があります。」
ルカはあわてて手を引いた。
メディは安心したようにふうと息をつくと、戸の前に立って原住民の言葉で声を張り上げる。
「ドィサ、オセナノ・フッケ・ピナルイレキ!」
何の反応もない。
メディがもう一度声を上げようとしたところで、中からしゃがれた男の声が聞こえた。
「……ウンナリート」
メディが再び息をつく。
「……『入れ』だそうです。」
ルカが木でできた扉を開けようと力を込めて押すが、開かない。
今度は引こうとするが、取っ手がなく引けない。
ルカが首をかしげていると、笑いを堪え、肩を震えさせた案内人の男が割込んできた。
男は扉のくぼみに手をひっかけると、横に滑らせた。
引き戸だった。




