第二十七話 無才と言われた所以
呆気に取られていた船長だったが、我に返るとソフィアに言葉を返した。
「い、いやいやお姫さんよ、先住民とは言葉が通じないって言っただろう。
それを国民にするなんていくら何でも無茶だ」
ソフィアは心底不思議そうな顔で船長を見る。
「先ほども言っていたのだけれど……どうして、言葉が通じないと交渉できないのでしょう?」
「どうしてって……そりゃあ……言葉が通じないと、お互い何を求めてるか伝わらないだろう」
「でも、あなたたちは以前、人間相手に身振り手振りで取引をしたのでしょう?」
「そりゃあそうだが……あのときは原住民の目の前で、肉と金貨を交換している取引の真似を見せつけて、たまたま上手くいったんだ。
従属とか国への帰属の交渉なんて、できるわけがない」
「まぁ!取引を身振り手振りだけで伝えられるのですね。
それでは、国への帰属なんて簡単に伝えられますね!」
アーノンはこのやり取りを聞き、あきれたように首をふっていた。ルカも苦笑いをしている。
船員たちも、まだ幼さの残る世間知らずの姫が無邪気さを振りまいているように感じ、微笑ましさすら抱いていた。
―――唯一メディだけが、その真意に気づき戦慄していた。
取引とは、実は高度な営みなのだ。
貨幣による取引であれ、物々交換であれ、相手の所有物と自分の所有物の価値を比較し、それを信用に基づきやり取りをする。
言葉にすれば、これがいかに複雑な工程を経ているかわかるだろう。
一方、帰属とはもっと根源的なものだ。
野生動物でさえ、群れを成し、強いものに従って行動する。
国は、言うならば巨大な群れだ。
私たちのほうが強い。私たちに従えばもっと裕福になれる、保護される、幸せになれる。
理由は何でもいい、従う理由を用意してやれば、おのずと帰属は生まれるのだ。
ソフィアは「そういうもの」を本能的に理解して実行している。
相手が何を感じ、何を考え、どう判断して行動するか。
ソフィアはこれをあまりにも正確に理解できてしまう。
しかし、それを当たり前のものとして理解しているので、まわりに説明ができない。
だから、ソフィアは「無才の姫」なのだ。
ソフィアの才を理解できないから、無才と評価してしまうのだ。
背中を冷たい汗が伝っていく。
これ以上聞いてはいけない、と思う。
しかし、聞かねばならない、と思う。
メディはからからに乾いた口をこじ開け、喉から声を絞り出した。
「―――ソフィア様、よろしければ、原住民との交渉の矢面には、私をお使いください」
ソフィアの慈しむような笑顔が、メディに向けられた。




