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第二十四話 森林に潜む

 船員たちは、休む間もなく海岸で宿営をはじめる。軍属であるアーノンとルカも宿営の心得があるので、ソフィアたちのための仮設テントの設営を始めた。


 使えなくなった帆の布などを使用し、数多くのテントが作られていく。


 その中央あたりには大きなかがり火が()かれ、白い煙を濛々(もうもう)と上らせていた。


 アーノンは自身の設えたテントを手で軽く叩きながら言う。

「まぁ、こんなもんだろう。久々の揺れない大地での睡眠だ」


 ルカも満足そうに笑うが、砂浜から先に続く森林に目を向ける。

「ソフィア様、なかなか戻ってきませんね。ちょっと様子を見てきたほうがいいでしょうか?」


 食べ物を探しに行くと言い出したフレンダ、好奇心に負けたソフィア、お目付け役のクロード。

 この3人が比較的浅いところまでという約束で森林に足を踏み入れていた。


「気にするな、いざとなったらフレンダがいる。それに、目下(もっか)少しでも食い物があるのに越したことはねぇよ」

 あきれたようにアーノンはテントの中に寝転ぶ。


 そんな様子を見ながら、ルカはそわそわと森を見つめていた。


「……深入りしないならお前も行ってきていいぞ」

 アーノンは寝転んで目をつぶったまま言う。


 ルカの表情はぱっと明るくなり、森へと駆けていった。


「まったく……これから嫌でも探索しなきゃならねぇってのに、暢気(のんき)なこった」

 誰に聞かれるわけでもなく、悪態をついた。





 ルカはソフィアを追って森に足を踏み入れる。

 クロードが踏み分けていったであろう茂みを踏み固め、ソフィアたちのもとへ向かう。


 ぎぃぎぃという聞いたこともない鳥の鳴き声が聞こえる。

 草木は日光を遮り、まだ昼だというのに森の中は薄暗い。

 見たこともない生き物、知らない植物、そのすべてにルカは心躍らせていた。


 ルカは自身が物語の冒険家になったように感じ始めていた。



 少し歩いてみたが、ソフィアたちの姿は見えない。

 浅いところまでという約束だったのに、とルカは口をとがらせる。


 あの二人が付いているのだから、万に一つということもないだろうが、徐々に不安を感じ始めた。

 思わず、腰に携えた細剣(レイピア)に手を添えた。


 踏み分けられた草を目印に、さらに先へと進んでいく。


 少し経つと、森の先に人影を見つけた。

 ルカはほっと胸をなでおろし、速足で向かう。

 が、人影がはっきりと見える前に足を止めた。


 その人影は、はっきりとこちらに殺気を向けている。


 殺気を感じた瞬間、ルカの目は少年のそれでは無くなった。

 冷ややかに、それでいて熱を帯びた、剣士の目に変わった。


 ルカは、細剣をすらりと抜き、縦に構える。




 相手がこちらに向かってくるのを感じて声を張り上げた。


「我はソフィア・フィエル・コンコルディアが臣、ルカ・ド・モンティールである!貴殿が我を害すのであれば、この刃にて答えよう!」



 相手は草に隠れながら移動しており、顔や背格好を見ることができない。

 しかし、殺気と陰で居場所ははっきりとわかる。


 ルカは感覚を研ぎ澄ませる。

 鳥の鳴き声が、木々がざわめく音が消えてゆく。

 その者の殺気が、鼓動が、息遣いだけが、ルカの五感に届く。


 ルカはただ、相手の初太刀を待った。


 対峙する者の筋の動きを感じる。

 相手は、ルカに向かって尖った骨のようなものを突き立て飛び込んできた。


 何の洗練もされていない、力任せな動きだった。

 ルカは苦も無くその動きをかわす。


 なんだ、こんなものか。と半ば落胆した。


 すかさず反撃に出ようとしたルカだったが、慌てて手を止める。


 目の前の、殺気を隠しもしない人影は――


 切れ長の緑の瞳で、獣の耳を生やし、長い爪を持った


 ―――人間の少女だった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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