第二十二話 怪物
「陸が見えたぞぉぉぉ!!」
見張り番が張り上げた声を聴き、ソフィアは本の朗読を止めた。
ソフィアの声に聞き入っていた船員たちも、堰を切ったように甲板へと流れていく。
ソフィアも、ゆっくりとした動作で、船員たちに続き甲板に出る。
水平線から大地が隆起するのが見える。
船員たちは思い思いの歓声を上げた。
(ああ……ようやく……ようやく辿り着いた)
安堵と共に押し寄せる快楽は、ゆっくりと体中を駆け巡った。
体から手足へ、手足から指先へ、じわじわと広がる快楽は今までに感じたことのないものだった。
思わず、腰が抜けてへたり込んでしまう。
心臓の鼓動に合わせ強さを増す快楽に脳が混乱したのか、
荒い息遣いで、顔は歪んだ笑顔のまま、涙がぼろぼろと零れていた。
(だめ……体が……心が……言うことを聞かない……)
異常を察知したクロードとメディが駆け寄り、ソフィアを抱きかかえて船内に連れ戻す。
そんな様子を眺めていた船員の中には、ソフィアの苦労を偲び、見当違いなもらい泣きをする者もいた。
―――――――――――――――――
ソフィアは自室のベッドに寝かされた。
感情の波に翻弄された彼女は、それが落ち着くころにはすっかり疲れ切り眠りに落ちた。
静かな寝息をたてるソフィアを、メディは手を握りながら見つめた。
メディはじっと考える。
彼女は怪物だ、と。
十七歳とは思えない交渉術、人心掌握術。彼女が無才と言われたのは、それを表に出す機会が無かったからだ。
さらに、それらを快楽とする精神構造が、彼女を怪物たらしめている。
同時に、彼女はどうしようもなく十七歳の少女だ。
快楽を得ることはできても、心は、確実に蝕まれる。
本人に自覚はないかもしれない。
しかし、重圧に、不安に、怒りに、後悔に、彼女の心はどうしようもなく疲弊しているはずだ。
そして、彼女は王族だ。
それを決して、私たちに見せない、話さない。
王族として、自らを旗として民を導くつもりなのだ。
この少女が抱えるものに比べれば、肌を見られたくらいで腹を立てる尊厳など、とてもちっぽけなものに思えた。
半分とはいえ血の繋がる彼女の行く末を、メディはただ案じることしかできなかった。
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