閑話 女騎士レイナ式・鍛錬指南 (挿絵あり)
昼の陽が静かに草原を照らしていた。
リアーネは少し距離をとり、肩越しにレイナへ視線を向ける。
「お願いしてもいいかしら。私が相手だと、ちょっと規格が違いすぎるから」
レイナは無言でうなずき、腰の木剣を引き抜いた。
「いい判断。彼が鍛えられれば、戦場での幅が広がるわ」
カイはその様子を見て、思わず背筋を伸ばした。
レイナの身長は230センチ。対するカイは170センチ。
その頭は、彼女の腰と胸の中間あたりに位置していた。
見上げるたび、しなやかな身体と、鋭くも澄んだ瞳が彼を正面から射抜く。
「……よろしくお願いします」
レイナは短く返す。
「こちらこそ。では、私に“触れる”まで攻撃してみなさい」
*
カイが踏み込んだ。
木剣を低く構え、一気に間合いを詰める。
だが――次の瞬間、レイナの姿が視界から消えた。
「……っ!」
風が動いた直後、肩に軽い衝撃。
振り返れば、レイナが背後に立っていた。木剣の切っ先で、彼の肩を静かに叩いている。
「一手。もう一度」
カイは唇を噛み、再び構え直す。
何度目かの挑戦の末、ようやく数合の打ち合いが成立し始めた。
それでも、レイナは表情を崩さず、すべての打ち込みを無駄なくいなす。
「体格差に惑わされないこと。あなたは、私よりもっと大きな相手と――すでに並んで戦っているはず」
「リアーネさんは……別格です。でも、だからこそ負けられないんです」
「その意志、見せて」
今度は、レイナが動いた。
一閃。重さを殺した精密な一撃が、カイの木剣を打ち払う。
カイはとっさに身体をひねり、転がるように地を滑ってかわす。
手のひらが擦りむけても、すぐに剣を拾い直す。
汗が視界を滲ませたが、それでも、彼は前を見据え続けた。
「……根性はあるわね」
*
次に移ったのは、組み手の鍛錬。
互いの手のひらを押し合わせ、体重と筋力のぶつかり合い。
カイは全身の力を込めて押すが――
レイナは、片手だけでそれを受け止めていた。しかも、ほとんど体重を乗せていない。
「っ……く……っ」
額に浮かぶ汗。首筋が震える。
それでも踏ん張っていたが――
「……君の今の力では、Cランク。私はSランク」
淡々とした声とともに、レイナがわずかに体を前へ乗せた。
その瞬間、地面が軋むような圧がカイにのしかかり――
膝が、思わず沈みかけた。
「この差を埋めるには、技と工夫。そして、鍛錬」
痛みではない。
ただ、自分の足りなさが明確すぎて、悔しかった。
それでも、カイは視線を逸らさなかった。
*
夕方。
訓練を終え、カイは地面に片膝をついて息を整えていた。
肩が上下し、濡れた前髪が頬に貼り付いている。
レイナは静かに木剣を収め、無言のまま手を差し出す。
カイがその手を掴むと、彼女は軽々と彼を引き起こした。
「よくやったわ。あなたは、もっと強くなれる。――リアーネの隣に立つには、それくらいでなければ」
カイは目を伏せてから、小さく笑った。
「……はい」
遠くの木陰では、リアーネが静かにその様子を見守っていた。
その大きな瞳に浮かんだのは、わずかな安堵と――どこか誇らしげな光。
(がんばったわね、カイ)
草の匂いを運ぶ風が、訓練の余韻をやさしくなぞっていった。




