↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブリミル年代記 <深淵の影に飲み込まれた運命>  作者: a.z.bako
外伝 <魔法クッキー:ひとかけらの大災厄>
PR
42/42

4. 風と希望

森の中をどれだけ歩いてるんだろう。風に乗ったタコのように無言でずっと蝶についていくローレンとフレアだった。フレアは眠そうな顔で、ぼっとする目で蝶を見ていた。そんなフレアの目が大きくなり、糸が切れたタコのように立ち止まった。


蝶の光が、やけに強く見えた。


そして、もっと激しく輝く、蝶は光の破片になった。


「また?」


蝶をぼうっとした顔で見たローレンは小さく独り言を言いながら、周囲を素早く見回した。


木から雪が落ちる音と風が揺らす枝の影だけが雪明かりの中を滑っていた。

ローレンの指先が、ある木の方を向くとフレアはそれを見て、剣の柄に手をかけて身構えた。


「信じられないな。こんな子供だちと鬼ごっこでもやるみたいにな!」


ぎゅっ、ぎゅっと雪を踏みしめる足音が、いくつも重なり、近づいてきた。


暗い木の影から伸びる影は、まるで糸に吊られた木彫り人形のように、ギクシャクと大股でローレンたちの方へ近づいてきた。影だけを見れば、巨大な鳥の翼を持ち、頭には尖った耳が生え、二本足で歩く獣のようだった。


迫る影にフレアは足を止め、後ずさる一方で

ローレンは深く息を整えながら木々の間から現れる影の主へ手を向けた。


木の裏から現れたのは二人の男だった。


紫がかった白い毛並みをした狼の毛皮をマントのように被った小柄な男と、その後ろに立つ男は一回り大きな体格で、黒いフードと羽根のような衣の裾が闇と混ざり合い、影よりもなお濃い黒色を帯びていた。


小柄な男は額を手でかき上げながら鼻をくんくんさせ、喉を引っ掻くような声で言い放った。


「ひよっこどもか」


大柄な男の口元がにやりと吊り上がり、開いた唇の間から黒く汚れた歯が覗いた。


「ケヘ、ヘ」


小柄な男が両手をすり合わせながら言った。


「大人しく持ってる物だけ出せば、痛い目には遭わせないぜ」


剣の柄にかけていた手を止め、フレアが思わず声を上げた。


「ド、ドワーフ?」


小柄な男の目尻が一瞬吊り上がり、喉を引っ掻くような声で叫んだ。


「俺が一番聞きたくない言葉だ!」


ローレンは手を差し出し、低く静かな声で言った。


「スバフニル!」


ローレンは目を見開き、手を小柄な男の方に向けたまま、叫んだ。


「え?眠らない?」


小柄な男が手を前に出して振った。指には冷たい銀の水晶がはめ込まれた指輪が見えた。その瞬間、鋭い光がローレンに向かって飛んできた。


白髪の男がローレンの前に出て短剣を弾き返しながら、平然と言った。


「厄介な魔法道具を持っているようですね」


ローレンは白髪を見ながら言った。


「ヨツンはいないって言ってたのに、盗賊はいるんだね」


その瞬間、大柄な男が石を拾って投げつけながらフレアに歩み寄った。


「あ!」


フレアは石を交わして、自分に向かって来る大柄な男に剣を振った。

男は拳で剣身をそのまま受け止めた。

打ち返された反動で大柄な男の腕が大きく跳ね上がり、毛に覆われた腕の下から、拳を包む金属製の甲手が見えた。


わがままを言う子供を押しのける大人のように、ただ拳の甲一つで押し返しただけの動きだった。


フレアは雪の上に爪先を引きずるようにして後ろへ下がり、大柄な男との距離を空けた。


フレアは震える声で言った。


「素手で剣を?」


大柄な男がフレアの剣をちらりと見て口を広げ笑いながら大きな声で言った。


「へえ、こんな剣、見たことないな。高く売れそうだ」


小柄な男が短剣を投げつけながら言った。


「それはいいね。壊さないでな!」


フレアは剣を寝かせて短剣を受け流すのに精一杯だった。


「くっ!」


ローレンは白髪の男を見て叫んだ。


「フレア! フレアを助けて!」


「俺はあなたを守らないと。冒険者なら自分の身は自分で守るべきじゃないですかね?」


ローレンは答える代わりに静かに息を整え、静かにささやいた。ローレンの体の周りに虹色の雫が現れ、体を包み始めると、光が徐々に薄れながら、ローレンの姿がその場から消えた。


誰一人、ローレンが姿を消したことに気づかなかった。


フレアが二人がかりの攻撃に徐々に追い詰められていく間、白髪の男だけがローレンが消えたことに気づいた。


「なに?!」


白髪の男が目を見開き、周囲を見回した。

辺りを見回していた視線が、足元で止まった。雪の上にうっすらと続く足跡。白髪の男が低く唸るような声を漏らし、やがて太く低い声で言った。


「……驚いたな。だが」


白髪の男が剣を抜き、フレアの方へ足を進めた。


「どうせあっちから片付ければいい」


白髪の男が盗賊たちに向かって叫んだ


「こいつは俺が片付ける。ガキを探せ!」


小柄な男は刃先を白髪の男の方へちらりと向けたが、すぐに収め、大柄な男を見て頷いた。二人は白髪の男が指し示す方向へ足を進めた。大柄な男は白髪の男を見ながら大きく腕を回し、一度彼を睨みつけた。


白髪の男は彼らを見て鋭い目を見せると、ちっと舌を鳴らしながら剣を握り直し、フレアの方へ足を進めた。


フレアはとっさに剣を構え、白髪の男の斬撃を受け止めた。


「な、なにするんだよ! 冒険者って言ってたのに」


「冒険?はは! 冒険なんてお前らみたいなガキがすることだ。

もしかして、夢みたいな話でもするつもりか?」


「えいっ!」


「俺たちはな、手に入れたいものがあるから危ない橋を渡るんだよ。喉から手が出るほど欲しいものがな。お前は違うのか? ただ蝶を追いかけるのが楽しいから、そばにくっついてるだけか?」


剣を横に振りながら、フレアが叫んだ。


「そんなの知らないよ! ただ、みんなと一緒にいるのが好きなんだ!」


「剣じゃなく斧みたいだな。はは、力だけで、使い方もわかってないな」


白髪の男はフレアの剣を払い落とすと、フレアはその場に崩れ落ちた。


「残念だな。そんなに好きだった冒険が、これで最後の冒険になるとはな」


その瞬間、火の玉がフレアと白髪の男の間に飛び込んできた。


白髪の男は、はっと身を引いて火の玉が飛んで来た方向を見た。


彼の口元から笑みが消え、絞り出すような声で森の奥へ叫んだ。


「ちっ! 逃げたんじゃなかったのか? 何やってんだ! ガキはこの辺にいるはずだろ! それも見つけられないのか! 早く探せ! このままじゃ、報酬は払わねえぞ!」


盗賊たちはすでに森へ入ってローレンを探していたため、その声を聞くことはできなかった。


小柄な男は、すでに雪の上に残された小さな足跡を追っていた。


「ちっ、俺たちを駒だと思ってんのか。笑っちまうな。あいつ、自分の立場も分かってないぜ」


「魔法使いが持ってる物、高く売れるだろうな」


「生かしたまま、さばいちまうか」


「北の方へ流しちまうか?」


「あ?」


小柄な男が追っていた足跡の上で、空気が揺らめいた。雪の積もった枝の間から粟粒ほどの小さな火種が一つ浮かび上がると、たちまち人の頭ほどの大きさに膨らみ、小柄な男の方へ飛んできた。


「うわっ!」


小柄な男は目を閉じ、両腕で頭を抱えながら後ろに倒れた。


〈パチパチ〉


火の玉は弾けるように消え、四方に散っていった。


男は自分の指先で指輪が光っているのを見ながらニヤリと笑いながら言った。


「ははははは、やっぱりこれは物だな」


大柄な男は周囲を見回しながら言った。


「魔法だと? 呪文の一言も聞こえなかったぞ」


小柄な男は立ち上がり、雪を払いながら、周囲を窺うように身を低くして小さく言った。


「まさか、呪文なしで魔法が使えるはずがない…」


大柄な男は自分の周りにあった、朽ちて穴の空いた木の根株を、火の玉が揺らめいていた場所へ投げつけながら叫んだ。


「出てこい、ガキ!」


小柄な男は大柄な男より先に木の方へ飛び出しながら言った。


「くそ、何やってんだ! 馬鹿野郎! 逃げる前に捕まえなきゃ! どうせあいつの魔法は俺には効かない。魔法がなければ、ただのガキだ。な……なんだ?」


小柄な男が向かっていた方とは別の方向から、地面が揺れるような重い音と、折れた木の枝が四方に飛び散る音が、不規則に途切れながら聞こえてきた。


〈バババッ〉


木の枝を薙ぎ払いながら、光の帯が小柄な男めがけて猛烈な速さで飛んできた。


「うわっ!」


光は小柄な男に届かず、空中の一点で跳ね返るように弾けた。


真っ白な閃光が走り、その場から水蒸気が爆発するように噴き出して四方に広がった。強い風が巻き起こり、周りの雪を吹き飛ばし、小さな氷の欠片が跳ね散りながら、水蒸気が丸く渦を巻いて、たちまち小柄な男の頭上を中心に広がって落ちた。


後ろに倒れた小柄な男は、両手で耳を叩きながら大声で叫んだ。


「あ、あはっはっは。この指輪、大したものだな。お前の魔法なんざ、俺には効きゃしねえ!」


大柄な男は体を屈め、警戒する姿勢で周囲を見回しながら言った。


「ちっ、おい。これ、思ったよりヤバいんじゃねえか?」


「見ただろ! あいつの魔法は俺には効かねえ。お前は俺の後ろで、あいつが次に魔法を使ったらどこから使うのか、しっかり確認しろ!」


瞬間、盗賊たちの頭上で水滴が渦を巻いて湧き上がり、滝のように叩きつけてきた。だが水は触れた瞬間に凍りつき、盗賊たちはまるで氷の鳥籠に閉じ込められたような姿になった。


大柄な男は氷を手で叩き割りながら叫んだ。


「どこだ! クソ、こんな真似を!」


〈ゴオオオ〉


小柄な男が見ていた方の木の梢がかすかに震えたかと思うと、やがて木全体が揺れ始めた。吹き荒れていた雪と風は、まるで壁にぶつかったかのように勢いを失い、雪だけが力なく小柄な男の足元へと落ちていった。


小柄な男は、にやついていた口元から笑みが消え、顔を青ざめさせたまま震える声で言った。


「こんなに立て続けに、ち、違う魔法を使うのか? き、聞いたこともねえ……うわっ!」


「本当にガキ一人だけなのか?! うわっ!」


その瞬間、風が弾けるように吹き荒れた。盗賊たちは体ごと押し流され、木にぶつかった。


倒れた小柄な男の指先で、指輪はすでに光を失っていた。


「スバフニル!」


「な……これは……」


「くっ、気持ち……悪ぃ……」


最初はまぶたが、次に手足が重く沈んでいった。何度も開けようとした目は、やがて力なく閉じた。


ローレンは木々の間から出てきながら言った。


「魔法石なら限界がある。そんなことも知らないの?」


ローレンは盗賊たちに堂々と近づき、小柄な男の手から指輪を外した。


〈ザクッ、ザクッ〉


木々の間から現れた白髪の男は、鋭い目でローレンを睨みつけながら言った。


「驚いたな、逃げたと思っていたが」


「逃げてないよ。どう倒そうか考えてたの」


「ちっ……いつから勘づいてやがった」


「あんたから、木の欠片と同じ匂いがしたんだよ。魔法の粉って特別な匂いがするんだよ。魔法使いの推薦はもうなしだね」


「違う、目的はそのまま。方法だけ変わる。

若い魔法使いが森で倒れていた。

それを俺が丁重に魔法使いギルドに引き渡し、恩を売る方法もある」


その言葉が終わる前に、白髪の男はローレンに向かって突っ込んだ。


ローレンは手をかざし、鋭い目つきで白髪の男を見据えて立っていた。


白髪の男は剣を目の前に突き刺すように前へ突き出しながら突進した。


「はは! ガキ! 逃げることもできないのか! うっ!」


〈カァン〉


「ふん、そんな必要なかったのに。よくここに来たね」


白髪の男の剣はローレンを突き刺す寸前、黒いフードを被った男によって横へ弾き飛ばされた。


ローレンが静かに呪文を唱えると、白髪の男の足元から伸びたロープが彼の体を縛り、転ばせた。


「無事か。パルマグドから帰る途中、森の入り口で武器がぶつかる音を聞いた。こいつらはどうするか?」


「ゆ、許してください。手前はただ、本当に魔法使いの冒険者になりたくて……頭の中では、手前にできる方法しか考えられませんでした」


「ふむ、どうしようかな」


「殺した方がいい」


「殺す?」


「なら許すのか?自分でやれないなら私がやってもいい」


「まあ、そこまでしなくても」


ヘルは剣を白髪の男の首に突きつけた。

月明かりを映したような瞳で上から男を見ながら淡々とした声で言った。


「熱く焼けた鉄塊を、お前の手に抱えられるか?

それを飲み込めるか?

お前の罪とはそういうものだ。

罪の代償は死。


人間は罪痕として烙印を押す」


ヘルは剣を収めながらローレンを見て言った。


「しかし、ここでは罪を問う者が存在しない。

彼らを生かすも殺すも、お前の自由だ」


白髪の男は顔を上げながら言った。


「おい! どこ見てんだよ!」


ローレンはひとり考え込むように別の方を見ながら言った。


「決めた!」


「臆病者どもだ。放っておく。

どうせ指輪もないし。

私たちに歯向かうこともできないでしょ」


「スバフニル!」


白髪の男は眠りに落ちまいと顔じゅうの筋肉を動かしながら、低い声で獣が唸るように言った。


「その目、……最初から気に食わなかった。全部見透かしてるみた…」


ローレンは振り返りながら言った。


「ふむ、それでもただ放っておくのは気が済まないね。

ふふ、あ、フレアは?」


ローレンとヘルはフレアがいた方へと足を向けた。


雪の上には、黒ずんで凍りついた血痕が散らばっていた。


フレアは木にもたれかかっていた。


全身が血まみれだった。


「フレア!」


フレアのもとに一気に駆け寄ったローレンは、急いで自分の鞄を漁り始めた。


フレアは目を開けて言った。


「あ、ローレン、ヘル! よかった」


「フレア!」


森に響くローレンの声は、暮れゆく森に響く獣たちの鳴き声とともに、遠く風に乗って流れていった。


遠い昔、この地がまだ森になる前、ここに住んでいた名も知れぬ存在たちがこの地を去ったあの時、光がこの地に満ちていた頃。


彼らが去るのを見送ったあの日を思い出すように、白い鹿はどこかをその大きな瞳で見つめている。


その痕跡が残り、この地にはヨツンたちが恐れをなして足を踏み入れられずにいる。


古い言い伝えの中で、この地は【ヴィンドヴァーン】と呼ばれている。


感想や評価など、ありがとうございます!!


ブックマーク、評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。