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黒服はつかんだ赤ん坊を乱暴に抱えて、仲間とともに跳んだ。冷たい手が赤ん坊の目を覆う。
暴れるが、押さえつけられて動けない。天使であっても小さな体は抵抗する術をもたなかった。
やがて風を切る音が止み、黒服が手をどけた。戻ってきた赤ん坊の視界にあったのは、窓のない暗い部屋だった。
「成功だ」
「奪ってきたぞ!」
黒服たちが呼びかける。壁に乱雑に埋め込まれた煉瓦に、その声が反響すると、同じような黒服の人間たちがどやどやと集まってきた。
「やったか!」
「これが件の救世主様か」
「救ってくださるのだな!」
「救世主様!お願いします」
「我々はどうすればよいのですか」
「浄化はもう始まっているのか」
「待て、騒ぐな。救世主様は突然のことで戸惑っていらっしゃる」
皆を制したのは、赤ん坊を抱えた黒服だった。
「それに、あの方の指示もなしに救世主様をどうこうするわけにはいかない。一旦待機していただく」
「その通りだ」
「そうだな」
彼は仲間の同意を受け、強い力で赤ん坊を拘束したまま、背後の扉を開けた。
同じような壁で囲まれた小さな部屋。中央に天井から吊られた金属の籠がある。
黒服は赤ん坊を籠に押し込み、錠をおろした。
「さあ、あの方のもとへ」
「ようやく歴史が変わるのだ」
小部屋の入り口に見張りを一人立たせ、黒服たちは去っていく。
赤ん坊はあたりを見回す。
やがてその眼が壁の一点をきっと睨んだ。そこには、煉瓦の隙間からわずかに突き出た木の根があった。




