破滅
薄暗い書斎の中。
モニターの青白い光が、白銀凛華の美しい横顔を妖しく照らし出していた。
「……やはり、浅はかな男ね」
画面に表示された学校の裏サイトを眺め、凛華は小さな嘲笑を漏らした。
学校の裏サイトに卑劣な書き込みをする以外、何の策も持たず足掻いている様子もない。
「こんなもので何かが変わると、本当に思っているのかしら。……人を破滅させるにはどうやるか、私がお手本を見せてあげるわ」
凛華の細い指先が、キーボードの上を滑らかに跳ねる。
画面が切り替わり、一連のデータファイルがずらりと並んだ。
そこにあったのは、玲央が未成年でありながら裏カジノへ出入りしていた決定的な証拠。
それだけに留まらず、高額な金を求めて手を染めた闇バイト——強盗、傷害、果ては薬物の密売にまで関与していた動かぬ証拠の数々だった。
これらが警察に渡れば、相沢玲央の社会的な破滅は確定的に明らかだった。
「ありがとう、相沢玲央。どこまでも救いようのないクズでいてくれて。おかげで……私は何の罪悪感も抱くことなく、あなたを叩き潰すことができるわ」
モニターの光を反射させる瞳に妖しい微笑みをたたえ、凛華は迷いなくエンターキーを押し込んだ。
玲央を完全に破滅させるのに十分すぎるすべての証拠が、一瞬にして警察庁の専用窓口へと送信される。
「さて……ダメ押しに向かいましょうか」
凛華は優雅に立ち上がると、卓上のベルを鳴らした。
すぐさま現れた老執事に「車を用意して頂戴」と命じる。
向かう先は、相沢玲央の自宅だ。
数十分後。玲央の家のドアを叩き、出てきた玲央の前に凛華は仁王立ちした。
「な、なんだよ白銀ちゃん……俺を嘲笑いに来たのか!?」
髪をボサボサにし、血走った目で睨みつけてくる玲央。そんな惨めな姿を見下ろし、凛華は楽しそうに高笑いを響かせた。
「ふふっ、いいえ? あなたの最後を見届けてあげようと思って。あなたの悪事の証拠をすべて警察にリークしてあげたわ。もうすぐここへ警察がやってくる……わざわざ教えてあげた事を感謝してくれてもいいのよ?」
「は……? なに言って……っ、ふざけんなよ!!」
窮地に追い詰められ、絶望と怒りで完全に正気を失った玲央が、野獣のように凛華へと飛びかかった。
凛華の華奢な体を力任せに床へ組み伏せ、ポケットからジャックナイフを取り出す。シャキーンと不穏な金属音が部屋に響いた。
「殺してやる……! お前も、葵も、全員殺してやる!!」
ナイフの刃先を突きつけられ、死の危険に晒されているというのに、凛華の表情には余裕の笑みが浮かんだままだった。
一切の恐怖を見せず、冷酷な瞳で目の前の男を煽り立てる。
「……やれるものなら、やってみなさい?」
「死ねぇぇぇ!!」
半狂乱になった玲央が、凛華の胸元へ向けてナイフを振り下ろした——その瞬間。
「そこまでです」
ドガッ!!
背後から踏み込んだ老執事の鋭い前蹴りが、玲央の腕を正確に捉えた。
ナイフが手元から弾き飛ぶと同時に、執事は玲央の手首を捻り上げ、地面に完璧に押さえつけた。
それとほぼ同時に、屋外からサイレンの音が近づき、ドアを蹴破って数人の警察官となだれ込んできた。
「警察だ! 動くな!」
「ひっ……! 離せ! 離せよ!!」
暴れる玲央の手首に、冷たい手錠が嵌められる。
取り押さえられた玲央を見下ろす凛華の唇に、冷ややかな笑みが浮かんだ。
「……あら。殺人未遂の現行犯も追加ね。おめでとう」
警官たちに引きずられていく玲央を見送った後、凛華に老執事が静かに頭を下げた。
「お嬢様……このような危険な真似は、お控えいただけますと幸いにございます」
苦言を呈する執事に、凛華は悪びれもせず微笑んで見せた。
「……もうしないわ。多分ね」
これ以降、相沢玲央がどうなったのかを凛華は知らない。
重い刑罰を受けてしかるべき刑務所に服役したのか、それともすべてを失って野垂れ死にしたのか。
そんなことは、凛華にとってどうでもよいことだった。
確かなことはただ一つ——日向葵と相沢玲央が二度と会うことはなくなったという、凛華の目的が完璧に果たされたということだけだった。




