休日
週末の遊園地は、雲ひとつない快晴に恵まれていた。
「見て見て、颯太くん! あのジェットコースター、すっごく高いよ!」
「お、おう! 葵、走ると転ぶぞ!」
絶叫マシンに目を輝かせる葵の姿は、まるで小さな子供のように愛らしかった。
そんな葵を心配そうに追いかける颯太と、その後ろから優雅に日傘を差して歩く凛華。
アトラクションをいくつも乗り回り、三人は時間を忘れて思い切り楽しんでいた。
「ふう、ちょっと疲れたね。私、お手洗いに行ってくるから二人ともベンチで待ってて!」
「了解。気をつけて行けよ」
葵が元気に走っていく背中を微笑ましく見送った後、颯太と凛華は並んで木陰のベンチに腰掛けた。
少しだけ静かになった空気に、颯太は密かに安らぎを感じていた。
だが、その平穏は唐突に破られる。
「……橘君。これを見なさい」
凛華がポケットから取り出したスマホの画面を、颯太の目の前に突きつけた。
冷ややかな声に嫌な予感がして画面を覗き込んだ颯太は、瞬時に息を呑み、表情を険しくさせた。
「……なんだよ、これ」
画面に躍っていたのは、目を疑うような卑劣な言葉の数々だった。
『日向葵は男をたぶらかす悪女』
『裏で色んな奴に金をせびっている噂がある』——葵に対する嘘に満ちた、見るに堪えない誹謗中傷の投稿。
憤怒で血の気が引く颯太に、凛華は氷のように冷徹な瞳で告げた。
「学校の裏サイトよ。……書き込んだ奴は、言わなくてもわかるわね?」
「あのクズ……!!」
颯太の拳が、爪が食い込むほど強く握りしめられる。
あれだけのことを全校生徒の前で暴かれ、体育館から惨めに逃げ出しておきながら、反省するどころか裏で葵を傷つけようとしているのだ。
「あのクズは、あの程度じゃ改心しないみたいね。……まあいいわ、こっちは私が対処しておくから」
呆れたように溜息をついた凛華は、画面を閉じると、一転してイタズラっぽい笑みを浮かべて颯太を見つめた。
「あなたは変わらず、葵を守っていればいいわ。……まあ、言われなくても守るんでしょうけれど?」
ニヤニヤとからかってくる凛華に、颯太は顔を真っ赤にしながら吐き捨てた。
「わかってんなら、二人きりの時に邪魔しに来るんじゃねーよ!」
「ふふ、それとこれとは話が別なのよ」
悪びれもせずに胸を張る凛華。
「だいたい、橘君の手際が悪いのがいけないんじゃない。もっとスマートに誘えないのかしら?」
「うるせえな! こっちは命がけで誘ったんだよ!」
ベンチでギャーギャーと軽口を叩き合っていると、遠くからパタパタと軽快な足音が近づいてきた。
「ふふっ、二人とも本当に仲良しだねぇ」
戻ってきた葵が、両手にジュースのカップを抱えながら、二人のやり取りを見てくすくすとおかしく笑っていた。
その瞬間、いがみあっていたはずの颯太と凛華の声が完璧にハモる。
「「良くない!!」」
「ええ〜っ? 息ピッタリなのに?」
心底不思議そうに首をかしげる葵。そんな彼女の無邪気な笑顔に、颯太も凛華も毒気を抜かれ、顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
(葵には……絶対にこんなくだらない噂、見せやしない)
颯太は葵からジュースを受け取りながら、心の中で強く誓っていた。
◇
同じ頃。
暗い自室に引きこもっていた相沢玲央は、血走った目でスマホの画面をタップし続けていた。
「許さねえ……絶対に許さねえぞ……!」
学校での居場所を完全に失い、男子からも女子からも虫けらを見るような目で見られるようになった毎日。
すべて自業自得であるにもかかわらず、彼の頭の中にあるのは葵への逆恨みだけだった。
「俺がこんな惨めな思いをしてるのに、お前だけが幸せそうにしてるのなんて許せるわけねえだろうが……!!」
キーボードを叩く指に狂気が宿る。
「全部ぶっ壊してやる……お前の人生も、あの二人との関係も、全部な……!」
画面に映し出される、葵への粘着質な誹謗中傷の数々。
玲央は歪んだ笑みを浮かべながら、自らをさらなる破滅へと追い詰める投稿を、休むことなく続けているのだった。




