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笑顔

風が心地よく吹き抜ける放課後のグラウンド脇。

颯太は、意を決して呼び出した葵を待ち立っていた。

緊張で喉がカラカラになり、手のひらにはじんわりと汗が滲む。

「颯太くん!」

パタパタと駆け寄ってきた葵は、かつての暗い影など微塵も感じさせない、ひまわりのような笑顔を浮かべていた。

「待たせちゃってごめんね? 急にどうしたの?」

颯太はまず、反射的に辺りを見回した。

右を見ても、左を見ても、校舎の影を見ても——あの完璧すぎるお嬢様・白銀凛華の姿はない。

(よし……二人きりだ……!)

颯太は一度深呼吸をし、胸の前に拳を強く握りしめた。これまでの想い、葵を守りたいと強く願った日々、そして何よりこれからの未来を共に見つめたいという覚悟をすべて言葉に乗せる。

「葵。俺……葵のことが好きなんだ。今までもずっと、これからも……俺と、付き合ってください!」

静寂が二人を包み込む。

葵は驚いたように目を丸くした後、胸元で手をギュッと握り締め、心の底から嬉しそうに微笑んだ。

「……はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

その言葉が耳に届いた瞬間、颯太の胸に爆発的な喜びが込み上げた。

感無量になり、思わず葵の華奢な体を強く抱きしめようと腕を伸ばした——その、まさに直前。

「おめでとう、葵!」

「ッ!?」

一体どこから現れたのか、風のように割り込んできた凛華が、颯太より一瞬早く葵を優しく抱きしめていた。

「凛華……ちゃん!?」

「ええ、本当におめでとう。橘君ならあなたを絶対に幸せにしてくれるわ。この私が保証する。……というか、もしあなたを泣かせるような真似をしたら、私がこの手で彼を始末するわ。」

物騒すぎる不穏な誓いを真顔で口にするお嬢様に、颯太は開いた口が塞がらなかった。

あまりの動揺に引きつった声を上げる。

「しろ、白銀……っ!? お前……どこから聞いてたんだよ!?」

凛華は葵の肩を抱いたまま振り返り、どこか楽しそうに颯太のモノマネをして見せた。

「『葵、君に大事な話があるんだ』……ってあたりからかしら?」

「最初からじゃねーか!!」

全力のツッコミを飛ばす颯太に、凛華はふふっと優雅に笑う。

「当たり前でしょう? 葵の人生の大一番よ。親友として見届けないわけにいかないじゃない。だいたい、橘君の手際の悪さを心配して——」

「悪かったな手際が悪くて! 邪魔すんじゃねえよ!」

いつものように始まる、賑やかでくだらない口論。

そんな二人を前に、葵はくすくすと嬉しそうに肩を揺らしていた。

自分の世界を埋め尽くしていた偽りの恋は消え去り、今、目の前には自分を心から愛してくれる恋人と、自分を誰よりも大切に思ってくれる親友がいる。

「……凛華ちゃん、颯太くん!」

葵が愛おしそうに二人の名前を呼ぶと、口論をピタリと止めた二人が同時に振り向いた。

葵は満開の花が綻ぶような、弾けるばかりの満面の笑顔を向ける。

「これからも、ずっとよろしくね!」

その眩しい笑顔に毒気を抜かれた二人は、顔を見合わせると、今度こそ完璧に呼吸を合わせて笑い合った。

「「もちろん!」」


このお話は、幼馴染と恋人同士になったことで始まった物語。

そして、傷つきすり減った少女が、本当のかけがえのない人たちとの絆を取り戻す物語。

差し込む夕暮れの光の中、三人の賑やかな笑い声は、どこまでも高く、晴れやかに響き渡っていた。

(完)


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