Act.16 はじまりの地
父親は地質考古学者だった。
世界各地を飛び回り、最終的に、日本の田舎町の山奥にある地層を研究対象にしぼった。
そこで農業を営む女性と出会い、恋に落ち、結婚し、アマカゼが産まれた。
不思議だった。
終の住処にすると思われた田舎町を簡単に捨て、仮想世界で生きると宣言したときは。
自然のなかで生き生きと働く両親には、憂いなど微塵も考えられなかったからだ。死を怖れているようにも見えなかった。
きっかけは分からない。
けれど、アマカゼが霊的に覚醒し、魔法少年と呼ばれるようになった直後の出来事だった。
「ごめん。父さん、母さん、俺は仮想世界には行かない。軍で働くことにするよ」
決意を伝えると、二人は一瞬泣きそうな顔をしたあと、うんうんと頷きながら、笑顔で言った。
「アマカゼなら、そう言うんじゃないかと思ってたわ」
「決めたのなら頑張れ! アマカゼ」
二人の励ましは嬉しかったけれど、寂しさだけは爆発しそうなほど膨らんでいく。
いざ一人きりになると、孤独はよりアマカゼの心に暗い影を落とした。
そんなアマカゼの支えになっていたのが、ヴァイスという遠い世界の友人だ。
アマカゼのエーテル体と、ヴァイスのエーテル体が触れ合ったとき、温かい光の礫が舞い、ずっと冷たかった心が燃えるような熱に包まれていく。
ヴァイスもまた、孤独な身の上だった。
二人は世界という壁を隔て、なお強く引き合った。
「ヴァイス、ヴァイス、返事をしてくれ!」
アマカゼは呼びかける。はじまりの地で。
父が汚れるのも厭わず、一日を過ごしていた、広大な地層に触れ、願う。
「ヴァイス、俺だよ……」
返事をしてくれ。
もう一度、会いたい。
アマカゼはまぶたを閉じて、強く念じる。
鼓膜に低く這うような地響きが近づいてくる。それは徐々に大きくなり、突然、アマカゼの足元が大きく揺れた。
「っ!」
大地が振動し、アマカゼの身体が傾く。
一瞬の浮遊感のあと、重力に抗えない肉体は落ちていく。
アマカゼは衝撃に備えた。
しかし、いつまでたっても、それはおとずれない。
(いったい、なにが……)
ふわりと腕を引っ張られる。
驚いて瞳を見開くと、眩い銀色の光が視界いっぱいに広がっていた。
『アマカゼ……』
不意に聞こえた懐かしい声に、胸がいっぱいになる。
『ヴァイス、やっと会えたな……』
そこには、硬質な金属の塊……ヴァイスの姿があった。




