Act.15 秋桜の記憶
一度眠りにつくと、半日は余裕で過ぎ去る。
後遺症のせいか、アマカゼの一日はほぼ睡眠で消えていく。
だから、まぶたを開けたとき、今が朝なのか夜なのか何月何日なのか、眠るまえに何があったか確認する癖がつく。
目が覚めない恐怖よりも、目が覚めた時に世界が変革していたらどうしようと不安になる。気付いたら独りぼっちだった……なんてことは嫌だ。
(そうだ。俺、セツに会って、それから……)
セツだと思われる女性に会い、異星人の襲来にアパルトマンへ走って帰り、そのまま考え方をしているうちに寝てしまった。
鮮明によみがえってきた記憶に、アマカゼは弾かれるように飛び起きる。
「解除! 解除して!」
アマカゼの声を認識し、寝室の窓を覆う防犯シャッターが無機質な音を立てて収納されていく。
穏やかな陽射し。太陽は高い位置にある。昼だ。
光を遮っていた上空の防御壁はもう無く、船形アパルトマンの共用テラスには、のどかな散歩をする人も見えた。
そこでようやくアマカゼは緊張をほどく。喉がカラカラに渇いていた。背中もじとりと汗ばんでいる。
(良かった、世界はまだ終わってない)
守ってくれたのは、セツ達……魔法少年だ。
(ありがとな、セツ。ずっと戦ってくれてたんだよな。俺がいない間もずっと……)
この八年。
セツは守り続けていてくれた。
身を粉にして働き、しかもアマカゼのもとに何度も足を運んでくれていたのだ。
「俺は、セツのために何ができんだろうな」
もう一緒には戦えない。
それでも何かしたい。
(軍で下働き……とか? そんなバイト募集してるかぁ?)
喉の渇きを癒そうと、アマカゼはキッチンへと向かう。
眠り続けていても自動清掃のおかげで、埃もなく綺麗に保たれている。
無意識に視線が引っ張られる。
真っ白なカウンターテーブル。そのうえに置かれた三つの陶器製のカップ。つるりとした表面には、母親が好きな秋桜が描かれていた。
「母さん、父さん……」
手に取ると、思い出という熱に鼻のおくがツンと痛む。
両親が仮想世界に行く前、三人で食事をして、このカップでお茶を飲んだ。あの時に言われたのだ。
『アマカゼ、たまには帰ってくるのよ』
『父さんと母さんは、いつでも〝あの地〟にいる。どこにいても、三人で暮らしてきた、母さんが好きな秋桜の庭がある場所にいるから』
『たとえ夢のなかにいても、私達はずっと一緒よ』
あの場所。
両親が出会い、アマカゼが生まれ育った場所。
(俺にとっても、特別な場所だ)
そこでアマカゼは、内宇宙に住むヴァイスと出会ったのだ。彼と出会ってアマカゼは魔法少年になった。
「そうだ……あの場所なら、もう一度、ヴァイスに会えるかもしれない!」
どうして今まで思い至らなかったのだろう。
ヴァイスは遠く別世界にいる。
地球の内部には、もうひとつの宇宙が存在し、銀河のように星がいくつもある。
ヴァイスはその星に住み、人間とは異なるけれど、心も魂も持ち合わせた生命体だ。
アマカゼは十五の時にヴァイスと出会った。
故郷のあの場所は、地球と内宇宙を結ぶ道が近くにあるのだと言っていた。
(もう一度、あそこへ行けば……)
アマカゼの行動に迷いはなかった。




