Act13 異星人との戦い
星々の明かりだけが頼りの宇宙空間に、無数の個体の群れが現れる。
異星人──岐立した尻尾をもち禍々しい黒光りする両目、鱗のように筋の入った爬虫類を思わせる体表。二本の腕に、二本の足。ヒューマノイドに近い形態であったが、地球人よりも二倍もある巨体だ。雌雄はない。
この宇宙空間で生身のまま動けるのは、まさに生死を超越した高度な文明人だからだろう。アンドロイドの装甲に、精神をインストールするという、「魂」の概念から解き放たれた種……。
矛盾しているのは、そんな異星人たちが、魂を内包して生きる地球人の進化を望んでいることだ。
【──地球人よ、目醒めヨ!】
呪文のように繰り返される聲。
幾つもの聲が重奏となり、やがて大きなうねりとなる。
エーテル体を弾き飛ばすような周波数。
一番恐ろしいのは、この周波数は地球上の電子機器に影響を与えるのだ。そうなれば仮想世界は滅亡し、異星人の思惑通りになってしまう。
(させるものか!)
セツは毅然と立つ。
背後にはユミナとタツミがいる。二人はお互いの手を取り合い、異星人の周波数から地球を守ろうとする。
魂の双子である二人の共鳴が、光の盾をうみだす。
(絶対に守る……!)
セツは強く、意図する。
いつもであれば、アマカゼを傷つけた異星人にたいして、憎悪をこめた想念を撒き散らし突進していっただろう。
だが、今日は違う。
金色の光がセツを中心に広がっていく。
(僕はアマカゼを守りたい。たとえ魂ごと滅んだとしても、彼と、彼が大切にしたものを守りたい!)
純粋で強い想念は武器になる。
異星人たちの尻尾が小刻みに振動している。攻撃体制に入ったのだ。
その時、ユミナとタツミが、セツの前に踊りだす。
『トカゲ野郎は、オレたちが食い止めるっす!』
『だから先輩は、念話のほうをお願いします!』
なんて頼もしい後輩だろうか。
得体の知れない異星人を前にしても、二人の心は強く、揺るぎがない。
『わかった。けれど無茶はするな。目醒めの周波数が地球に届かないよう防御するだけでいい!』
結局、それしかできない。
高度な文明をもち、高次の思想を騙る異星人を相手に、肉体に翻弄されて生きる人間が敵うわけがないのだ。
だから……「今」を守るためだけにセツ達は戦っている。未来を考える余裕なんてない。
広がり続ける宇宙の刻を思えば、人間の一生など瞬きと変わらない。
けれど、この一瞬に、心を砕くように生きて、そして死んでいくのだ。それが人間だ。
セツは全霊で叫ぶ。
『──聴け、異星人たちよ! 僕たちのことは放っておいてくれ!』
想念に、人の言葉をのせる。
言葉もまた、人が持つ「力」だ。
『僕たちは宇宙の理に背こうなんて、微塵も思ってない! アナタたちから見たら、人間のしていることは馬鹿げているのかもしれない。だけど……僕たちは苦しみのなかにあっても、幸せを夢見て、懸命に生きているだけなんだ! ……それでいいじゃないか。ひとつずつ傷付いて、間違って、それを乗り越えた先に進化がある。そういう生き物なんだ人間は。肉体にとらわれ、物質にとらわれ、それでも満たされないから、誰かの温もりを求めたり、隣にいる人の負担にならないように何かを諦めたり、命を使ったりできる生き物なんだよ!』
セツの胸元から光が溢れてくる。
光の源泉は、アマカゼを想う愛しい気持ち。
異星人たちの重奏が止んだ。
アンドロイドの両目が、セツから放たれた光を凝視している。
(このまま立ち去ってくれるか……いや、)
異星人たちは道を開けるように二手に分かれはじめた。
闇のなかから、トカゲよりもはるかに巨大なアンドロイドがあらわれた。




