Act11 セツ
ここからセツ視点にはいります。
軍用の基地にたどりつくと、すでに仲間たちは集まっていた。
「あっ、セツ先輩がきました!」
「こっちは準備万端っす!」
コックピットにある座席のようなものが複数、部屋のなかに並んでいる。
そのうちのひとつに身体を預けている、桃色の髪が特徴の仲間が、セツの姿を見て手を振ってくる。
十二歳で、魔法少女として覚醒したユミナだ。
その隣の座席から上体を起こしたのは、ユミナの幼馴染みの魔法少年タツミ。二人は恋人同士でもあった。少しの距離すらも許さないように、お互いの手を絡めるように繋いでいる。
セツは二人の顔を交互に見て、いつもの決まりごとを口にする。
「二人とも、体調は?」
「問題ないっす」
「私も。いつでもエーテル体になれます!」
たしかに顔色も、声も、問題なさそうだと、セツは頷く。
傍らには基地に常駐しているドクターもいて、セツに向かって大丈夫だと頷いてみせる。
基本的に、どこにいてもエーテル体にはなれる。
けれど、こうやって魔法少年たちが集まるようになったのは、八年前の出来事をセツが後悔しているからだ。
──あの日。アマカゼはひとりで自宅にいた。
なにが彼の身に降りかかったのか。戦いのあと、アマカゼは眠りから覚めなかった。
もしもそばにいたら、早く異変に気付けていたら、救えたのではないか……。
そう思うとセツは悔しくて仕方がなかった。馴れ合いを怖れ、単独行動を推進していた自分を心底恨めしく思う。
知られたくなかった。
心は男なのに、女の身体である自分を。遺伝子操作の誤ちで、ちぐはぐな生を受けてしまったこの姿を。だからリアルでの交流を避けた。
誰よりも輝くエーテル体をしたアマカゼが、そんなこと気にするわけないと理解していたのに。
それに……アマカゼの孤独にもセツは気付いていた。親類がそばにいない彼は友達を欲していた。セツにそれを求めていたことも。なのに無視し続けてきたのだ。
もっと心を開いていたら、未来は変わっていたのかもしれない。
(同じ過ちは、二度と繰りかえすものか!)
あんなにも哀しくて、苦しい思いを経験したのは初めてだった。おのれの痛みよりも、大切な者を失うことのほうが何倍も怖いのだと身をもって知った。
セツは戦うための準備にはいる。
座席にあるアームチェアには窪みがあり、そこにセットされていた注射器を手に取ると、躊躇いなく細い先端を左腕に突き立てる。
なかみは鎮静作用のある薬物だ。
空になった容器を放り投げると、背もたれに深く身体を預け、まぶたを閉じる。
(今日は、すんなりエーテル体なれそうな気がする)
細く息を吐く。
肉体の成長とともに、エーテル体になることが困難になってきた。
そばにアマカゼがいなくなってからは、とくに……。
精神が成熟すると同時に霊性が退化しているのか、それともアマカゼとの別離が関係しているのか。
なにが原因かは分からない。
けれど、あの日から。
アマカゼが目の前から消えたあの日から、セツの心は泥水のように混濁としていて、ただただ異星人を憎むままに戦いに身を投じてきた。
でも、今日は違う。
アマカゼに会えたから。
目を覚ましたアマカゼと言葉を交わしたから。
その喜びが、氷のように冷たかった胸のなかを温めていく。
まぶたの裏に広がった暗黒に、現実世界のアマカゼを投影する。
(アマカゼ、君のことは──……僕が守るから)
数瞬のあと、セツは魔法少年になっていた。




