↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/16

確認すべきこと

「確認することが多いから。」


アデリアがそう言った後、最初にしたのは質問だった。


「年齢は?」


田中隼人が目を瞬かせた。


「急にですか?」


「あなたについて知ってることが名前しかないから。」


「二十八です。」


アデリアが頷いた。


「職業はさっき言ったジムのコーチ。」


「はい。」


「家族は?」


隼人の表情が少しおかしくなった。


「それも必要ですか?」


「気になるから。」


「質問がだんだん身辺調査みたいですね。」


アデリアが平然と言った。


「嫌なら答えなくてもいいです。」


隼人がしばらく彼女を見た。


さっき手を挙げてと言われた時は嫌だとはっきり言っていた人間だった。


今回も同じだろう。


「両親がいて、姉が一人います。」


答えた。


アデリアが目を瞬かせた。


「答えるんですね。」


「嫌だとは言ってないので。」


「そうなんだ。」


「ところで。」


隼人が体を少し前に傾けた。


「今度は俺が聞いてもいいですか?」


「何を?」


「アデリアさんは正確には何をしてる人なんですか?」


アデリアがミレイユを一度見た。


ミレイユは何も言わなかった。


ローウェンとテオも同様だった。


この部屋にいる人間の中でアデリアの身分を知らないのは隼人一人だけだった。


アデリアはしばらく悩んだ。


わざわざ隠す必要があるだろうか。


どうせ三時間後にどうなるかもわからない人間だった。


「王女です。」


隼人が止まった。


「え?」


「王女。」


「……本当にですか?」


「なんで?」


隼人の視線がアデリアからローウェンとテオに移った。


再びミレイユ。


そして再びアデリア。


「それで護衛がいたんですね。」


「うん。」


「王室の紋章もそのせいで。」


「そうです。」


隼人が椅子に背をもたれた。


「ちょっと待って。」


片手で顎をこすった。


「それじゃ今俺は違う世界に来て初日から王女が道で戦うのを見たってことですか?」


アデリアが眉を少し上げた。


「初日?」


「俺の基準ではですけど。」


「そうかもね。」


「そもそも王女が路上で直接戦うんですか?」


「いいえ。」


ローウェンが即座に答えた。


声がいつもより断固としていた。


隼人の視線がローウェンに向かった。


ローウェンは無表情だった。


「今日のことは普通のことではありません。」


「そうですか。」


隼人が再びアデリアを見た。


「そんな気がしてました。」


「なんで私を見るの?」


「別に。」


アデリアは気に入らないというように彼を見た。


隼人の口角が少し上がった。


次に確認したのは言語だった。


隼人は壁に掛かった地図をしばらく見つめた。


「これ、おかしいですね。」


「何がです?」


「文字。」


アデリアが立ち上がって地図の近くへ寄った。


王都と周辺地域の地名が書かれていた。


アデリアにはあまりにも馴染み深いローゼン語だった。


「文字がどうしたんですか?」


「初めて見る文字なのに読めるんです。」


「読めるんですか?」


「はい。」


隼人が地図の一部を指した。


「ここ、北門。」


アデリアの目が少し見開かれた。


正確だった。


別の場所を指した。


「西部商業地区。」


また合っていた。


「王宮。」


アデリアが隼人を見た。


「文字を習ったこともないのに?」


「当然ないです。」


「じゃあどうやって読むの?」


「俺もそれを聞きたいんです。」


隼人は不思議そうに地図をさらに近くから覗き込んだ。


「目で見ると確かに初めて見る文字なのに。」


しばらく言葉を止めた。


「意味はそのまま頭の中に入ってくるんです。」


アデリアはさっき見た文章を思い出した。


[意味言語解釈]


『言葉だけじゃないんだ。』


文字も含まれるようだった。


「じゃあこれは?」


隼人がポケットから携帯電話を取り出した。


画面をつけた。


そしてアデリアに差し出した。


「読んでみてください。」


アデリアが画面を見た。


知らない文字がぎっしりだった。


さっきの地図とは正反対だった。


どう見ても意味がわからなかった。


「読めない。」


「やっぱり。」


「何がやっぱりなんですか?」


隼人が画面を自分の方に向けた。


「これは日本語です。」


「あなたは読めるの?」


「当然です。」


アデリアが再び画面をじっと見つめた。


「変だね。」


隼人にはこちらの世界の言語が理解できる。


しかしアデリアには隼人の世界の文字が見えるわけではない。


言葉は互いに通じる。


こちらの文字は隼人に通じる。


しかしあの物の中の文字は自分には通じない。


「基準は何だろう。」


アデリアがつぶやいた。


隼人が言った。


「多分俺がこっちで生活するのに必要なものだけできるんじゃないですか?」


アデリアが彼を見た。


「なんでそう思うの?」


「俺をここに連れてきたのはアデリアさんだから。」


隼人が地図を指した。


「俺がここの言葉を聞き取れなかったら何もできないじゃないですか。」


「そうかもね。」


「逆にアデリアさんが日本語を読む理由はないし。」


アデリアはしばらく考えた。


かなりもっともらしかった。


「思ったより賢いですね。」


隼人の表情が強張った。


「その言葉、褒め言葉ですか?」


「褒めてるけど?」


「なんで気分が微妙なんだろう。」


テオが顔を背けた。


肩がほんの少し震えた。


ローウェンが彼を見た。


テオはすぐに表情を整えた。


携帯電話はアデリアにとって新しいおもちゃも同然だった。


「これ何?」


「写真です。」


「写真?」


隼人が画面を何度か触った。


そして写真を一枚見せた。


広い部屋。


床に敷かれた黒いマット。


人々が変わった服を着て立っていた。


アデリアが画面を近くで覗き込んだ。


「絵ですか?」


「写真です。」


「誰が描いたの?」


「誰も描いてません。」


アデリアが隼人を見た。


「じゃあどうやって作るの?」


「これで撮ればいいんです。」


隼人が携帯電話を持ち上げてアデリアの方に向けた。


アデリアの目が細くなった。


「今何してるの?」


「じっとしててください。」


カシャ。


小さな音がした。


「できました。」


「何が?」


隼人が画面を回して見せた。


アデリアが止まった。


画面の中に自分がいた。


さっきと同じ服。


同じ髪型。


椅子に座って少し疑わしげな顔で隼人を見ていた。


アデリアの目が大きく見開かれた。


「……私じゃない。」


「はい。」


アデリアが携帯電話をほとんど奪うように受け取った。


画面を近くで見て。


少し遠くで見て。


また近くで見た。


「いつ描いたの?」


「描いてないって言ってるでしょう。」


「じゃあ今これが作られたの?」


「はい。」


「あの音一回で?」


「はい。」


アデリアが静かになった。


隼人がその反応を見て笑った。


「不思議ですか?」


「うん。」


今度はアデリアも否定しなかった。


彼女は画面をしばらく見つめた。


肖像画を一枚作るには画家を呼んで何時間も座っていなければならない。


完成までには何日もかかることもあった。


なのにこれは一瞬だった。


アデリアが画面を指でめくった。


別の写真が出てきた。


今度は何人もの男が肩を組んでいた。


「この人たちは?」


「ジムの人たちです。」


次。


食べ物。


次。


大きな建物群。


次。


夜なのに真昼のように明るい通り。


アデリアの指が止まった。


「これ夜なの?」


「はい。」


「なんでこんなに明るいの?」


「電気のせいです。」


「電気?」


また知らない言葉だった。


アデリアは画面を見つめてからゆっくり隼人に返した。


「あなたが住んでいた所。」


「はい。」


「思ったより変だね。」


隼人が携帯電話を受け取った。


「俺から見るとここの方がもっと変です。」


「なんで?」


「剣を差して歩いて、馬車に乗って歩いて。」


彼が指を一本ずつ折った。


「魔法みたいなもので人を別の世界から連れてきて。」


最後の言葉にはアデリアも反論できなかった。


隼人が付け加えた。


「それに王女が直接路上で喧嘩して。」


「それはなんでまた入れるの?」


「一番変だから。」


アデリアが唇を閉じた。


ミレイユがごく小さく笑った。


今度はアデリアも聞いた。


「ミレイユ。」


「申し訳ありません、お嬢様。」


言葉はそう言ったが表情は全く申し訳なさそうではなかった。


「もう一つやってみましょう。」


アデリアが言った。


隼人が警戒する目で彼女を見た。


「今度は何ですか?」


「外に出てみて。」


「外に?」


「うん。」


「なんで?」


「私とどれくらい離れられるか気になるから。」


隼人がしばらく止まった。


「もしかして一定の距離以上離れたら俺が消えるとか、そういうことですか?」


「わからない。」


隼人の顔が強張った。


「それがわからないのに俺にやってみろって言うんですか?」


「でも調べないといけないでしょう。」


「自分の体でやる実験じゃないから、ずいぶん気軽に言いますね。」


アデリアはしばらく考えた。


間違った言葉ではなかった。


「じゃあ嫌?」


隼人はすぐに答えなかった。


しばらくしてため息をついた。


「ドアの前までだけ行きます。」


「いいよ。」


「変な感じがしたらすぐ戻ります。」


「うん。」


隼人が立ち上がった。


テオがドアを開けた。


隼人が廊下へ一歩出た。


何も起こらなかった。


二歩。


三歩。


アデリアはステータスウィンドウを開いた。


[残り時間 : 02:07:11]


変わったことはなかった。


「もう少し。」


廊下で隼人が振り返った。


「聞こえますか?」


「うん。」


彼は廊下の端まで歩いた。


依然として何の変化もなかった。


しばらくして戻ってきた。


「何も感じません。」


アデリアが頷いた。


「少なくともすぐ隣にいる必要はないんだね。」


隼人が再び椅子に座った。


「それはよかったです。」


「なんで?」


「トイレに行くまでついて回らないといけないんじゃ困るじゃないですか。」


アデリアがしばらく彼を見た。


そしてふっと笑った。


「それは私も嫌です。」


そうやって質問して。


確認して。


また質問した。


隼人が持っていた物も一つずつ調べた。


携帯電話。


小さな財布。


硬貨と紙幣。


鍵。


アデリアにはどれ一つ馴染みがなかった。


反対に隼人はここの硬貨や地図、魔道具に関心を見せた。


全く違う二つの場所だった。


少しずつその事実が確かになっていった。


時間も流れ続けた。


[残り時間 : 00:32:17]


アデリアが時間を確認すると隼人が聞いた。


「あとどれくらいですか?」


「三十二分。」


隼人の表情が少し強張った。


最初二時間以上残っていた時とは違った。


今は数字が現実的に感じられるようだった。


「戻れそうですか?」


「わからない。」


「急に消えたりはしませんよね?」


「多分?」


「その多分が一番不安です。」


隼人が携帯電話を見下ろした。


しばらく画面を見ていた彼が言った。


「もし戻ったら。」


アデリアが彼を見た。


「うん?」


「ここにいた時間もあちらでそのまま過ぎてるんでしょうか?」


「それもわからない。」


「そうでしょうね。」


隼人が苦笑した。


「次のレッスンは確実に遅れましたね。」


言葉は軽く言ったが表情はそうではなかった。


アデリアはその姿をしばらく見つめた。


初めて少し違う考えが浮かんだ。


隼人にとってここで過ごした三時間は単なる実験ではなかった。


彼にも元々いた場所がある。


やるべきことがあり。


待っている人間もいる。


アデリアはその事実を頭に入れた。


ちょうどそこまでだった。


「戻れば確認できますね。」


隼人が彼女を見た。


「また来られるならですけど。」


アデリアの視線が一瞬止まった。


「それはわからない。」


「本当にわからないことが多いですね。」


「だから確認してるんです。」


隼人がふっと笑った。


「それは確かに。」


しばしの沈黙。


アデリアがステータスウィンドウを再び確認した。


[残り時間 : 00:29:48]


まだ三十分近く残っていた。


しかし今度は下の方に、前にはなかった小さな文章が一つ現れた。


[召喚終了が近づいています。]


アデリアが目を細めた。


隼人がすぐに気づいた。


「また何か出たんですか?」


アデリアは彼を見た。


「うん。」


「何て言ってるんですか?」


アデリアがしばらく数字を確認した。


そして言った。


「もうすぐ終わるって。」


隼人の笑みが消えた。


部屋の中も静かになった。


さっきまでは質問と笑いが続いていた。


しかし今は誰も簡単に次の言葉を出せなかった。


数字は依然として減っていた。


00:29:42


00:29:41


00:29:40


隼人は自分の携帯電話を一度見下ろした。


そしてアデリアを見た。


「じゃあ。」


彼が言った。


「本当に戻るのか見てみますね。」


アデリアは答えなかった。


彼女もまたステータスウィンドウから目を離さなかった。


初めて召喚した人間が。


どこへ消えるのか。


本当に元いた場所へ戻るのか。


それとも――


全く違うことが起こるのか。


まだ誰にもわからなかった。

第7話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。