↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/16

三時間

02:59:52


02:59:51


数字は減り続けていた。


アデリアはしばらくそれを見つめてからステータスウィンドウを閉じた。


今、通りの真ん中で悩んでいる場合ではなかった。


「お嬢様。」


ローウェンが近づいてきた。


「ここから移動されるべきです。」


今度はアデリアも反論しなかった。


周りを見回すと理由がわかった。


人が多すぎた。


さっきよりもむしろ増えていた。


四人のならず者が貴族令嬢に絡んだというだけでも見世物になるのに、その最中に虚空から正体不明の男まで現れたのだ。


人々が散る理由がなかった。


むしろ一人、また一人と集まってきていた。


「あの人、急に現れたよな?」


「魔法だった。」


「召喚術じゃないか?」


「人間を召喚するって?」


ざわめきがあちこちから聞こえた。


アデリアの眉が少し下がった。


やはり場所選びを間違えた。


安全な場所ばかり考えて、見る目までは考えなかった。


『次はこれも考えないとね。』


一度きりで終わる権能ではないだろう。


Lv.1と書いてあったのだから。


つまりこれから再び使うこともできる。


そのたびにこうやって人の多い通りの真ん中で人間を呼び出すわけにはいかなかった。


「お嬢様?」


ローウェンが再び呼んだ。


「うん。行こう。」


アデリアが素直に答えると、ローウェンの表情が少しだけ和らいだ。


その時、王都の警備隊長が近づいてきた。


「お嬢様。」


彼はアデリアに向かって丁重に頭を下げた。


「状況確認のためにいくつかお伺いしてもよろしいでしょうか?」


アデリアが口を開く前にローウェンが一歩前に出た。


「私が説明します。」


警備隊長がローウェンを見た。


ローウェンは上着の内側に手を入れた。


そして小さな金属の紋章を取り出した。


ほんの一瞬だった。


警備隊長の表情が固まった。


王室近衛隊の紋章だった。


ローウェンが低い声で言った。


「王室に関わることです。」


警備隊長の視線がアデリアの方へ向かおうとした。


ローウェンがすぐに付け加えた。


「この方の身分はお尋ねにならないでください。」


警備隊長が視線を下げた。


「承知しました。」


「人目を避けられる場所が必要です。」


「近くの詰め所に使っていない部屋が一つあります。」


「そこへ行きます。」


警備隊長はそれ以上尋ねなかった。


アデリアはその様子を見て思った。


『楽だな。』


やはり従者を連れて歩くのはいい。


自分が直接説明しなくても勝手に処理してくれるから。


ところが横で田中隼人が割り込んできた。


「ちょっと待ってください。」


全員の視線が彼に向かった。


隼人がローウェンを指した。


「今あの方が何を見せたんですか?」


アデリアが答えた。


「大したことじゃないです。」


「大したことないものを見せたのに、あの人が急に態度を変えたんですけど?」


「王室で使う紋章です。」


隼人の眉が上がった。


「王室?」


「はい。」


彼は今度はアデリアを見た。


「じゃああなたも王室の人ですか?」


アデリアはしばらく彼を見た。


わざわざここで詳しく説明する必要はなかった。


「関係はあります。」


「関係は?」


「それだけ知っていれば十分です。」


隼人が呆れたように笑った。


「人を別の場所から連れてきておいて、説明はずいぶん出し惜しみしますね。」


「とりあえずここを出るのが先でしょう。」


隼人は周りを一度見回した。


見物人たちが依然として自分たちを見ていた。


「それはそうですね。」


彼はそれ以上尋ねなかった。


詰め所の奥の部屋は思ったより狭かった。


テーブル一つ。


椅子五つ。


壁に掛かった地図。


それだけだった。


アデリアは椅子に座った。


ミレイユは自然に彼女の後ろに立った。


ローウェンとテオはドアの方に位置取った。


そして田中隼人は――


立っていた。


アデリアが空いている椅子を指した。


「座って。」


隼人は椅子を一度見てからアデリアを見た。


「その前に一つ確認させてください。」


「何ですか?」


「俺、今監禁されてるんですか?」


アデリアが目を瞬かせた。


「いいえ。」


「ドアの前に剣を差した人が二人いますけど。」


アデリアがローウェンとテオを見た。


「元々ああなんです。」


「それ、全然安心できる説明じゃない気がしますが。」


隼人は依然として立っていた。


アデリアが言った。


「座ってって言ったじゃないですか。」


「俺は今立ってても平気です。」


アデリアの目が少し細くなった。


隼人もそのまま見つめ返した。


数秒。


アデリアが先に視線を外した。


『言うこと聞かないな。』


自分が召喚した。


なのに自分の言うことに従う理由が全くない人間のように振る舞っていた。


アデリアが試しに言った。


「じゃあ手を挙げてみて。」


隼人の表情がおかしくなった。


「は?」


「手。」


「なんで?」


「確認したいことがあって。」


隼人はしばらくアデリアを見た。


そして腕を組んだ。


「嫌ですね。」


アデリアの目が少し見開かれた。


ミレイユが頭を下げた。


おそらく笑いを堪えているようだった。


アデリアは隼人から目を離さなかった。


「私があなたを呼んだのに?」


「そうですね。」


「なのに私の言うことを聞かない?」


「呼ばれたからって俺がなんで言うこと聞かなきゃいけないんですか?」


隼人が聞き返した。


「俺が来たいって言ったわけでもないのに。」


アデリアは口をつぐんだ。


正しい言葉だった。


気分は少し悪かったが。


ステータスウィンドウのどこにも、召喚された人間が自分の命令に従うとは書かれていなかった。


アデリアが椅子の背にもたれた。


『本当に呼ぶだけなんだな。』


召喚する。


それだけだ。


その後何をするかは召喚された人間が決める。


これはかなり重要な情報だった。


「もういいです。」


「何がです?」


「確認できたから。」


隼人が疑わしげな顔で彼女を見た。


そしてついに椅子を引いて座った。


さっきは命令しても座らなかったくせに。


アデリアはその様子を見て目を細めた。


隼人が聞いた。


「なんでそんな目で見るんですか?」


「別に。」


なんだか少し憎らしかった。


「まず。」


隼人がテーブルの上に腕を乗せた。


「俺がどこにいるのか、ちゃんと説明してください。」


アデリアが答えた。


「ローゼンハルト王国。」


「それは聞きました。」


「王都の中で。」


「それも。」


隼人はしばらく言葉を選んだ。


「俺が聞いてるのは地球のどこかってことです。」


「地球?」


今度はアデリアが初めて聞く言葉だった。


隼人が止まった。


「地球を知らないんですか?」


「それ何ですか?」


隼人の顔が少しずつ強張っていった。


「……惑星の名前です。」


「惑星?」


アデリアの表情を見た隼人が額を押さえた。


「あ。」


短くうめいた。


「本当に変なところに来たみたいですね。」


アデリアはむしろ興味が湧いた。


「あなたが住んでいた所では国が日本で。」


「はい。」


「都市は東京。」


「はい。」


「そしてそこ全体が地球という場所にある?」


隼人はしばらく悩んでから言った。


「だいたいそう理解してもらえればいいです。」


「大陸の名前は?」


「アジア。」


アデリアは首を振った。


初めて聞く。


隼人が聞いた。


「ローゼンハルトという国はどの大陸にあるんですか?」


「アルカディア。」


今度は隼人が首を振った。


「初めて聞きます。」


二人の間にしばし沈黙が流れた。


アデリアと隼人が互いを見つめた。


今度は二人とも似たようなことを考えていた。


同じ世界ではないかもしれない。


隼人が先に言った。


「つまり。」


指でテーブルを叩いた。


「俺は日本の東京にいて。」


「うん。」


「アデリアさんはここローゼンハルト王国に住んでいて。」


「はい。」


「お互い相手の国の名前も知らなくて。」


「そうですね。」


「大陸の名前も知らなくて。」


「はい。」


「なのに急に俺がここに来た。」


アデリアが頷いた。


「私が呼んだから。」


隼人が深くため息をついた。


「その言葉、ずいぶん平然と言いますね。」


「事実ですから。」


「全く申し訳なくないんですか?」


アデリアがしばらく考えた。


「少しは?」


隼人の眉が上がった。


「少しですか?」


「結果的にさっき助かったじゃないですか。」


「それは俺が殴られそうになって戦ったんです。」


「それでも助かったでしょう。」


「……。」


隼人は口を閉じた。


アデリアがほんの少し笑った。


「それに三時間経てば戻れるかもしれないし。」


「それがわからないって言ってたじゃないですか。」


「だから確認しないと。」


隼人はしばらくアデリアを見つめた。


「性格変わってますね。」


アデリアが笑った。


「たまに言われます。」


後ろでミレイユがごく小さく咳払いをした。


アデリアは聞こえないふりをした。


隼人がポケットを探った。


アデリアの視線が自然にそちらへ向かった。


隼人が平たい黒い物を取り出した。


アデリアの目がすぐに動いた。


「それ何ですか?」


「携帯電話です。」


「携帯電話?」


隼人が横のボタンを押した。


黒い表面が急に明るくなった。


アデリアの目が見開かれた。


テオもドアの脇で少し体を前に傾けた。


ローウェンだけ表情の変化がほとんどなかった。


隼人は画面を何度か触った。


「やっぱりダメだな。」


「何がです?」


「通信です。」


「通信?」


「遠くにいる人と話すことです。」


アデリアが携帯電話をじっと見つめた。


「それで?」


「はい。」


「どれくらい遠くまで?」


「日本国内ならほぼどこでも。」


アデリアが目を細めた。


「魔道具ですか?」


「魔道具って何ですか?」


今度は隼人が聞き返した。


二人はしばらく互いを見つめた。


隼人がため息をついた。


「こういう反応見ると本当に違う世界みたいですね。」


アデリアは彼の言葉より携帯電話に関心が向いた。


「見せて。」


隼人が携帯電話を少し後ろに引いた。


「なんで?」


「気になるから。」


「高いんです。」


「壊さない。」


「さっき道で戦ってた人が言うことじゃない気がしますが。」


アデリアの眉が上がった。


「私、上手く戦ったのに。」


「それは認めます。」


隼人がふっと笑った。


そしてしばらく悩んでから携帯電話を差し出した。


「落とさないでくださいね。」


アデリアが受け取った。


思ったより軽かった。


滑らかで冷たい表面。


画面の中には無数の小さな絵があった。


「これ何ですか?」


「アプリです。」


「アプリ?」


「……説明すると長くなります。」


アデリアが指で画面を押した。


絵が変わった。


目が少し見開かれた。


もう一度押した。


また変わった。


「不思議ですね。」


今度は本当に感嘆が混じっていた。


隼人はそんなアデリアを見ながら言った。


「でも変なのはこれだけじゃないんです。」


「何がです?」


「言葉です。」


アデリアが携帯電話から目を上げた。


「さっきも言いましたけど、俺は確かに日本語で話してます。」


「うん。」


「アデリアさんは?」


「ローゼン語。」


「それがここの言葉ですか?」


「王国の公用語。」


「なのに俺、それを習ったこともないのに聞き取れてて。」


隼人が横にいたミレイユを指した。


「あの方の言葉も聞こえます。」


ミレイユが口を開いた。


「私の言葉もわかりますか?」


隼人がすぐに答えた。


「はい。」


ミレイユの目が少し見開かれた。


アデリアもその様子を見つめた。


「私の権能のせいだと思うけど。」


「確実ですか?」


「いいえ。」


隼人が力なく笑った。


「確実なことがあまりないですね。」


「まだね。」


その時。


アデリアの視界の端に小さな文字が現れた。


[召喚対象基本サポート機能が適用中です。]


- 意味言語解釈


- 召喚安定化


- 基本環境適応


アデリアが止まった。


隼人がそれを見て聞いた。


「また何か見えたんですか?」


アデリアは今度は隠さなかった。


「あなたに何か適用されてるって。」


隼人の顔が強張った。


「何がです?」


「言語解釈。」


「やっぱり。」


「召喚安定化。」


「それは何ですか?」


「わかりません。」


隼人が目を閉じた。


「予想してました。」


アデリアが最後の行を読んだ。


「基本環境適応。」


隼人が目を開けた。


「それは一体何ですか?」


「それもわからない。」


「……。」


アデリアがしばらく考えた。


「少なくとも息するのに問題はないでしょう。」


隼人の表情が妙になった。


「そう言われると急に不安になるんですけど。」


アデリアはその反応を見ながら小さく笑った。


この三つは覚えておく必要があった。


言語。


安定化。


環境。


権能は少なくとも召喚された人間がここですぐに問題が起きないよう、最低限の準備はしてくれるようだった。


それ以上ではない。


命令も聞かないし。


戦いも自分で判断してやるし。


戻る方法すらまだわからない。


『本当に不親切だな。』


しかし今、少しずつ形が見え始めていた。


「残り時間は?」


隼人が聞いた。


アデリアがステータスウィンドウを確認した。


[残り時間 : 02:41:16]


「二時間四十一分くらい。」


「正確ですね。」


「数字で出るから。」


隼人が椅子の背にもたれた。


「じゃあとりあえず待つしかなさそうですね。」


「そのつもりですか?」


「他に方法ありますか?」


「ないです。」


「だからです。」


隼人はテーブルの上に置いた自分の携帯電話を再び手に取った。


画面を何度か触ってから時間を確認した。


「まだ時間は進んでますね。」


アデリアが聞いた。


「当たり前じゃないですか?」


「俺にとっては当たり前じゃないんです。」


隼人が携帯電話の画面を見下ろした。


「俺が消えた場所でも時間がこうやって流れてるのかわからないじゃないですか。」


アデリアが口をつぐんだ。


それは考えていなかった。


もし隼人が三時間の間ここにいる間、彼が住んでいた所でも三時間が過ぎるとしたら。


あちらでは急に人が消えたことになる。


隼人も同じことを考えているようだった。


「ジムのドアも開いてるし。」


彼がつぶやいた。


「次のレッスンもあるのに。」


「レッスン?」


「俺、運動を教える仕事をしてます。」


アデリアの目つきが動いた。


「それで戦いが上手いんですか?」


「それもあるし。」


隼人が自分の手を見下ろした。


「総合格闘技のジムでコーチをしてます。」


アデリアは初めて聞く単語をすぐに聞いた。


「総合格闘技?」


「いろんな方式の戦いを混ぜてやる運動だと思えばいいです。」


アデリアが数秒間彼を見つめた。


条件。


戦いが上手い人間。


その結果選ばれたのがこの人間だった。


アデリアは少し満足した。


少なくとも条件はちゃんと機能する。


「なんでそんな目で見るんですか?」


「条件によく合ってるから。」


隼人の表情が強張った。


「何の条件?」


アデリアはしばらく口をつぐんだ。


わざわざ隠す理由はなかった。


「あなたを呼ぶ時、条件を一つ決められたんです。」


「条件?」


「うん。」


「どんな条件だったんですか?」


アデリアが何でもないように答えた。


「戦いが上手い人間。」


隼人が止まった。


数秒間言葉がなかった。


そして片手で顔をこすった。


「それでよりによって俺が……。」


「不快ですか?」


「良いとも言いにくいですね。」


「なんで?」


隼人がアデリアを見た。


「本人の意思と関係なく急に連れてきたわけですから。」


アデリアがしばらく考えた。


そう言われれば間違いではなかった。


「でも戻れるかもしれないし。」


「それもわからないって言ってましたよね。」


アデリアは口をつぐんだ。


隼人がため息をついた。


「とりあえず戻ってから考えましょう。」


戻ったら。


アデリアはその言葉を頭に入れた。


召喚が終わったら本当に戻るのか。


どこへ。


どんな状態で。


記憶は残るのか。


再び呼べるのか。


確認すべきことは多かった。


アデリアの視線が自然にステータスウィンドウへ向かった。


[残り時間 : 02:36:48]


まだ二時間以上残っていた。


隼人も彼女の視線を見て聞いた。


「また時間見てるんですか?」


「うん。」


「まだたくさん残ってますよね?」


「二時間半くらい。」


隼人が頭を後ろに反らした。


「長いな。」


アデリアも同じ気持ちだった。


その時ドアの脇で静かにしていたローウェンが口を開いた。


「お嬢様。」


「何?」


ローウェンの視線が田中隼人に向かった。


「あの方をこのままここに置いておくおつもりですか?」


隼人がすぐに顔を向けた。


「俺もここにずっといたいわけじゃないです。」


アデリアが二人を交互に見た。


そしてふと笑った。


今日王宮を出る時までは。


自分はただ権能が本当に人間を呼び出せるのか確認しようとしただけだった。


なのに今目の前には――


存在しない国から来たと主張する人間が座っていた。


言葉は通じる。


命令は聞かない。


不思議な物を持っている。


そして二時間半後にどうなるのか誰にもわからない。


アデリアは椅子の肘掛けに顎を乗せた。


「とりあえず。」


隼人が彼女を見た。


「二時間半の間、何をするか決めましょう。」


「何をするつもりですか?」


アデリアが目を少し弧にした。


「確認することが多いから。」


隼人の表情が少し不安になった。


「その笑い方、あんまり好きじゃないんですけど。」


アデリアは答えなかった。


ステータスウィンドウの数字は依然として静かに減り続けていた。


02:36:31


02:36:30


02:36:29

第6話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。