↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/16

王都見物

王宮の外に出るのは思ったより面倒だった。


アデリアは馬車の中で窓の外を眺めながら尋ねた。


「普通に歩いて出たらダメだったの?」


向かいに座っていたミレイユが答えた。


「いけません。」


「なんで?」


「殿下は王女様ですから。」


「今はそうじゃないでしょ。」


アデリアは自分の服を見下ろした。


華やかなドレスの代わりに、淡い色の普段着。


装飾も最小限に抑えていた。


髪もいつもより単純にまとめていた。


王女だと知らない人間が見れば、貴族の娘くらいにしか思わないような姿だった。


ミレイユが言った。


「服を変えたからといって、王女でなくなるわけではありません。」


「外ではお嬢様って呼ぶことにしたじゃない。」


「呼び方が変わるだけです。」


「だから。」


アデリアが窓枠に顎を乗せた。


「お嬢様が馬車に乗って出かけるのはおかしくないでしょ。」


ミレイユは答えなかった。


その沈黙が気に入らなかった。


アデリアが向かいを見た。


ミレイユの隣には誰もいなかった。


ローウェンとテオは馬車の外で馬に乗ってついてきていた。


二人とも王室近衛隊の制服は着ていなかった。


ローウェンは濃い茶色の外套。


テオは灰色の上衣と革の装備。


平凡な貴族家の護衛に見えるように合わせた服装だった。


その中でもテオは出発前からやけに浮かれていた。


『王都巡回は数え切れないほどやりましたが、王女殿下とこうして出るのは初めてです。』


その言葉を口にした後、ローウェンに一発叩かれた。


正確には後頭部を手のひらで軽く叩かれた。


そしてミレイユにも指摘された。


『外では殿下ではなくお嬢様です。』


それ以降は静かだった。


少なくとも今までは。


馬車が止まった。


ミレイユが先に降りた。


「到着しました、お嬢様。」


アデリアの口角が上がった。


「その方がずっといいわね。」


王宮からそう遠くない距離だった。


だがアデリアにはかなり違って見えた。


商人たちの声。


行き交う馬車。


パンの匂い。


肉を焼く匂い。


果物が積まれた露店。


自分を見ても誰も頭を下げなかった。


アデリアはゆっくりと通りを歩いた。


ローウェンは数歩後ろ。


テオはその隣。


ミレイユだけがアデリアの近くに付いていた。


「思ったより賑やかね。」


ミレイユが言った。


「王都で最も人が多い通りの一つです。」


「宮殿よりずっと多いじゃない。」


「宮殿には商人がこんなに多くありませんから。」


アデリアは通り過ぎる露店を一つずつ見た。


干した果物。


小さな装身具。


布。


香辛料。


初めて見る形のパン。


そこで足が止まった。


赤い果物にきらきらした砂糖衣がかかっていた。


アデリアが指をさした。


「あれは何?」


テオがすぐに答えた。


「砂糖がけの果物です、お嬢様。」


アデリアが振り返った。


「食べたことある?」


「はい。」


「美味しい?」


テオが少し考えた。


「すごく美味しいというわけではありません。」


ローウェンが彼を見た。


テオがすぐに付け加えた。


「それでも一度は食べてみる価値はあります。」


アデリアが再び果物を見た。


「じゃあ一つ買って。」


「え?」


「一つ。」


テオが懐に手を入れた。


それより先にミレイユが硬貨を取り出した。


「私がお支払いします。」


テオが手を止めた。


「僕が買ってあげてもいいのに。」


ミレイユが彼を見た。


「業務中です。」


「……はい。」


アデリアは二人のやり取りを気にしなかった。


果物を受け取って一口かじった。


甘かった。


その後に少し酸っぱかった。


アデリアが何度か噛んでから言った。


「悪くないわね。」


テオの表情が少し明るくなった。


「でしょう?」


「すごく美味しいわけじゃないけど。」


テオの表情がまた元に戻った。


ローウェンが顔を背けた。


笑いをこらえているようだった。


王都の通りは思ったより見るものが多かった。


アデリアは布を売る店の前で少し立ち止まったし。


ガラスの装身具を売る露店でも立ち止まった。


道端で演奏する楽師を見物したりもした。


だが実際に買うことはほとんどなかった。


気に入るものがあればミレイユが支払い。


持ち帰るものができればテオが持った。


テオの手に小さな袋が三つほど積み上がった頃だった。


彼が尋ねた。


「お嬢様。」


「なに?」


「もしかしてまだ買われますか?」


「わからない。」


テオが自分の手を見下ろした。


「そうですか。」


ローウェンが言った。


「不満か?」


「ありません。」


返事は早かった。


アデリアがテオを見た。


「重い?」


「いいえ。」


「じゃあいいわ。」


テオはそれ以上尋ねなかった。


もう少し歩くと通りが狭くなった。


大きな店が減り、小さな店が増えた。


人の数も少し減った。


ミレイユが周りを見回した。


「そろそろお戻りになったほうがよろしいかと。」


「なんで?」


「最初に許可された範囲がほとんど終わりました。」


「もう少しだけ。」


「お嬢様。」


「もう少し。」


ミレイユがローウェンを見た。


ローウェンは周りを一度確認した。


「この通りの端までなら構いません。」


アデリアがミレイユを見た。


「ローウェンはいいって。」


「ローウェン卿は護衛を担当しています。」


「だからもっと重要でしょ。」


ミレイユが短く息を吐いた。


「通りの端までです。」


「わかった。」


アデリアはすぐに歩き出した。


ミレイユが後ろで小さく言った。


「絶対に聞こえていらっしゃったでしょうね。」


テオが答えようとしてローウェンの視線を受け、口をつぐんだ。


通りの端には小さな広場があった。


正確には広場と呼ぶには狭かった。


井戸が一つ。


パン屋。


雑貨屋。


そして小さな食料品店がいくつか。


アデリアは最初はあまり興味がなかった。


そこで声が聞こえた。


「だから明日までに準備しろって言っただろう。」


荒々しい男の声だった。


アデリアの足が止まった。


道の向かいの小さな店の前。


男が四人立っていた。


服装はばらばらだった。


古い革のベスト。


半分はだけたシャツ。


腰に短い剣を差した人間もいた。


傭兵には見えなかった。


訓練を受けた人間特有の緊張感もなかった。


ただの質の悪いごろつきたち。


その前には中年の店主が立っていた。


「数日待ってくれ。」


「数日?」


男の一人が笑った。


「前も数日だったな。」


「商売が思うようにいかなくて……。」


「それはこっちの事情じゃない。」


男が店の前に積まれた箱を一つ蹴った。


箱が倒れた。


中にあった野菜が地面に転がった。


店主が急いで身をかがめた。


「やめてくれ。」


「金がないなら物で払え。」


「これは売らなきゃならないものだ。」


「だから俺たちが持っていくんだよ。」


隣の男が笑った。


アデリアが尋ねた。


「あれ何してるの?」


ミレイユが小さく答えた。


「お金を取り立てているようです。」


「なんで?」


「おそらく用心棒代のような名目でしょう。」


「用心棒代?」


テオが口を開いた。


「ああいう人間たちがいるんです。自分たちが守ってやると言ってお金を取るんです。」


アデリアが男四人を見つめた。


「あいつらが何を守るの?」


テオが軽く肩をすくめた。


「たいていは自分たちから守ってやっているだけです。」


アデリアがテオを見た。


「どういうこと?」


「金を払わなければ自分たちが店を壊すからです。」


「……おかしいわね。」


ミレイユが言った。


「関わらないほうがよろしいかと。」


アデリアが再び向かいを見つめた。


店主が地面に落ちた野菜を拾おうとすると、男の一人が彼の手の甲を踏んだ。


「まだ話は終わってないのに、どこ見てんだ?」


店主が歯を食いしばった。


周りの人間たちはちらちら見るだけだった。


誰も割って入らなかった。


アデリアが尋ねた。


「衛兵は?」


ローウェンが答えた。


「大通りのほうにいます。」


「呼べば来る?」


「来るとは思いますが、時間が少しかかります。」


「じゃあ今は?」


「通り過ぎるのが一番安全です。」


アデリアがローウェンを見た。


「安全?」


「はい、お嬢様。」


ローウェンの声は落ち着いていた。


「私たちの任務はお嬢様を安全に宮殿へお連れすることです。」


アデリアは再び男たちを見た。


四人。


数日前に試しに入力してみた言葉が思い浮かんだ。


強い人間。


剣が強い人間。


喧嘩が強い人間。


まだきちんと確認できていない権能。


【固有権能:人間召喚 Lv.1】


【条件スロット:1】


アデリアの視線が少し変わった。


ミレイユがそれに気づいた。


「お嬢様。」


「なに?」


「今、何をお考えですか?」


「何も。」


「何もお考えでないときのお顔ではありません。」


アデリアがミレイユを見つめた。


「私の顔、そんなによくわかるの?」


「長くお仕えしていますから。」


「じゃあこれもわかるでしょうね。」


「何をおっしゃりたいのですか?」


アデリアが再びごろつきたちを見つめた。


「あいつらあまり強そうに見えないわ。」


テオが小さく言った。


「それは事実です。」


ローウェンがすぐに彼を見た。


「テオ。」


「事実を申し上げただけです。」


アデリアが尋ねた。


「私、何人まで相手にできると思う?」


ローウェンの表情が固くなった。


「相手にすることをお考えにならないでください。」


「聞いただけよ。」


「一人も相手になさる必要はありません。」


「それは答えになってないでしょ。」


「お嬢様。」


今度はミレイユだった。


「今日は王都見物にいらしたんです。」


「わかってる。」


「喧嘩を見物したり、ご自分でなさりにいらしたわけではありません。」


「それもわかってる。」


向かいで再び大きな声がした。


男の一人が店主の胸ぐらをつかんだ。


「明日までじゃなくて今すぐ出せ。」


アデリアが持っていた砂糖菓子の串をミレイユに差し出した。


「これ持ってて。」


ミレイユは受け取らなかった。


「なぜですか?」


「手が必要になりそうだから。」


「お嬢様。」


ローウェンが一歩前に出た。


「おやめください。」


アデリアがローウェンを見た。


「なんで?」


「危険です。」


アデリアはしばらく考えた。


そしてごく当然のように言った。


「危険なら、あなたたちが止めればいいじゃない。」

第3話です。王都で起きた騒動、アデリアはどんな選択をするのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。