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王国の問題

サラが消えた翌日。


アデリアが最初に向かったのは王宮の医務室だった。


「これ全部昨日作ったんですか?」


机の上には紙が山積みになっていた。


王宮医務官が頭を下げた。


「はい、殿下」


サラが教えてくれた内容だった。


気道。


呼吸。


循環。


意識確認。


激しい出血。


患者を運ぶ方法。


複数の患者が同時に発生した時、誰から診るべきかの基準。


アデリアが紙を一枚持ち上げた。


一番上には見慣れない文字が残っていた。


A B C


その横には王国の文字で意味が書かれていた。


「これ、他の医務官たちも学ぶんですか?」


「まずは王宮の医務官たちに共有する予定です」


「なぜまずは?」


「一度効果があったからといって、すぐに全ての医務官に適用しろとは言えません」


「ドランは生きたじゃないですか」


「そうです。ですが一度です」


医務官が記録を指した。


「他の患者にも役立つか確認する必要があります。既存の治療法と一緒に使っても問題がないかも見なければなりません」


「それでここでまず試してみる?」


「はい」


「どれくらい?」


「当分の間、事例を集めてみるつもりです」


アデリアが紙を置いた。


「結果が出たら教えてください」


「分かりました、殿下」


アデリアの視線が寝台の方へ向かった。


ドランが寝ていた。


昨日より顔色が良くなり、右足もきちんと固定されていた。


ドランがアデリアを見つけて起き上がろうとした。


「殿下」


「寝ていてください」


「ですが……」


王宮医務官が口を挟んだ。


「まだ起きてはいけません」


ドランは再び体を横たえた。


「昨日より良くなったようですね」


「はい、殿下。だいぶ良くなりました」


ドランが少しためらった。


「昨日のあの見知らぬ方も、私の治療を手伝ってくださったと伺いました」


「サラのことですか?」


「名前は聞けませんでした」


「サラ・ミラーです」


「今はどちらにいらっしゃいますか?」


「戻りました」


「もうですか?」


「はい」


ドランは少し残念そうな表情をした。


「また会えることがあれば、感謝の言葉を申し上げたいです」


「また会えるかは私も分かりません」


「そうですか」


アデリアが体を向けた。


「休んでください」


「はい、殿下」


医務室を出た後、アデリアはステータスウィンドウを開いた。


【固有権能:人間召喚 Lv.1】


【条件スロット:1】


【累積経験値:50 / 100】


【再使用可能まで:5日18:42:11】


「まだ5日」


ミレイユが言った。


「昨日は7日でした」


「知ってる」


「減ってはいます」


「それを慰めって言うの?」


「事実を申し上げただけです」


廊下を歩いていた二人の前に侍従が近づいてきた。


「王女殿下」


「何?」


「陛下がお呼びです」


「今?」


「はい、殿下」


アデリアがミレイユを見た。


「良い話である可能性は?」


「高いとは申し上げにくいです」


「やっぱり」


アデリアは方向を変えた。


エドガールが待っていたのは小さな会議室だった。


机の上に書類が積まれていた。


アデリアがエドガールを見た。


「私、帰ってもいいですか?」


「駄目だ」


エドガールが机を指した。


「座れ」


アデリアは仕方なく椅子に座った。


「まさかこれ全部読めって言うんじゃないですよね?」


「違う」


「よかった」


「必要なものだけ見ればいい」


「その言葉もあまり安心できないんですけど」


エドガールは書類を一枚前に押した。


「昨日話したことを覚えているか」


「どれですか?」


「我々が解決できない問題を解決する人間を呼べるか試してみようという話だ」


「本当にやるんですか?」


「そうだ」


「王国の仕事で?」


「王国に解決できていない問題が一番多いからだ」


アデリアが書類の山を見た。


「それじゃこれ全部問題なんですか?」


「その一部だ」


「……一部?」


エドガールは一番上の書類を指した。


「一つだけ選べばいい」


「一つだけ?」


「次の召喚で試す問題一つ」


「私が選ぶんですか?」


「そうだ」


「条件も?」


「お前が決める」


アデリアは最初の書類を手に取った。


「これは何ですか?」


「北の鉱山の浸水問題だ」


「水を抜けばいいんじゃないですか?」


「抜いている」


「それで?」


「絶えず入ってくる」


「どこからですか?」


「それが見つからない」


アデリアは置いた。


「これは?」


「西部地方の道路だ」


「崩れたんですか?」


「毎年同じ区間が崩れる」


「直しても?」


「また崩れる」


「なぜですか?」


「それが分かればここにはない」


アデリアは次の書類をめくった。


王都南部の水路の水量減少。


倉庫の穀物の腐敗。


馬に広がる原因不明の熱病。


国境付近で繰り返される石壁の崩壊。


税をきちんと収められない領地。


「これは面白くない」


「何が」


「税」


「私には興味ないです」


「重要だ」


「私にとってはそうじゃないです」


「王になれば重要になる」


アデリアが次の書類を手に取った。


「私、王になる気ないんですけど」


エドガールが短くため息をついた。


「はあ……知っている」


次の書類には病んだ小麦が描かれていた。


葉には赤くて茶色い斑が広がり、穂もきちんと実っていなかった。


「これはなぜこうなんですか?」


「西部の穀倉地帯で広がっている病気だ」


「植物も病気になるんですか?」


「当然だ」


「そのくらいは知らなくても生きられるじゃないですか」


「お前はそうだろうな」


「いつからですか?」


「2年前からだ」


「原因は?」


「分からない」


「農業をする人間たちも?」


「分からない」


「魔法師は?」


「植物を扱う魔法師たちも呼んだ」


「それでも?」


「そうだ」


「治癒魔法は?」


「病んだ植物一株を回復させる程度は可能だ」


「それならやればいいじゃないですか」


エドガールが地図を広げた。


西部のあちこちに赤い印がついていた。


「……多いですね」


「一株ずつ治療して解決する規模ではない」


「病んだのを全部抜いたら?」


「やった」


「燃やしたら?」


「それも」


「それでも生えてくるんですか?」


「翌年、別の畑で再び現れた」


「今年も広がっているんですか?」


「去年より広くなった」


「それだと収穫量も減りますよね」


「そうだ」


「値段も上がって?」


「そうだ」


アデリアが絵を指で叩いた。


「私たちの王国にはこれを知っている人間がいないんですよね?」


「今まで見つけられていない」


「それなら別の世界にはいるかもしれないし」


「それを確認しようというのだ」


アデリアが言った。


「これにします」


「理由は?」


「確認しやすいです」


「鉱山や道路は直接行かなければならないかもしれないじゃないですか」


「そうだな」


「これは病んだ小麦だけ持ってくればいいし」


アデリアが絵を置いた。


「呼んだ人間が原因を知っているかもすぐ確認できるし」


ミレイユが言った。


「殿下が西部まで行く必要もないですし」


アデリアが振り返った。


「それが一番重要なわけじゃない」


「もちろんです」


条件を決めなければならなかった。


「農業が得意な人間」


エドガールが首を振った。


「広すぎる」


「それなら小麦を育てるのが得意な人間」


「似ている」


「病んだ小麦を治すのが得意な人間」


エドガールが言った。


「我々が必要なのは一株を治す方法ではない」


ミレイユが言った。


「何によって病むのかを先に知るべきではないでしょうか」


アデリアが絵を見た。


「植物の病気に詳しい人間」


エドガールが尋ねた。


「それにするのか?」


「広すぎますか?」


「今はその方がいい。お前の権能がどれほど細かい条件まで区別できるか、まだ分からないからな」


「それならこれにしましょう」


植物の病気に詳しい人間。


三つ目の条件が決まった。


数日後。


西部から病んだ小麦が王宮へ届いた。


症状が始まったばかりのもの。


既にほとんど枯れてしまったもの。


正常な小麦。


王宮庭園の一角の小さな倉庫が仮の調査室になった。


王室農業管理者も呼ばれた。


アデリアがステータスウィンドウを開いた。


【人間召喚 Lv.1】


【累積経験値:50 / 100】


【再使用可能まで:00:03:12】


「3分」


病んだ小麦。


正常な小麦。


王室農業管理者。


記録官。


王室魔法師。


ローウェン。


ミレイユ。


エドガール。


全て準備されていた。


時間が減った。


【再使用可能まで:00:00:10】


アデリアの視線がステータスウィンドウに留まった。


田中隼人の時は人間を本当に呼べるか確認した。


サラの時は別の能力を持つ人間も呼べることを確認した。


今回は問題が先にあった。


王国が2年間解決できなかった問題。


【再使用可能まで:00:00:03】


2 1


【人間召喚 Lv.1】


【再使用可能】


【条件スロット:1】


エドガールが言った。


「やってみろ」


アデリアが言った。


「植物の病気に詳しい人間」


【条件を確認しました】


【条件:植物の病気に詳しい人間】


【条件に適合する人間を探索中です】


数秒が過ぎた。


10秒。


20秒。


農業管理者が周りの人たちの表情だけをうかがった。


そして。


【条件一致対象を発見しました】


【安全な転移時点を確認します】


「見つけました」


エドガールが尋ねた。


「誰か分かるか?」


「まだです」


しばらくして。


【安全な転移時点を確認しました】


【対象を召喚します】


光の中から一人の女が現れた。


30代半ばほど。


髪は後ろで束ねられ、作業用ベストには土がついていた。


片手には小さな拡大鏡。


もう片方の手には葉の入った透明な袋。


「……何?」


女は周りを見回した。


「ここはどこ……」


そこで机の上の病んだ小麦を見つけた。


「ちょっと」


女はすぐに机へ近づいた。


ローウェンが動くとアデリアが手を挙げた。


「待って」


女は病んだ葉を手に取り、拡大鏡で観察した。


表。


裏。


茎。


枯れた穂。


「これは……」


アデリアが尋ねた。


「知っているんですか?」


「少し確認することがあります」


「分からないんですか?」


「いいえ」


女は葉を光にかざした。


「むしろ知っている気がするので確認しているんです」


「見たことがあるんですか?」


「はい」


女が葉を掲げてみせた。


「私が思っていることが正しければ、これはかなり厄介な病気ですね」

第13話です。

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