生かす順番
「成長していたようです」
エドガールの目つきが変わった。
「していた?」
「はい」
アデリアが虚空を指した。
「さっきサラが応急処置をして、経験値を20得たと出ました」
「経験値」
「でも累積は30です」
「それなら以前にも既に積まれていたということだな」
「たぶん田中隼人でしょうね」
エドガールが尋ねた。
「その経験値が積まれると何が変わるのだ」
「それは分かりません」
アデリアがステータスウィンドウを確認した。
【人間召喚 Lv.1】
【累積経験値:30 / 100】
100という数字は見えた。
その後に何が起こるのかは書かれていなかった。
エドガールが言った。
「もっと積んでみたいようだな」
「どうして分かったんですか」
「お前の父親として生きて18年だ」
二人は王宮の医務室へ向かった。
医務室に着いた時、中は既に慌ただしかった。
ドランは寝台の上に寝ていた。
右足は仮に固定されており、治癒術師二人が腹部を診ていた。
サラもそばにいた。
アデリアは戸口で少し立ち止まった。
「血圧は確認できませんか?」
サラが尋ねた。
王宮医務官が聞き返した。
「血圧?」
「血液が血管の壁にかける圧力です」
「それをどうやって確認するのですか」
サラは自分の持っている装備を確認した。
聴診器。
簡単な処置道具。
だが血圧計はなかった。
「今は正確に測るのは難しそうですね」
サラはドランの手首を握った。
「脈が速いです」
治癒術師が言った。
「出血が多かったせいでしょう」
「表に出た血は多くなかったじゃないですか」
「内側に出血があると申し上げました」
「だから危険なんです」
サラがドランの足を指した。
「傷が見えるなら治療するのが当然じ�ゃありませんか」
治癒術師が尋ねた。
「そうですね」
サラが言った。
「ですが、一番目立つ傷が一番危険な傷だという保証はありません」
視線が腹部へ向かった。
「この人も足より先に確認すべきことがあったじゃないですか」
王宮医務官が尋ねた。
「あなたの世界には治癒魔法がないと言いましたね」
「はい」
「それではどうやって治療するのですか」
「手術もして、薬も使って、必要なら血も入れます」
「治療より診断が先だという意味ですか」
「いつもそうとは限りません」
サラが指を一本立てた。
「気道」
もう一本。
「呼吸」
そしてもう一本。
「循環」
医務官がゆっくり繰り返した。
「気道。呼吸。循環」
「はい。一番早く命を脅かす問題から確認します」
アデリアが中へ入った。
サラが彼女を見つけた。
「王女殿下」
アデリアはドランを見た。
「生きますか?」
王宮医務官が答えた。
「内部出血を止めています。もう少し遅れていたら危険でしたが、今は生きる可能性が高いです」
「足は?」
「その次です」
アデリアがサラを見た。
「それで先ほど足から診なかったんですね」
「はい」
「足が一番ひどく見えても?」
「見た目と危険さは違うことがありますから」
ドランの状態が安定すると右足の治療が始まった。
治癒術師の手の下で骨が整い、腫れが引いていった。
サラがそれを近くで見つめた。
「これは本当にあり得ないですね」
アデリアが尋ねた。
「あなたたちより良いですか?」
「これは比較にもなりません」
「それなら私たちの治療の方が優れているんですね」
サラは少し考えた。
「治療する力はずっと強いです」
王宮医務官が尋ねた。
「そうでない部分もありますか」
「私たちはこういう力がないので、別の部分が発展しました」
「何がですか」
「どの患者を先に診るべきか」
「何から確認すべきか」
「怪我人をどう運ぶか」
「病院に着くまでどう持たせるか」
アデリアが尋ねた。
「それ、教えてもらえますか?」
「応急医療体系をですか?」
「それが名前ですか?」
「だいたいは」
「それなら、それ」
サラが笑うような笑わないような表情をした。
「時間が足りないと思いますが」
アデリアがステータスウィンドウを確認した。
【残り時間:01:54:23】
「まだ2時間近く残っています」
「全部教えるには足りません」
「それなら重要なものから」
サラがうなずいた。
「そうしましょう」
後ろにいたミレイユが言った。
「学んだことを直接なさるおつもりはないでしょうけれど」
アデリアが振り返った。
「ミレイユ」
「はい、殿下」
「そこまで言わなくてもいいでしょう」
「事実ですから、殿下」
アデリアはそれ以上言い返さなかった。
王宮医務官が先に言った。
「私も学びたいです」
サラが少し驚いた表情をした。
「本当ですか?」
「あなたが内部出血を先に疑わなければ、私たちは足から治療していた可能性が高いです」
記録官も席についた。
アデリアが彼を見て尋ねた。
「ずっといたんですか?」
「……はい、殿下」
「静かだったから分からなかった」
記録官はペンを取った。
サラは紙の上に大きな文字を3つ書いた。
A B C
アデリアが尋ねた。
「それは何ですか?」
「私たちが使う文字です」
一つ目。
「Airway。気道」
二つ目。
「Breathing。呼吸」
三つ目。
「Circulation。循環」
記録官が王国の文字に意味を訳した。
サラは意識確認。
気道。
呼吸。
激しい出血。
首を痛めた可能性がある時に無理に動かさないこと。
患者を運ぶ時に複数人が同時に動く方法を説明した。
王宮医務官たちは次々と質問を投げた。
サラは知っていることは説明し、この世界の治癒魔法と違う部分は改めて尋ねた。
その時、アデリアの目の前に文字が現れた。
【召喚対象が条件に該当する能力を使用しています】
アデリアは少し見つめてからステータスウィンドウを閉じた。
時間は速く流れた。
【残り時間:00:34:17】
サラが尋ねた。
「どれだけ残っていますか?」
「34分」
「もうですか?」
サラはドランが寝ている寝台を見た。
「あの人は大丈夫でしょうね?」
王宮医務官が答えた。
「もう大きな危険は越えました」
サラがうなずいた。
アデリアが尋ねた。
「戻ったら何からしますか?」
「私がいた場所でどれだけ時間が経ったか確認しないと」
「田中隼人もそれを気にしていました」
「前に召喚された日本人のことですよね?」
「はい」
「本当に戻ったと確信していますか?」
「ステータスウィンドウには帰還完了と出ました」
「その後は分からないんですね?」
「そうです」
サラが少し考えた。
「ところで、私が戻ったら」
「ええ」
「ここにあったことを誰が信じるでしょうか」
アデリアが言った。
「覚えていればいいじゃないですか」
サラが少し笑った。
「それが一番簡単な部分な気がしますね」
残り時間が10分を切った。
サラは王宮医務官に言った。
「さっき書いた内容は捨てないでください」
「もちろんです」
「できれば他の医務官たちにも伝えてください」
「あなたがまた来てくれるなら、もっと学びたいですね」
サラがアデリアを見た。
「それは私が決められることではないようですね」
アデリアが言った。
「私も同じ人間を再び呼べるかは分かりません」
サラが笑った。
「分からないことが多いですね」
「今も確認中ですから」
サラが少し考えて言った。
「次は相手の同意を先にもらう機能もあればいいですね」
「それは私が決めることじゃないんですが」
「それなら権能に言ってみてください」
「聞いてくれそうにないんですが」
「私もそう思います」
【残り時間:00:01:00】
「1分」
サラの表情が少し硬くなった。
【残り時間:00:00:30】
「30秒」
サラは王宮医務官に頭を下げた。
「ドランさんをよろしくお願いします」
「心配しないでください」
サラはドランを一度見て、アデリアに視線を移した。
「王女殿下」
「ええ」
「もしまた会うことがあれば、今度はもう少し急でなく呼んでください」
「どうやって?」
サラは口を閉じた。
しばらくして二人とも笑った。
【残り時間:00:00:10】
光がサラの体の周りに現れた。
【残り時間:00:00:03】
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サラが言った。
「戻れるといいですね」
アデリアが答えた。
「そうだといいですね」
【召喚維持時間が終了しました】
【召喚対象の帰還処理を進行します】
【帰還完了】
サラの姿が消えた。
新しい文字が続いた。
【召喚対象の活動精算が完了しました】
【権能経験値 +20】
【人間召喚 Lv.1】
【累積経験値:50 / 100】
「50です」
エドガールが尋ねた。
「経験値が?」
「はい。30から50になりました」
エドガールが言った。
「後半の活動も経験値として認められたようだな」
正確な基準はまだ分からなかった。
すぐに最後の文章が現れた。
【人間召喚 Lv.1 再使用待機中】
【再使用可能まで:6日23:59:59】
アデリアの表情が固まった。
「……また7日」
ミレイユが言った。
「今回は待つ理由がさらに増えましたね」
アデリアは数字を見つめた。
最初は人間を呼べるということ自体が面白かった。
今はどんな人間を呼ぶべきかを考えるようになった。
戦いが得意な人間は戦った。
応急処置が得意な人間は人を生かす方法を残した。
召喚された人間は3時間後に消える。
だがその人間が教えてくれたことまで消えるわけではなかった。
アデリアが言った。
「次は」
ミレイユが尋ねた。
「何を召喚するおつもりですか?」
「7日間、考えてみないと」
アデリアが笑った。
「今度は本当に慎重に」
第12話です。




