二つ目の条件
一週間は思ったより長かった。
特に待つ理由がはっきりしている時はなおさらだった。
アデリアは毎朝目を覚ますとすぐステータスウィンドウを確認した。
[再使用可能まで : 5日08:17:31]
次の日。
[再使用可能まで : 4日08:11:04]
そしてまた次の日。
「……遅い。」
ベッドに横たわったアデリアがつぶやいた。
服の準備をしていたミレイユが言った。
「時間は元々同じ速さで流れます。」
「知ってる。」
「なのに毎日同じことをおっしゃいます。」
「私が待ってるんだもん。」
「それでも早くはなりません。」
アデリアが枕を抱きしめた。
「ミレイユ。」
「はい。」
「たまにあなたと話すとあまり慰めにならない。」
「慰めるつもりで言ったのではありません。」
やはりそうだった。
アデリアはステータスウィンドウを閉じた。
だからといって一週間何もしなかったわけではなかった。
むしろやることが増えた。
国王エドガールがつけた記録官が最初の召喚に関する内容を整理した。
ローウェンとテオは通りであったことを再び説明しなければならなかった。
王室魔法使いは田中隼人が現れた場所に残った魔力の痕跡まで調査した。
結論は大したことがなかった。
正確には――
わかったことがほとんどなかった。
召喚の際、短く強い空間の歪みがあったと推定される。
しかし一般的な空間魔法とは方式が違う。
田中隼人からは特別な魔力は感じられなかった。
彼が持っていた携帯電話からも魔力は発見されなかった。
そしてあの人間がどこから来たのか確認する方法はなかった。
結局最も多くの情報を持っているのは依然としてアデリアだった。
その事実だけは気に入った。
問題は父だった。
「次の条件は決めたか?」
食事の席でも聞いた。
「まだです。」
実は決めていた。
しかしすぐには教えたくなかった。
「一週間に一度だけだ。」
「知ってます。」
「だから慎重に決めなければならない。」
「それも知ってます。」
エドガールが娘をしばらく見つめた。
「なのになぜ不安なんだ?」
アデリアがパンをちぎりながら答えた。
「私のことを信用してなさすぎでは?」
「先日王都のど真ん中で初対面の人間を召喚した娘が言うことではないと思うがな。」
アデリアは静かにパンを食べた。
反論しにくかった。
そしてついに。
七日目の朝。
アデリアが目を覚ますとすぐステータスウィンドウを開いた。
[人間召喚 Lv.1]
[再使用可能]
[条件スロット : 1]
アデリアが体を起こした。
「ミレイユ。」
部屋の一角でカーテンを開けていたミレイユが振り返った。
「はい、殿下。」
「できたよ。」
「何がでしょうか。」
アデリアの口角が上がった。
「今日また呼べるようになった。」
ミレイユはアデリアほど喜ばなかった。
「そうですか。」
「なんでその反応?」
「一週間待ったのは私ではありませんので。」
「今日の午後だったよね?」
「はい。陛下が午後二時とお決めになりました。」
アデリアがベッドから降りた。
「思ったより長く待ったな。」
「正確に七日でした。」
「だから長く待ったって言ってるの。」
ミレイユはあえて反論しなかった。
王宮東側には騎士団が使う訓練場がいくつかあった。
その中で最も小さい屋内訓練場が一つ、丸ごと空けられた。
普段は騎士十人ほどが対련できる空間だった。
今日はそれよりずっと少ない人間だけが入っていた。
国王エドガール。
王室魔法使い一人。
ローウェンともう一人の近衛騎士。
記録官。
ミレイユ。
そしてアデリア。
テオはドアの外を守った。
アデリアはその人数を数えてから父を見た。
「最小限って言ってたのに。」
エドガールが平然と答えた。
「最小限だ。」
「七人もいるのに。」
「お前を含めて七人だ。」
「それが重要ですか?」
「かなり重要だ。」
アデリアが唇を少し尖らせた。
訓練場の一角にはテーブルと椅子が用意されていた。
水と簡単な食べ物も置かれていた。
もし召喚された人間に問題が起きた場合に備えたものだと言っていた。
壁際には剣と盾もあったが全部遠くに片付けられていた。
最初の召喚者が戦いに長けていた分、今回もどんな人間が現れるかわからないためだった。
エドガールが聞いた。
「条件は?」
アデリアが答えた。
「応急処置が上手い人間。」
記録官のペンが動いた。
エドガールが眉を少し動かした。
「理由は?」
「前回は戦いが上手い人間を呼んだでしょう。」
「それで?」
「他の種類もちゃんと探し出すか見てみたくて。」
「その中でも応急処置か。」
アデリアが頷いた。
「誰かが怪我をした時すぐ役に立つ能力じゃないですか。」
エドガールはしばらく考えた。
悪い選択ではなかった。
危険性も相対的に低い。
何より召喚権能が本当に戦闘能力以外の条件も正確に見つけ出すのか確認できた。
「よかろう。」
アデリアが目を細めた。
「許可された気分でちょっと変な感じ。」
「許可したのだ。」
「だからです。」
エドガールは聞こえないふりをした。
王室魔法使いの中年男性が一歩前に出た。
「殿下。」
「はい。」
「召喚が始まったらできるだけ動かないでください。」
「なんで?」
「魔力の流れを確認しなければなりません。」
「私が動いたらできないの?」
「難しくなります。」
アデリアがエドガールを見た。
「もう面倒だって言ったじゃないですか。」
エドガールは答えなかった。
アデリアはため息をつきながら訓練場中央に立った。
ステータスウィンドウを開いた。
[人間召喚 Lv.1]
[条件スロット : 1]
一週間ぶりに見る文章だった。
アデリアが口を開いた。
「応急処置が上手い人間。」
[条件 : 応急処置が上手い人間]
[召喚しますか?]
エドガールが聞いた。
「今何が見える?」
「条件が入力されました。」
「他には?」
「召喚するか聞いてます。」
記録官のペンが再び動いた。
アデリアが言った。
「押します。」
そして指で文字を押した。
[召喚]
やはりすぐには現れなかった。
[条件に適合する人間を探索中です。]
アデリアが言った。
「探してます。」
「探す?」
「条件に合う人間を。」
王室魔法使いが周囲を確かめた。
まだ魔力の変化はなかった。
時間が流れた。
十秒。
二十秒。
三十秒。
アデリアが眉をひそめた。
『前回より長いな。』
しばらくして。
[条件一致対象を発見しました。]
[安全な転移時点を確認します。]
「見つかった。」
エドガールがすぐに聞いた。
「召喚されるのか?」
「まだです。」
アデリアは慣れた様子で次の文章を読んだ。
「安全な転移時点を確認するって。」
王室魔法使いが初めて反応した。
「安全な転移?」
「はい。」
「対象が危険な状況にいる場合はすぐには連れてこないという意味かもしれませんね。」
アデリアが彼を見た。
それは自分も考えていなかった。
田中隼人はジムで休んでいる最中だったと言っていた。
ならばあの時も安全な瞬間を選んだのだろうか。
アデリアがステータスウィンドウを見た。
一分が過ぎた。
しかし依然として変化がなかった。
「時間かかるね。」
エドガールが聞いた。
「前回は?」
「これより短かったです。」
王室魔法使いが言った。
「条件に合う対象が今すぐ移動できない状況にある可能性もあります。」
アデリアが少し眉をひそめた。
「じゃあどれくらい待てばいいんですか?」
当然答えはなかった。
ステータスウィンドウはいつもそんな調子だった。
必要な瞬間には何も教えてくれない。
また時間が流れた。
二分。
三分。
記録官がずっと時間を書き留めた。
アデリアが腕を組んだ。
「まさか一時間待つんじゃないでしょうね。」
エドガールが言った。
「静かに待て。」
「お父様は待って三分しか経ってないでしょう。」
「お前もだ。」
「私は一週間待ちました。」
エドガールは娘を見てからただ無視した。
そして約五分ほど経った時。
ステータスウィンドウが変わった。
[安全な転移時点を確認しました。]
[対象を召喚します。]
アデリアがすぐに言った。
「来ます。」
王室魔法使いの手が動いた。
魔力測定用の水晶がかすかに光った。
近衛騎士たちも姿勢を正した。
訓練場中央。
アデリアから数歩離れた空間が揺らぎ始めた。
田中隼人が現れた時と同じ現象だった。
虚空が歪み。
淡い光が集まった。
そして――
人間が一人現れた。
「……あれ?」
女だった。
濃い茶色の髪を一つに結んでいた。
年齢は三十前後くらい。
紺色のズボン。
濃い色の半袖シャツ。
胸にはアデリアが読めない文字が書かれていた。
腰にはいくつもの小さなポーチがついていた。
そして両手には青い手袋をはめていた。
女は現れるとすぐ周りを見回した。
表情が強張った。
「What the——」
アデリアにはその言葉が自然に理解できた。
『何よ?』
女が自分の手を見下ろした。
そして周りを見た。
石造りの壁。
王服を着たエドガール。
鎧を着た騎士たち。
長いローブを着た魔法使い。
最後に自分をじっと見つめるアデリア。
女の表情が急速に変わった。
驚き。
警戒。
そして混乱。
「ここどこですか?」
アデリアが心の中で考えた。
『今回も言葉は通じるな。』
エドガールの視線がすぐにアデリアに向かった。
アデリアが小さく頷いた。
通訳は問題ないという意味だった。
女が一歩後ろに下がった。
「ちょっと待って。」
両手を上げた。
「私さっき救急車の横にいたんですけど。」
アデリアの目つきが動いた。
救急車。
初めて聞く単語だった。
女は素早く周りを確認した。
「私のパートナーはどこにいます?」
アデリアが聞いた。
「パートナー?」
「一緒に働いてる人です。」
女の表情に不安が広がった。
「患者引き継ぎ終わって車に戻ってる途中だったんです。確かに病院の駐車場だったのに……。」
アデリアはステータスウィンドウを見た。
安全な転移時点。
患者を治療している最中には連れてこなかった。
引き継ぎまで終えて移動していた瞬間を待ったのだ。
王室魔法使いが低くつぶやいた。
「本当に安全な瞬間を待ったのか……。」
女の視線が彼に向かった。
「どういうことですか?」
アデリアが前へ一歩出た。
「まず落ち着いてください。」
女がすぐにアデリアを見た。
「落ち着けって?」
声は落ち着いていたが表情は全くそうではなかった。
「さっきまでいた場所が消えたのに、落ち着けって言葉が役に立つとは思えませんが。」
アデリアが一瞬口をつぐんだ。
田中隼人と少し似ていた。
召喚された人間たちは思ったより自分の言うことをよく聞かなかった。
アデリアが言った。
「あなたをここに呼んだのは私です。」
女の視線がアデリアに固定された。
「何ですって?」
「私が召喚しました。」
短い沈黙。
女がゆっくり聞いた。
「召喚?」
「はい。」
「人をですか?」
「人間をです。」
女はしばらくアデリアを見つめた。
そしてとても慎重に聞いた。
「これ、もしかして誘拐ですか?」
アデリアの顔が少し強張った。
田中隼人も似たようなことを言っていた。
『なんでみんなそっちに考えるの?』
自分が望んで連れてきたのは事実だが。
帰すこともできる。
多分。
「三時間経てば戻ります。」
女の目が見開かれた。
「三時間?」
「前回はそうでした。」
言葉が落ちた瞬間。
アデリアはごくわずかに固まった。
女の視線も変わった。
「前回?」
アデリアは口をつぐんだ。
わざわざ言う必要のない情報だったのに。
後ろでミレイユが静かに視線を落とした。
アデリアは何事もなかったかのように話を続けた。
「とりあえず名前は何ですか?」
女はすぐには答えなかった。
周りをもう一度確かめた。
武器を持った人間。
閉じたドア。
見知らぬ空間。
そして自分を呼んだと主張する銀金髪の少女。
しばらくして答えた。
「サラ・ミラー。」
「サラ・ミラー。」
アデリアが名前を繰り返した。
「年齢は?」
「二十九。」
「仕事は?」
サラの目が細くなった。
「それを知って呼んだんじゃないんですか?」
アデリアの口角がほんの少し上がった。
今回は条件が正しく合ったか確認する番だった。
「正確には知りません。」
「じゃあなんで私を——」
「応急処置が上手い人間を呼んだんです。」
サラが止まった。
表情が微妙に変わった。
「……応急処置?」
「はい。」
「それで私が選ばれたと?」
「多分。」
サラは数秒間アデリアを見つめた。
そして短くため息をついた。
「Paramedic。」
アデリアが目を瞬かせた。
「何ですって?」
「私の職業です。」
サラが胸の辺りを指した。
「Paramedic。救急救命士だと理解すればいいと思います。」
アデリアの目が輝いた。
条件はまた合っていた。
戦いが上手い人間を呼んだら田中隼人。
応急処置が上手い人間を呼んだらサラ・ミラー。
二回。
偶然と言うには正確すぎた。
エドガールも同じことを考えたようだった。
「アデリア。」
「はい。」
「条件選択は正常に機能しているようだな。」
アデリアが頷いた。
「ですね。」
サラが二人を交互に見た。
「ちょっと待って。」
視線がエドガールの王服に留まった。
そしてアデリア。
騎士たち。
魔法使い。
再びアデリア。
「今ここ一体どこですか?」
アデリアが答えた。
「ローゼンハルト王国。」
サラの顔が強張った。
「初めて聞きますけど。」
「どこの国から来ましたか?」
「アメリカ。」
アデリアは初めて聞く名前だった。
「アメリカ?」
「United States。」
やはり初めて聞く。
アデリアがエドガールを見た。
エドガールもごくわずかに首を振った。
彼もわからないという意味だった。
アデリアが再びサラを見た。
「地球から来ましたか?」
サラの目が見開かれた。
「……地球を知ってるんですか?」
今度はアデリアがほんの少し笑った。
「聞いたことはあります。」
サラの表情が完全に変わった。
「誰にです?」
アデリアはしばらく悩んだ。
そして答えた。
「前に会った人間に。」
「ここに他の地球の人がいるってことですか?」
「今はいません。」
「今は?」
サラが一歩前に出た。
「その人はどこに行ったんですか?」
「戻りました。」
「地球に?」
「ステータスウィンドウには帰還したと出ました。」
サラの口が少し開いた。
「ステータスウィンドウ……。」
アデリアはその反応を見て一つ気づいた。
田中隼人もそうだったが。
この人間たちもステータスウィンドウという概念自体を不思議に受け止めるようだった。
その時だった。
「お嬢様。」
ドアの外からテオの声が聞こえた。
普段より急いでいた。
ローウェンがすぐドアを見た。
「何事だ?」
ドアが開いた。
テオが入ってきた。
表情が強張っていた。
「申し訳ありません。」
彼がエドガールに頭を下げた。
「訓練場の外で事故がありました。」
エドガールの目つきが変わった。
「事故?」
「馬が一頭驚いて倒れ、御者が一人怪我をしました。」
サラはその言葉を聞いてすぐ顔を向けた。
「どれくらいひどく?」
テオが一瞬たじろいだ。
初対面の女性がすぐ質問してくるとは思わなかったようだった。
「脚を大きく怪我したようです。頭も地面にぶつけました。」
サラの表情から混乱が消えた。
さっきまで自分がどこにいるかもわからず戸惑っていた人間とは全く違う顔だった。
「意識はありますか?」
「それは——」
「息はしてますか?」
テオが答えられなかった。
確認していなかったようだった。
サラはすぐに腰につけたポーチを確かめた。
そしてドアの方へ動いた。
ローウェンが反射的に道を塞いだ。
「しばし。」
サラが止まった。
「なんですか?」
「外へ出ることはできません。」
「人が怪我したって言ってるでしょう。」
「宮廷医務官を呼んでおります。」
「いつ来るんですか?」
ローウェンが答えられなかった。
サラが彼をまっすぐ見た。
「頭を怪我した人は待ってくれません。」
第10話です。




