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3 なんだって?

ドアを開き、突然現れた少年に驚いて目を剥く。


「#$%&*@!!?!!?」


年齢は10歳くらいだろうか。世界のすべてが白い時点で覚悟していたが、この少年も白い。髪、肌、瞳、服、すべてにおいて真っ白だ。にも関わらず、部分部分を識別できるのは、やはり白にもグラデーションがあるからなのだろうか。


(白って200色あんねん)


脳内で某モデルの名言がブレインジャックしてくる。


少年は目を見開き、とても驚いた表情でこちらに必死に話しかけてくる。


「♀#§◈☄★✖!!!!!!」


しかし、何を言ってるのかさっぱり理解できない。おそらくここの世界の言語なのだろう。この世界には存在しない「白以外の色」を全身に纏った私を見て、驚愕しているに違いない。


ベッドに横になった状態で、少年の様子を凝視するが、脱力し、何をする気も起きない。なぜなら、「お腹がすいて力が出ない」からだ。そのまま意識が飛びそうになる。


「◇◈‰¶§†‡ @!!!!!」


私の異変に気づいた少年は、さらに慌てて何かを叫んでいる。


(…にしても、美しい少年だな。)


全身が白いことで、勝手に神々しさを感じてしまっているのかもしれないが、それにしても整いすぎている。通った鼻筋、小さな顔、深い彫り。頬はふっくらとした丸みがあり、幼さと愛らしさが同居していた。


「天使か……?」


そう呟き、私の意識は途絶えた。


◇


体を揺らされる感覚で目が覚める。

起き上がり、周りを見渡すと、いつもの小屋の中のベッドの上だった。そばには心配そうな顔をした白い少年が寄り添っている。私は、ほっと胸をなでおろした。


(どこかに連れて行かれてなくてよかったーっ!少年よ、本当にありがとう!もしこのままどこかに運ばれていたら、動物園のパンダ状態になるならまだマシだけど、最悪研究所で解剖とかされるところだったよ。この世界に白しか存在しないのか知らないけど、今の私はきっと未確認生物だから。)


思わず少年の方に向き直り、満面の笑顔で親指を立てる。少年は心底安堵したような表情を浮かべ、また話しかけてきた。


「#$%&* ‡†§¶‰@??」


(……はぁ。なんて言ってるんだろう。これは…「どこから来ましたか?」か?「体調は大丈夫ですか?」か?)


とりあえず私も言葉を発する。


「私は、地球の日本というところから来ました。ここはどこですか?」


私の言葉を聞くと、少年は驚いた顔をして、なにやら考え込み始めた。まあ、彼にとっても意味不明な言語だったのだろう。


(…う〜ん。このままだと一生会話が成立しないな。どうしたことやら。そういえば、いつの間にか空腹が収まっている気がする。一体なぜ?)


考え込んでいる少年を観察していると、白い瓶状のなにかを腰に携えているのが見えた。


(……あれになにか入ってるのか?)


こちらの視線に気づいた少年は、瓶状のなにかを手に持ち、そっと渡してきた。少し警戒しながら受け取ると、瓶状のなにかのひんやりとした感覚が伝わってくる。


(瓶状のなにかではなくて、普通に「瓶」なのかも。)


上部にはコルクらしきなにかが詰まっている。きっとコルクだろう。この世界はすべてが白いから、初見では「らしきなにか」と付けないと違和感がすごい。

それはさておき、中身が気になった私はコルクを指さして、開けるジェスチャーをしてから、自分を指差し、オッケーポーズを作ってみせた。「開けてもいい?」と聞いたつもりだが、伝わっているかは分からない。


すると少年は何を察したのか、私から瓶を受け取り、自らコルクを抜いて差し出してくれた。


受け取って瓶の開け口を鼻に近づけ、クンクンと匂いを嗅いでみる。とても甘ったるい香りがした。


(……なんだこれ?)


首を捻る私を見て、少年は手で丸を作って、飲む動作をする。


(「飲め」ってことですか?ちょっと怖いな。)


意を決して瓶を少し傾けて、ちょびっと口に含む。


(…少し甘くて、自然の味がする。匂いほど甘くないな。これは…ココナッツミルクか?ココナッツミルクがこの世界に存在しているのか知らないけど、ふつうに美味しい。)


少年に向かって再び笑顔で親指を立てて見せると、少年もパッと花が咲いたような笑顔を返してくれた。


(…かっ、かわいいっ!なんてかわいい笑顔なんだ。守りたい、この笑顔。)


今までの困難な状況に疲弊していた私の心は、見事に撃ち抜かれた。


(もしかして、倒れている私にこれを飲ませてくれたのかな。中身、だいぶ減ってるし。ありがとう、少年。君にはお世話になってばかりだよ。)


少年に瓶を返す。


(……にしても、どうしよっかな〜。言葉が通じないし、この世界について何も聞けないよな。)


少年は、考え込むのをやめて、どこか困ったような顔でこちらを見ている。


(分かるよ。私も困ってるよ。でも、君は私を置いていっていいんじゃないかな。

う〜ん…言葉ねぇ。言葉言葉……。言葉といえば、英語の授業でも、古文漢文現代文の授業でも大変お世話になってる、電子辞書とか?電子辞書でどうにかなるわけないよな。)


何もしないよりはマシなので、どうにかなるわけないと思いつつも、リュックの中から電子辞書を取り出す。少年はそれを不思議そうな顔で見つめていた。電子辞書を起動する。


(いや、起動したとて。どうするんだい。)


そう思いつつ、電子辞書をいじる。辞書の一覧を開いたり検索してみるが、当然状況はよくなるはずもない。設定を開くと、画面の明るさや文字の大きさを変更する項目が出てくる。最後に、「追加コンテンツ」の項目が出てくる。


(追加コンテンツと言われましても。Wi-Fiないから、ダウンロードできないし。ま、あとはSDカードだけだよね。そんなもの都合よくあるわけ……。


…………………………………………ん?


あれ…?そういえば、拾ったよな。SDカード的ななにか。たしか、ポケットに入れたような。)


制服のポケットの中に手を入れて、その「SDカード的ななにか」を取り出す。そして、恐る恐る電子辞書のSDカード挿入口に差し込む。



ピカッ!!



電子辞書の画面からだとは思えないほどの、眩い閃光が小屋の中を満たした。



「「眩しいっっっ!!!」」



二人の声が重なり、お互いの声にびっくりする。



「言葉が通じたっっっ!!!」



少年は驚きを声ににじませて叫ぶ。



(……ああ、なんてご都合主義なんだ!!)






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